花嫁の勘案

19

　そんな事を考えていると、バンっとすごい勢いでドアが開いた。

　そこには、汗を流しながらこちらを見つめるヴォルス様がいた。

「ヴォルス様っ…！」

　彼のそばに駆け寄ると腰を引き寄せられた。

「どこか具合が悪いのか？」

　わたしの体や表情を伺う彼に私は何も言わずに帰ってきたのだと気がついた。

「ごめんなさい。体調がおかしかったものだから…黙って出てきてしまってすみません。」

「なんともないならいい…。」

　そう言って彼は私の肩に顔を埋めた。

　彼が心配してくれて抱き寄せてくれた。

　私にはこれで充分だと、自分に言い聞かせた。

　しばらくはヴォルス様がわたしの体調を気にかけてくれて夫人としての業務はなしになった。

　なんともないと伝えたのだが、大事をとってという事で、わたしは本当のことは言えず、従うことにした。

　しかし一日ずっと部屋にいると、あの時の光景が目に浮かぶ。

　2人は、一緒になれなくてしぶしぶ別れたものの出会って恋しさが増したのだろうか。

　そんな事ばかり考えてしまう。

　現実では、わたしを心配してヴォルス様はたくさんの贈り物をくれたり、一緒に過ごす時間を設けてくれている。

　今も彼の膝に頭を置いていると、優しく頭を撫でてくれる。

「何を考えてるんだ？」

「…何も………風が気持ちいいな…と…。」

「そうか…。」

　彼の返事を聞いて虚しい気持ちになった。


「もういいのか？」

「はい。ご心配をおかけしました。」

　しばらくしてわたしは実務に復帰することになった。

　今日も施設へと顔を出す予定だ。

　ヴォルス様と一緒に施設の前で馬車に降りると、子供達や先生が出迎えてくれる。

　その中にはニア様も見えた。

　彼女は私たち2人を見ている様でヴォルス様しか見ていない。

　ヴォルス様も彼女を見つめたまま微笑んでいる。

　わたしは知らぬふりをしながら子供達に挨拶していた。

「ナタリア、紹介しよう。この施設出身で、今は自立したニアだ。」

「お初にお目にかかります。奥様にご挨拶いたします。」

「こんにちは、お会いできて嬉しいです。」

　ヴォルス様から今日紹介された。

「私も仕事が落ち着いてる日は園にお手伝いにきています。」

　対面でみると、目がパッチリとして愛らしい女性だ。

「ありがとう。私もできることは力になりますね。」

　そう言って彼女と握手を交わした。

「ナタリア、少しでも様子がおかしければすぐに言ってくれ。」

「ありがとうございます。ヴォルス様、わたしはなんともありません。」

　ヴォルス様はそう言って離れていった、その様子をニア様は頬を染めて見つめていた。