月夜の恋

憂い

「…はー…。」

　アビーの支度を終え、戸を閉めた瞬間ケナの口から息が漏れた。

　まさかリリーがここまで気にしていたとは、ケナ自身も驚きだった。

　部屋に戻ろうと、歩いていると前からハンスが来た。

「ケナさんお疲れ様です。これからお戻りで?」

「あぁ…。何かあったんですかい？」

　ケナが怪訝な顔でハンスをみると、ハンスは申し訳なさそうに言った。

「旦那様が聞きたいことがあるとお呼びなんです。」

　ケナは、アビーからの話でなんとなく察しはついていた。

「あぁ…わかりましたよ。行きましょうか。」

「気にならないんですか?」

　ハンスが不思議そうに聞くと、

「だいたい察しはついてるのさ。」

　そう言って、2人でケロウの自室に向かった。

「「失礼します。」」

　ケナはハンスと共に中に入ると、お辞儀をしてケロウの顔を見た。

「夜遅くに呼び出してすまない。アビーの事なんだが、何か変わった事はなかったか?」

「変わった事とは?」

　ケナが怪訝そうな顔をするので、ケロウは言いづらそうに口を開いた。

「アビーが、元気がない様に見えてね。何か聞いてないかと…。」

　その言葉にやはりとケナは思った。

「そうですね…前の使用人のリリーと話した。そう言っていましたよ。」

「あぁ…何か言っていたかい?」

「そうですね。前の奥様の事を少し聞いたみたいです。」

「そうか…。」

「旦那様。私使用人が口を挟む事ではないのですが、相手に自分の気持ちを言葉で話さなければ伝わらない事があります。旦那様の言葉でいいのです。アビーとお話をされてはいかがでしょう?」

「そうだな…すまないなケナ…。」

そう礼を述べると、再び口を閉じた。

　ケナはお節介とはわかってはいたが言わずにはいられなかった。

　そして何よりケロウが、アビーに出会った事で気持ちに変化が有ると気づいていた。

(周りは皆わかっているのに、旦那様とアビーは鈍感なのかね…。)

　そう言って心の中でケナは憂いていたのだった…。