婚約破棄されても貴方が好き

はなおくら

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「…頼み…とは?」

 訝しげに聞くと彼は言った。

「また以前の様に、僕の趣味の際身の回りの世話をしてもらいたい。」

「えっ?」

「君が驚くのも無理はない。だがあの旅行を思い出すと1人で行っていた頃よりも君と行った時の事を思い出す。一緒に言ってもらえないか?」

 私自身彼と2人で過ごしたあの思い出は宝物だ。彼も同じ気持ちでいてくれる事が嬉しかった。

「わかりました。私でよろしければよろこんで参ります。」

「ありがとう!……それから…昨日はすまなかった。そなたの休みを邪魔してしまったな。」

「いえ…お気になさらず。私はこれで…。」

 そう言って立ち上がると、彼は私の腕を掴んだ。

「最後に贈りたいものがある。」

 そういうと彼は立ち上がり私の背後に回ると、胸の前に手を回した。

 恥ずかしくなり目を瞑る。すると胸の上に冷たく硬いものの感触がした。

 目を開けて下を向くと、緑の宝石を羽根の様な形に細工したネックレスだった。

「…これは…?」

「昨日の詫びだ。君が身につけていてくれると嬉しい。」

「ありがとうございます。」

 彼の部屋を出て、胸の動悸がおさまらない。でも嬉しい、彼のものを身体に身につけられるだけで、心の底から力が湧いた気がした。

 それから私は仕事に精を出して働いた。

 そしてとうとう彼との旅行の日がやってきた。

 前の時の様に身軽な格好で彼と同じ馬車に乗り込んだ。目の前には微笑む彼がいて、距離が近いせいかどこか落ち着かない。

「気を楽にしてくれ。それから今からは、召使いとしてではなく、ありのままの君を見せてほしい。」

 元々同じ位にいたとはいえ、私も分別がつかない人間じゃない。

「それは…。」

「君は気にしなくていい。私の事は、アレクと呼んでほしい。」

 命令ではなく頼み事の様に彼が言う様子に私は頷いた。

 目的地に到着すると、そこは広い草原と大きな岩が所々にある場所だった。

「はぁ~…。とても素敵ですね。」

 息を吐いて吸い自然の空気を感じた。あたり一面広がっており、人間1人の悩みなど小さく感じるほどに。でもそうは言っても悩みがある事を無くすことはできない。

「あぁ…満たされた気になる。」

 彼の顔を見ると、侯爵家の跡継ぎの顔は剥がれ落ちて彼自身の本当の姿を垣間見た気がする。

 しばらく彼に見惚れていると、彼はこちらに気づき笑って返してくれた。

「どうした?」

「いえ…!私は荷解きの手伝いに行ってきます。」

「あぁ。」

 彼は笑って私を見送り返してくれた。私はこれから二人きりなのだと考えると、前回よりも緊張と喜びで胸が震えていた。



 
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