月夜の恋

出会い

　アビーはひたすら泣いた。誰もいない事をいい事に泣き続けた。やっと落ち着きを取り戻した頃、後ろから人の気配を感じた。

(もしかしてケロウ様……？)

　振り向くと、深い緑色の髪に、茶色い瞳をした青年が立っていた。

　どこか神秘的な雰囲気を持った青年は口を開いた。

「こんばんは。森の妖精さん…なにが悲しいの？」

　アビーは、何かに騙されているような心地だったが、とりあえず返事をした。

「いえ…なんでもありません。」

　しばらく沈黙が続いた後、青年がアビーの手を掴み言った。

「おいで!妖精さん!僕が元気が出るところに連れて行ってあげるよ！」

「えっ!ちょっと待ってください。」

　止めるアビーの声も無視して、青年は歩き出した。

　アビーは、早く帰らないとケロウが心配してしまうのにと思っていたが、どこか気持ちを紛らわせたい気持ちが勝ち。結局ついていってしまった。

　青年が立ち止まると、目の前に小さな湖が見えた。

　アビーは内心ここが？と思っていると青年が湖に顔を映すとアビーを呼んだ。

「おいで!いいものが見れるよ！」

　青年の言葉に従って、湖に顔を映すと自分の顔が見えた。

「私の顔が見えます……。」

　そう返すと、青年は笑い出した後言った。

「君は面白いね。顔を少し上げてごらん！」

　ムッとしたアビーだったが、言われた通り顔を上げると思わず笑顔が漏れた。

「うわー…なんて綺麗なの…初めて見た…‼︎」

　アビーが顔を上げた時、月と空の星々が、湖に映り幻想的な光景が見えていた。

「やっと笑ったね!実は、君が会場に入ってきた時から凄く気になってたんだ。」

「えっ？」

「どうにかお友達になれないかなって思って。僕と友達になってくれる？」

　友達が出来ることは、嬉しかったがこのパーティーが終わると普通の使用人に戻ってしまう、もう会う事もできないだろうと考えアビーは口を開いた。

「ごめんなさい…それはできないの…。
」

「どうして?」

「理由は、話せないけどもう会う事はできないの……。」

　すると青年は、寂し気にアビーを見つめていたが、ふとある鍵を渡した。

「これはなに？」

「たまに気晴らしがしたくなって、商人としてたまに店を開いてるんだ。だから君が会いたくなったらいつでも遊びに来てよ。」

　そう言われて、場所が書かれている紙を見てみると、ケロウの領土だった。それならとまた逢いに行くと約束した。

　2人で、静かに話し合っているとアビーは時間が経っている事を思い出した。

「もう戻らないと!ケロウ様が心配してしまう‼︎」

　アビーはいつのまにか青年に敬語無しで話せている程仲良くなっていった。

「ケロウ様って、君のパートナー?」

「そう…お待たせしてしまってるかも…」

「ふーん……仕方ない戻ろう。」

　青年は不満気だったが、アビーの手を握り元の道を案内してくれた。

しばらくすると、屋敷が見えてきた。

「もうすぐね!ありがとう案内してくれて!」

「いいえ。僕はもう少しこの辺を散策するからもうお戻り。いつでも遊びにきてよ。」

「ありがとう!そういえばあなたのお名前は？」

「次会ってからのお楽しみ…じゃあね。
」

　そう言って繋いでいた手が離れ、彼は去って行った。

しばらく彼を見送っていると、ふと後ろから閉じ込めるように抱きしめられていた。