愛した人は悪い人

はなおくら

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 止まれば冷たい風が容赦なく体を貫き動いている時よりも尚、冷たく襲いかかる。

 でもジーヌは満足だった。もうじき自分は死ぬ…。父と母の元へ行けるのだからと。

 目を閉じて死を感じていたその時、ザクっザクっと誰かがゆっくりと歩いている足音が聞こえてきた。

 ジーヌはそんな事気にも留めずに、地面を見つめて微動だにしなかった。

 足音は早くなり音が近づいてくるようだった。しかし気にも留めずに、地面を見る。

 足音が横に近づいたその時、ふわっと体が抱きしめられていたのをジーヌは感じていた。

「カルアっ…‼︎」

 普通ならこの状況に戸惑うのだろうが、ジーヌの身体は限界を超えていた。
しかし目の前には幼さを残した少年が、必死にこちらを呼びかけていた。

 声は聞こえないが、黒い長髪の髪があまりにも綺麗で見惚れながらジーヌは意識を手放した。

 暗く当たりが見えない中にジーヌは立っていた。ここがあの世なのかと冷静に考えていた。

 ふと光がさして目の前を見ると、背を向けている両親がいた。

「お父さんっ!お母さんっ!」

 涙で前が見えなくなっても、必死に叫び続けた。自分も同じところへいこうと走っていくと。

「だめっ!」

 耳元に母の声が聞こえてきた。その瞬間、意識がふわっと戻った。

 目が覚めれば、気を失ったところに座り込んでいた。だが体に毛布を巻かれて、こちらを心配げに見つめている少年がジーヌを抱えて見つめていた。

 その周りでは人が慌ただしく動いている。

「貴方は……?」

 虚げにそう聞いたジーヌに少年は答えた。

「私はレイモンドだ。もう安心していい、今から暖かい所に連れていく。今は眠れ。」

 レイモンドと名乗る少年の言葉を聞き目が自然と閉じていき、深い眠りに落ちていった。

 パチパチ…パチパチ…。

 ジーヌは目が覚めると、目の前には暖炉が火を灯している。自分がベッドに寝かされているのだとわかったが、体がピクリとも動かず、ただ火の動きを眺めていた。

「目が覚めたか?」

「………。」

 声がだせず、返事もできないが声のある方へ視線を向け目を見張った。黒い長髪に銀色の瞳を持ち、この世で見た事ないほど美しく、ジーヌは見惚れていた。

「お前はどこからきた?」

「………。」

「名は?」

「………。」

「家族はいるのか?」

「………。」

 レイモンドの言葉に何一つ答えられなかった。家族の事を考えれば胸が苦しいのに未だに泣けない。夢の中では散々泣いていたのに泣けないのだ。

「答えられないなら私が決めよう…。お前の名前はカルアだ。」
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