彼の優しさに触れて

はなおくら

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疑問

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「リューク…。」

「ん…?」

 私はあの日見た金髪の女性の事を聞いてみる事にした。

「貴方は覚えているかわからないけど…私が消える少し前に偶然見たの…。」

「……。」

 リュークはこちらが話し出すのを黙って聞いている。

「街中であなたと金髪のブロンドの女性を見かけたわ。あの方は誰なの?」

 リュークは目を見開いて答えた。

「君が見ていたなんて…。君が気にするほどでもない人だよ。」

 そういうとリュークは私を抱き寄せた。

「もう僕のそばを離れないでほしい。初めてなんだ…こんなに感情に抑制が効かない事は…。」

 ブロンドの女性の話は気になるが、いつか話してくれるだろうと気にしないようにした。

「リューク…。ごめんなさい…でも私がここにいればいつかあなたの身が危険に晒されるような…気がしておそろしいの…。」

 ランティアの国王がいつこちらに手を回してくるかわからない。リュークにどんな危害を送るのか想像もできずにいた。

「君がそんなに心配なら私からも少し調べることとしよう。君は何も心配せずにここにいればいい…。」

 リュークは私の頭を優しく撫でてくれた。彼に胸の内を打ち明けてよかったと安堵して、その日は眠りについた。

 とある日、リュークが公務に出ている間、1人庭園へと散歩に出掛けていた。

 ここの王宮は見ていて飽きない。すると目の前に王妃がおり、その横に見たことのある金髪のブロンドの女性がいた。

「…あの方は……。」

 しばらく凝視していると、その女性は涙を流しながら王妃の胸の中で身体を震わせていた。

 労わるかのように背中をさする王妃の姿に見てはいけないと来た道を戻ろうと歩き出した時。

「お待ちなさい。身分の上の者がいるというのに何も言わずに出ていくとはどういう了見かしら?」

 振り向くと、涙を流していた女性は、遠くの方で侍女に建物の中に連れて行かれていた。

「申し訳ありません。話の最中だったようでしたので、失礼をしてはと…。」

 そう言って頭を下げたが、頭上から馬鹿にしたような笑い声が聞こえてきた。

「ふふふっ…。どうやら小国では挨拶の仕方もわからないのですね。」

「…っ…!」

 理不尽に文句をつけられているがここで何かを返したとしてもこちらが悪者になってしまう。聞こえない程度に深呼吸をして再び頭を下げた。

「大変失礼を致しました。無恥な行いを恥じております…。」

「わかればいい…。さぁ…目障りだからもういきなさい。」

「…失礼します…。」

 頭を下げたまま3歩後退してその場を立ち去った。

 この国では、王族に歓迎されていない事はわかっていた。だが今の立場では、理不尽な中でも黙ってやり過ごすしかない。

 それでも気になったのは、あの涙を流していた女性だった。

 彼女は何者なのか…。

 それから私はあまり部屋を出る事をやめた。出ても嫌味を言われたりと碌なことがない。

 部屋では本を読んで過ごすことが多くなった。

 リュークは、そんな私を見て複雑な顔をしながら抱き寄せてくれた。

 彼にも立場があり、困らせたいわけではない。私は何も言わずに彼の背中へと手を回した。

「王妃様がお呼びです。」

 ある日突然、王妃から個人でのお茶会にお呼ばれした。

 急な誘いに戸惑ったが、考える時間もない。王妃を待たせればまた何を言われるかわかったものじゃない。

 私は急ぎ身支度を整え、王妃の庭園へと顔を出した。

「待っていましたよ。」

「ご招待ありがとうございます。王妃殿下。」

「座りなさい。」

 挨拶も早々に席に着いた。目の前では、紅茶を楽しんでいる様子だった。

「急な呼び出しをしてしまいましたね。貴方に忠告とお願いがあり呼んだのです。」

 王妃の声色には端々と棘がある。私は笑顔を作りながらも内心緊張していた。

「貴方がリュークと恋仲なのは、聞いているわ。貴方よりもリュークの方が熱を上げている事で貴方も安心でしょう。……でもね、王族には感情だけで動いていい事と悪いことがあるの。リュークにはもうじき正式な婚約者ができるの。小さい頃からの約束でね。」

 私は驚いた。ならなぜ、このように婚約者候補などという行事を行っているのか。王妃は私の疑問をもう知っているかのように語り出した。

「これはね、他の国に対しての見せしめであるのよ。そんな時に貴方がいれば、リュークはいい笑いものだわ。貴方の国は最も小国であり、物騒すぎる。」

 確かにそうだ。私がリュークの隣を歩けば、おとなしくしている隣国達が何をしでかすかわかったものではない。

「リュークの婚約者はリュークの事を愛しているの、2人は思い合ってきたのよ。それを貴方は横から入ってぶち壊したいの?その上、貴方がここにきた理由も私は知っていますよ。」

「なっ…なにをっ…。」

 まさか王妃がこちらの策略を知っているとは夢にも思わなかった。

 そして、彼には思い合っている人がいた事も…。

 目の前が真っ暗になる。次から休む事もなく来る攻撃に耐える事が苦しい…。

「申し訳ありませんが…失礼いたします…。」

 耐えきれなくなり、ふらつく体に力を入れて席を立ち上がるが、王妃はこれでもかと口を開いた。

「待ちなさい。貴方に用があるのはこれからよ。例の者を連れてきなさい。」

 額に汗を滲ませて椅子に片手を置いて立ち止まる。しばらくすると、黒髪に少しの髭を生やした男が、侍女に連れられてやってきた。

「……この者は?」

 私が問いかけると、王妃は真顔で言った。

「よく見てみなさい。」

 そう言われて目を見張った。この男に身に覚えがあった。

 それは昔……。

 国のスパイを捉える潜入捜査の為、ある村にやってきていた。

 そこで生活をするうちに、ある少女に出会った。最初こそ邪魔な存在だと、遠ざけるようにしていたが、その少女はなにかとこちらに近寄っては笑いかけて訳の分からない事を言っては無邪気に笑っている。

 そんな姿をみて、次第に心を開くようになっていった。

 目の前の髭の男こそ、その少女の歳の離れた兄である。

 2人は兄妹2人きりで暮らしていた。少女が私に懐くと、その男は遠慮気味に頭を下げていた。

 そんな関係が過ぎたある日、スパイを暗殺し、任務を終えた事でそのまま村を出ようとしたその時、

「おねぇちゃん…?」

 はっとした。振り返るとその少女が立っていた。

 その時心臓が痛いほど鳴った。血まみれの服を見られた。

 私は迷わず少女の体に刃を向けた。

 普通の感覚なら戸惑い逃げる事だろう。だが幼い頃から植え付けられた感情を変える事はこの時できなかった。

 少女が床に倒れた瞬間、私は一瞬戸惑い走り去っていた。
 私はこの時、罪悪感というものを初めて感じ取ったのかもしれない。

 そして今、目の前で私を睨む髭の男と向き合っている。

「その顔は、思い出したようね。この男は其方を恨んでいる。其方が今まで何をしてきたか、どんな罪を重ねてきたか嫌というほど思い出すだろう?」

 王妃は分かっていても私を責める。ただただ髭の男を見つめることしかできない。

「これで其方も自分の罪を自覚した事だろう。」

 膝がガクガクと震え上がった。
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