花嫁の勘案

12

　みんなで食事が終わり、片付けをして洗い物をしていた時だった。

　空いた窓の向こうから先生達の立ち話が聞こえてきた。

「ヴォルス様には感謝だわ。ここの支援もしてくれて。」

「そうね。奥様のナタリア様も優しいお方だし。」

　2人褒めてもらえて嬉しい気持ちになった。

「そういえば、ニアがまたここに戻ってくるんですって！」

「本当に？彼女がきてくれたらまた園も活気付くわね。」

「そうね。でもニアも残念ね…せっかくヴォルス様がいらっしゃるのに…。」

「またお会いできるわよ。」

　わたしは何か違和感のようなものを感じた。

　ニアという女性はおそらくここの園に関係のある人物なのだろうと思った。

　しかしヴォルス様と何か縁のある人なのだろうか？

　そんな事を考えながらわたしは手元に集中した。

　作業も終わってみんなが集まる広場に出ると、子供達とヴォルス様はそれに見知らぬ男性が丸イスに腰掛けていた。

　誰だろうと近づくと、私に気づいたヴォルス様は私の手を取って言った。

「ナタリア。君は初めて会うな？この男は僕が学園に通っていた頃の同級生だ。今は支援を共同でやっているんだ。」

　紹介された男性に目をやると、目の垂れた甘い表情を浮かべた男性が私に近寄ってきた。

「これはご婦人お初にお目にかかります。先ほど言われたようにわたしはシュリット子息とは、共同で支援しているバイデル伯爵と申します。」

「初めまして、伯爵様でしたか。ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。」

　まさか目上の位の人と共同とはどういう事なのだろう？

　私の表情を察したのかバイデル伯爵は砕けたように話した。

「私は以前まで子爵だったのです。その頃からシュリット子息とは知り合いでしたのでこのままの仲なのです。」

「そうでしたか…。ありがとうございます。顔に出ていた様ですね。」

「いえ。」

　バイデル伯爵はとてもいい人だと感じる。

　位が高いからといって偉ぶることもない。

「ナタリア。」

　名前を呼ばれて振り向くとヴォルス様は手を差し出してきた。

　差し出されたので手を合わせるとバイデル伯爵に挨拶もそこそこに子供達の元へ戻った。

　バイデル伯爵も用事があるからと園を出たのだった。

　子供たちがお昼寝を初めて私達も屋敷に戻る事にした。

　その馬車の中でヴォルスさまは窓を見ながら言った。

「昼食…子供たちから聞いた…。」

「はい？」

「私の好きなものを作ってくれた様だな。…うまかった…。」

　それからヴォルス様は何も聞く気がないという様に目を閉じた。

　彼の顔を見ると頬を赤らめておりわたしは彼に対して愛おしさを感じていた。