花嫁の勘案

はなおくら

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 よくよく考えれば、本の中の世界に魅了されてヴォルス様に価値観を押し付けてしまっていたんだ。

 そう考えれば虚しい思いになった。

「ナタリア…。」

「……失礼します。」

 あれからわたしはヴォルス様を避けている。

 そんなわたしに彼は何かいいたげな表情を送ってくるのだが、私は見ないふりをしてその場を去った。

 前は必ず一緒にやっていたこともやらなくなった。

 彼がいると分かれば速やかにその場から去った。

 今は彼と話をしたくない。

 そんな気持ちだった。

 そんな日々が何日も続いたある夜、誰も寝静まった時刻、私の部屋のドアがゆっくりとなった。

 咄嗟に起き上がり、わたしは目の前にいる人影に声をかけた。

「だれっ…⁉︎」

 呼びかけてもよく見るとヴォルス様が立っていた。

「ナタリア、驚かせてすまない。…少し話せないか?」

「あの…。」

「…頼む…。」

 世も老けているとお断りの返事をしようとしたが必死な様子の彼に断ることができなかった。

「どうぞ…。」

 隣の椅子に、座ってもらう様呼びかけるとヴォルス様はゆっくりと座り込んだ。

「君に気を使わせてしまっているな…。」

「そんな事は…。」

「悪いな…ニアのことなんだが…事情を聞いたんだ。」

「何かあったのですか?」

「ああ…ニアが働いていた店主に有り金全て持って行かれてしまったらしい、そのせいで住むとこも追い出されたそうだ。」

「そう…でしたか…。それはお辛かった事でしょう…。」

「いま彼女は錯乱してて…ここにしばらく滞在してもらおうと思うんだ。もちろん時期が来たら出ていって貰うつもりだ。」

 気遣わし気にそう伝えるヴォルス様にわたしは頷いた。

 わたしが反対する権利もないのだから。

「それがいいです。わたしの事は気にしないでください。」

「ありがとう…。」

 ふとヴォルス様の手がわたしの頬を撫でた。

 わたしは咄嗟に顔を背けて、彼を拒否していた。

「ナタリア…?」

「あっ…。ごめんなさい…今日は疲れてしまっていて…。」

 そう言って取り繕ったが、ヴォルス様は唯悲しそうな顔でわたしを見つめていた。

「もう遅いですから…お戻りください。」

「…そうだな…またくる…。」

 ヴォルス様はわたしに再度伸ばした手を引っ込めて部屋に戻っていった。

「何してるんだろう…。」

 そんな事を呟きながらわたしは眠りについた。

 それからわたしの生活にはヴォルス様とニア様が並んで行動する姿が目につく様になった。

 使用人も気遣わし気にわたしを見てくる。

 私は毅然と気にしない様にした。
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