愛しい貴方へ

はなおくら

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 翌日からタケトルは早速と言わんばかりにケルトの部屋に訪れた。

 スサリアはもちろんのことタタラも緊張した面持ちで見ていたが、タケトルはタタラを退室させると、嬉しそうに我が子を抱いた。

「ケルトはいい子だな。」

 そう言って頭を撫でた。

 この時スサリアは、生まれる変わる前にも同じ光景を目にしていた。

 その時は幸せで、この形が崩れる事を疑いもしていなかった。

 ふと頬に手が触れた。
 ハッとして顔を上げるとタケトルがこちらを見つめ言った。

「私は今とても幸せだ。其方がいて我が子を抱けて…。」

 王タケトルからの言葉に複雑な思いに駆られる。

 これがずっとで有れば…。

 そう思わずにいられない。

 スサリアは作り笑いを浮かべて応えた。

「私もです…陛下…。」

 その時ケルトが大泣きを始めた。
 スサリアは慌てるタケトルからケルトを抱き上げ、子守唄を歌った。

 するとあっという間にケルトはすやすや眠りについた。
 ほっと一息つき、ベッドへと寝かせた。

 視線を感じ顔を上げるとタケトルが愛おしげにこちらを見ている。

「…スサリア…。」

「…えっ…?」

 スサリアは驚いた。
 彼から呼ばれるときには、其方や王妃と呼ばれていたからだ。

 名前で呼ばれることなど考えてみれば一度もなかった。

 戸惑うスサリアを知ってか知らずがタケトルは優しく抱き寄せた。

「スサリア…私は其方ともっと深い関係になりたい。今まで以上…それ以上に…。」

 予想外の言葉にどう返事をしていいのかわからない。

 目を強く閉じて、軽くタケトルの胸を押した。

「陛下…そろそろ業務を始めなくては…。」

「そうだな…私は失礼しよう。」

 そう言ってタケトルは部屋を出て行った。

 スサリアは胸元をぐしゃっと握りしめた。
 胸がドキドキ言っている。驚いたからなのかそれとも…。

 それからタミラに会う日がやってきた。

 ぎょうむが忙しく見送りが出来ない事を詫びる文を、王専属の使用人から受け取った。

 正直それがなくてよかったも安堵していた。

 ケルトを抱いて、タタラと馬車に乗り込んだ。

 進む馬車の周りを四人の騎士が馬に乗ってついてくる。

 スサリアはタタラの表情を見て微笑む。

「嬉しそうね…当たり前かしら?」

 スサリアが笑って言うと、タタラは顔を赤くしていった。

「はい…。」

 そうして深い森に入った。
 ふたたび地図を広げて場所から確認する。

 御者には目的地の一歩点前で下ろしてもらった。

 騎士たちには、ここで待機するよう指示した。

 四人の騎士達は初め自分たちもついていくと言ったが、スサリアは手で制した。

 渋々と心配気な眼差しの兵士たちを背にケルトとタタラと共に歩き出したのだった。
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