19 / 47
19
しおりを挟む
「国王陛下、王妃殿下に挨拶申し上げます。」
こちらを不躾に見ていたが頭を上げた瞬間、こちらがわかるほど瞳を潤ませてタケトルを見つめた。
「………。」
ケルトの挨拶にタケトルは何も言わずに見つめている。
スサリアはこの日が来たと、覚悟を決め、懐に隠しているタラミからもらったリンゴを軽く握った。
タケトルがケルアを見て魅了されていると思っているスサリアだが、タケトルは違った。
先程、スサリアが笑みを浮かべて頬を赤くした来賓の青年を去る背中を見つめ続けている妃の姿を思い出していた。
気にはしないでおこうと思っていたが頭に出て来ると嫉妬でおかしくなりそうになる。
彼女から作られた微笑みを見ることがあっても心の底から笑った顔を見ていない。
だが彼女は自分には見せない純粋な笑みを他の者には惜しみなく向ける。それが腹が立って仕方がなかった。
「陛下……陛下?」
その時スサリアの呼びかけに来賓の挨拶の途中なのだと気がついた。
スサリアは、しばらく黙ったままケルトを見つめる国王に流石に他の来賓がいる前ではまずいと声をかけた。
声をかけられたタケトルは慌てて笑みを作り言った。
「ケルト嬢、遠いところから来られたこと感謝する。この夜会をとくと楽しまれよ。」
「はい…陛下にお会いできたことは私の人生の喜びです…。」
しおらしい素振りで、タケトルを見つめてゲシュ男爵の後ろをついて去っていった。
スサリアは急ぎスルトの顔が見たくてたまらず落ち着かずにいた。
来賓の挨拶も残り王妃がいなくても済むと判断して、タケトルに声を掛けた。
「…陛下…申し訳ありませんがお先に退席してもよろしいでしょうか?」
「どうした?」
「いえ…少し人酔いをしたようでして…申し訳ありません…。」
「そうか…わかった。ゆっくり休むと良い。」
「ありがとうございます。」
そう言って、会場を後にした。その後ろ姿を追うような目でタケトルが見ていた事も知らずに。
会場を抜けて廊下を歩いて、急足で息子の元へと向かった。
スルトの部屋に入ると寝息を立てている傍らにタタラ、そしてスルトのベッドの横に座っている風がいた。
「王妃様、お疲れ様でございました。」
事を察しているタタラが頭を下げる。
「ありがとう、タタラ。風もきていたのね。」
頷くタタラの横で風がスサリアはに近づき頬に抱きついた感触がした。
言葉は交わせないが、大丈夫と言われている気がした。
「ありがとう…風…。」
風にお礼を言うと、風が優しい流れをスサリアの周りに包み込んだ。それがスサリアの疲れた体を癒してくれた。
こちらを不躾に見ていたが頭を上げた瞬間、こちらがわかるほど瞳を潤ませてタケトルを見つめた。
「………。」
ケルトの挨拶にタケトルは何も言わずに見つめている。
スサリアはこの日が来たと、覚悟を決め、懐に隠しているタラミからもらったリンゴを軽く握った。
タケトルがケルアを見て魅了されていると思っているスサリアだが、タケトルは違った。
先程、スサリアが笑みを浮かべて頬を赤くした来賓の青年を去る背中を見つめ続けている妃の姿を思い出していた。
気にはしないでおこうと思っていたが頭に出て来ると嫉妬でおかしくなりそうになる。
彼女から作られた微笑みを見ることがあっても心の底から笑った顔を見ていない。
だが彼女は自分には見せない純粋な笑みを他の者には惜しみなく向ける。それが腹が立って仕方がなかった。
「陛下……陛下?」
その時スサリアの呼びかけに来賓の挨拶の途中なのだと気がついた。
スサリアは、しばらく黙ったままケルトを見つめる国王に流石に他の来賓がいる前ではまずいと声をかけた。
声をかけられたタケトルは慌てて笑みを作り言った。
「ケルト嬢、遠いところから来られたこと感謝する。この夜会をとくと楽しまれよ。」
「はい…陛下にお会いできたことは私の人生の喜びです…。」
しおらしい素振りで、タケトルを見つめてゲシュ男爵の後ろをついて去っていった。
スサリアは急ぎスルトの顔が見たくてたまらず落ち着かずにいた。
来賓の挨拶も残り王妃がいなくても済むと判断して、タケトルに声を掛けた。
「…陛下…申し訳ありませんがお先に退席してもよろしいでしょうか?」
「どうした?」
「いえ…少し人酔いをしたようでして…申し訳ありません…。」
「そうか…わかった。ゆっくり休むと良い。」
「ありがとうございます。」
そう言って、会場を後にした。その後ろ姿を追うような目でタケトルが見ていた事も知らずに。
会場を抜けて廊下を歩いて、急足で息子の元へと向かった。
スルトの部屋に入ると寝息を立てている傍らにタタラ、そしてスルトのベッドの横に座っている風がいた。
「王妃様、お疲れ様でございました。」
事を察しているタタラが頭を下げる。
「ありがとう、タタラ。風もきていたのね。」
頷くタタラの横で風がスサリアはに近づき頬に抱きついた感触がした。
言葉は交わせないが、大丈夫と言われている気がした。
「ありがとう…風…。」
風にお礼を言うと、風が優しい流れをスサリアの周りに包み込んだ。それがスサリアの疲れた体を癒してくれた。
10
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる