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導き
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ハンスが部屋を去った後、暫く立った頃ケロウが帰ったと、聞いたアビーは玄関へ向かった。
玄関へ降りる階段の下に、ケロウがハンスと話をしていた。アビーに先に気づいたハンスを見てケロウも振り返る。
ケロウの思考は暫く止まったまま、アビーを見続けていた。
変に思ったアビーは、階段を降りて行き声を掛けた。
「おかえりなさいませ、旦那様。どうかなさいましたでしょうか?…何か気になさることをしましたか?」
アビーが焦っている中、ケロウの後ろに控えているハンスは何やらニヤニヤ顔をしている。
思わず見惚れてしまったと、言い出せずケロウは、ハンスに向かって咳払いをした後、アビーを見た。
「なんでもない。待たしてすまない。さぁ…行こうか。」
そう言って、ケロウはアビーに手を差し出し、アビーも手を取った。
馬車に乗り込む2人をハンス、ケナを始め使用人たちが、見送った。
馬車の中、アビーが口を開く。
「旦那様、このドレスありがとうございます。…とても素敵です。」
アビーは、顔を赤くしながらお礼を伝えた。
「よく似合っている。やはりその色にして良かった。君の瞳の色に合わせたんだ。」
ケロウがそこまで自分の事を考えて考えてくれた事に、愛しさが強くなる。
幸せに浸っているアビーに、ケロウは不満気な表情で口を開いた。
「一つ気になる事がある。」
「なんでしょう?」
アビーは不安げにケロウを見つめた。
「アビー…私の名前はなんだい?」
「旦那様ですか?ケロウ様です。」
アビーが答えると、ケロウはわざと悲し気な表情で、
「名前を呼んではもらえないのかな?」
アビーは慌てた。屋敷で注意されていた事だった。
「申し訳ありません。……ケロウ様…。」
アビーは、恥ずかしげにケロウを呼んだ。
トクンっとケロウの心臓が鳴った。が咄嗟に焦った。自分は何をしているのか、アビーにリラックスしてもらおうと言った言葉がアビーの言葉一つで、ケロウを舞い上がってしまった。
(気をつけなければ…)
そう言って赤面のまま一つ咳をした。
「うん。よろしい。あっそうだ!」
そう言って、横から何やら箱を開けだした。
「すまない。本当は、帰ったら直ぐに渡そうと思っていたんだが…」
アビーは、なんだろうと思いながらも見守る。
「気に入ってくれると良いんだが…。」
緊張気味に出されたものグリーンの刺繍を施された靴だった。
「まぁ…素敵な靴…。」
アビーは、ハッとした。そういえば部屋靴のまま来てしまった事に今思い出した。
「ケロウ様…ありがとうございます。とても気に入りました。」
そう言って靴を受け取ろうとすると、ケロウは渡さずに笑顔のまま告げた。
「ちょっと待ってて…」
そうしてしばらくすると、前から声が掛かった。
「旦那様、お付きになりました。」
「わかった。アビー足を出して…」
そう言った後、ケロウはアビーの足元に膝をついた。
「旦那様!いけません!立ってください!」
アビーが立たせようとすると、
「しーっ」
と手に口を当て、アビーの足を掴む。アビーは真っ赤になりながらキュッと目を閉じた。
足に靴の感触がする。もしやと思い目を開けると、自分の足に先ほどの靴が穿かされていた。
「素敵…なんて綺麗な靴…。」
「綺麗なのは君だ、さぁ行こう。」
会場に向かった。アビー自身胸の高鳴りが収まらず、この感情を言葉にできなかった。
玄関へ降りる階段の下に、ケロウがハンスと話をしていた。アビーに先に気づいたハンスを見てケロウも振り返る。
ケロウの思考は暫く止まったまま、アビーを見続けていた。
変に思ったアビーは、階段を降りて行き声を掛けた。
「おかえりなさいませ、旦那様。どうかなさいましたでしょうか?…何か気になさることをしましたか?」
アビーが焦っている中、ケロウの後ろに控えているハンスは何やらニヤニヤ顔をしている。
思わず見惚れてしまったと、言い出せずケロウは、ハンスに向かって咳払いをした後、アビーを見た。
「なんでもない。待たしてすまない。さぁ…行こうか。」
そう言って、ケロウはアビーに手を差し出し、アビーも手を取った。
馬車に乗り込む2人をハンス、ケナを始め使用人たちが、見送った。
馬車の中、アビーが口を開く。
「旦那様、このドレスありがとうございます。…とても素敵です。」
アビーは、顔を赤くしながらお礼を伝えた。
「よく似合っている。やはりその色にして良かった。君の瞳の色に合わせたんだ。」
ケロウがそこまで自分の事を考えて考えてくれた事に、愛しさが強くなる。
幸せに浸っているアビーに、ケロウは不満気な表情で口を開いた。
「一つ気になる事がある。」
「なんでしょう?」
アビーは不安げにケロウを見つめた。
「アビー…私の名前はなんだい?」
「旦那様ですか?ケロウ様です。」
アビーが答えると、ケロウはわざと悲し気な表情で、
「名前を呼んではもらえないのかな?」
アビーは慌てた。屋敷で注意されていた事だった。
「申し訳ありません。……ケロウ様…。」
アビーは、恥ずかしげにケロウを呼んだ。
トクンっとケロウの心臓が鳴った。が咄嗟に焦った。自分は何をしているのか、アビーにリラックスしてもらおうと言った言葉がアビーの言葉一つで、ケロウを舞い上がってしまった。
(気をつけなければ…)
そう言って赤面のまま一つ咳をした。
「うん。よろしい。あっそうだ!」
そう言って、横から何やら箱を開けだした。
「すまない。本当は、帰ったら直ぐに渡そうと思っていたんだが…」
アビーは、なんだろうと思いながらも見守る。
「気に入ってくれると良いんだが…。」
緊張気味に出されたものグリーンの刺繍を施された靴だった。
「まぁ…素敵な靴…。」
アビーは、ハッとした。そういえば部屋靴のまま来てしまった事に今思い出した。
「ケロウ様…ありがとうございます。とても気に入りました。」
そう言って靴を受け取ろうとすると、ケロウは渡さずに笑顔のまま告げた。
「ちょっと待ってて…」
そうしてしばらくすると、前から声が掛かった。
「旦那様、お付きになりました。」
「わかった。アビー足を出して…」
そう言った後、ケロウはアビーの足元に膝をついた。
「旦那様!いけません!立ってください!」
アビーが立たせようとすると、
「しーっ」
と手に口を当て、アビーの足を掴む。アビーは真っ赤になりながらキュッと目を閉じた。
足に靴の感触がする。もしやと思い目を開けると、自分の足に先ほどの靴が穿かされていた。
「素敵…なんて綺麗な靴…。」
「綺麗なのは君だ、さぁ行こう。」
会場に向かった。アビー自身胸の高鳴りが収まらず、この感情を言葉にできなかった。
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