愛しい貴方へ

はなおくら

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「国王陛下、王妃殿下に挨拶申し上げます。」

 こちらを不躾に見ていたが頭を上げた瞬間、こちらがわかるほど瞳を潤ませてタケトルを見つめた。

「………。」

 ケルトの挨拶にタケトルは何も言わずに見つめている。

 スサリアはこの日が来たと、覚悟を決め、懐に隠しているタラミからもらったリンゴを軽く握った。

 タケトルがケルアを見て魅了されていると思っているスサリアだが、タケトルは違った。

 先程、スサリアが笑みを浮かべて頬を赤くした来賓の青年を去る背中を見つめ続けている妃の姿を思い出していた。

 気にはしないでおこうと思っていたが頭に出て来ると嫉妬でおかしくなりそうになる。

 彼女から作られた微笑みを見ることがあっても心の底から笑った顔を見ていない。

 だが彼女は自分には見せない純粋な笑みを他の者には惜しみなく向ける。それが腹が立って仕方がなかった。

「陛下……陛下?」

 その時スサリアの呼びかけに来賓の挨拶の途中なのだと気がついた。

 スサリアは、しばらく黙ったままケルトを見つめる国王に流石に他の来賓がいる前ではまずいと声をかけた。

 声をかけられたタケトルは慌てて笑みを作り言った。

「ケルト嬢、遠いところから来られたこと感謝する。この夜会をとくと楽しまれよ。」

「はい…陛下にお会いできたことは私の人生の喜びです…。」

 しおらしい素振りで、タケトルを見つめてゲシュ男爵の後ろをついて去っていった。

 スサリアは急ぎスルトの顔が見たくてたまらず落ち着かずにいた。

 来賓の挨拶も残り王妃がいなくても済むと判断して、タケトルに声を掛けた。

「…陛下…申し訳ありませんがお先に退席してもよろしいでしょうか?」

「どうした?」

「いえ…少し人酔いをしたようでして…申し訳ありません…。」

「そうか…わかった。ゆっくり休むと良い。」

「ありがとうございます。」

 そう言って、会場を後にした。その後ろ姿を追うような目でタケトルが見ていた事も知らずに。

 会場を抜けて廊下を歩いて、急足で息子の元へと向かった。

 スルトの部屋に入ると寝息を立てている傍らにタタラ、そしてスルトのベッドの横に座っている風がいた。

「王妃様、お疲れ様でございました。」

 事を察しているタタラが頭を下げる。

「ありがとう、タタラ。風もきていたのね。」

 頷くタタラの横で風がスサリアはに近づき頬に抱きついた感触がした。

 言葉は交わせないが、大丈夫と言われている気がした。

「ありがとう…風…。」

 風にお礼を言うと、風が優しい流れをスサリアの周りに包み込んだ。それがスサリアの疲れた体を癒してくれた。
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