彼の優しさに触れて

はなおくら

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再会

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 気持ちが沈んでいる。今まで来たこともないほど煌びやかな赤いドレスを身に纏い、乗ったこともない豪華な馬車で、愛する人の国へと向かう。

 彼は今頃どうしてるだろうか、私を忘れて好きな相手と結ばれたのだろうか。

 彼の隣に違う異性がいる事が絶え難く、想像する事をやめた。

 この件が終われば、どこか遠くの田舎に行き、自分を知らない所で普通に暮らそう。そう思った。

「…リューク…愛してる…。」

 私は誰もいない向かいの席に彼の姿を見てそう呟いた。

 しばらくして、王都へと入った。ここは相変わらず笑顔の絶えない国だ。

 外国から来た馬車が珍しいのか、こちらをチラチラ見る人並みがうかがえた。

 そしてついに王宮が見えてきた。私のような婚約候補がぞろぞろと馬車を降りて建物の中へと入っていく。

 私も周りに合わせて、馬車を降り王の間へと足をすすめていく。

 建物の中は、目を見張るほど金で溢れかえっていた。それを白い壁が尚際立たせている。

 使いの者に案内させて奥へと進んでいく、扉の前で兵士が声をかければ、威圧のある声が返ってくる。その瞬間扉が開きまた歩き出した。

 中の様子を見ると、何十人といる護衛兵とその奥に3人の人影が見えた。

 椅子に座っている二人は王と王妃だ。肖像画を見た事が有り覚えていた。

 そしてその横の青年を見た瞬間、足が止まった。

 目の前にいたのは、三年一緒に暮らしていたリュークだった。

「…えっ……。」

 戸惑い足を止める。身体中から汗が流れていくのが自分でもわかる。

 王太子の格好をしたリュークは驚くこともなく、ただこちらを凝視するだけだった。

「どうした…無礼ではないか…。」

 その時、王妃と共に眉を寄せている王が言った。

 私の国との仲が悪い事を知っていた為、警戒されているのだとわかる。

「申し訳ありません。ランティア国から参りました。メソア・ランティアと申します。しばらくこちらにてお世話になります。」

 そう言って深々と頭を下げた。

「ふんっ!小国の人殺しめっ!…この国では好き勝手できない事を肝に銘じよ!」

「…はい…失礼いたします。」

 明らかな侮辱を受けたが、頭の上で聞き流して早々に退室した。

 婚約者候補に案内された部屋は広々としていた。そばで仕える侍女は早々に退室していき、一人になった。

 正直目を見張った。まさかリュークがこの国の王太子であったとは…。

 先程の謁見で彼は驚いた様子もなくこちらを見ているだけだった。

 でももう二人で過ごすことはできないのだと悟った。その時乾いた笑いと痛む胸だけが残った。

 その時、扉の叩く音が鳴り返事をした瞬間、扉が開きリュークが姿を現した。

 私は目を見張った。罵る言葉も出てこない。

 彼はなぜここにきたのか。私の姿を見てなぜ驚かないのか…。

「…メソア!」

 リュークは私の名前を呼び直ぐ様抱き寄せてキスをした。

「んっ…待って…!」

 リュークの胸を押して距離を離した。しかし唇の温もりを感じて言い知れないほどの恋慕が湧き上がる。

 高鳴る胸を押さえて、彼の行動にハッとした。彼は私の正体も全てわかっていて近くにいたのだと。

「リューク…あなたまさか私の正体を…。」

「あぁ…。知っていた。ランティアから刺客が来る事も、だから私は自ら囮となりそなたに近づいた。」

「なぜ…何故知っていて私を泳がせたの?」

「そなたを愛したから。」

 今何もかもお互いの立場もなしにして彼の胸に飛び込めたなら…。

 そんな事を考える。彼の熱い眼差しに心が解かされそうになる。

 ダメ…この人は敵…敵なのっ!

 そうきつく自分に言い聞かせて、彼に冷たい視線を送った。

「そう…でも今は何もかも興醒めだわ。」

 そう言って、二人きりになったこの時がチャンスと足の下に隠していたナイフを振り翳して彼に刃を向けた。

 がその刃は彼に届かなかった。手首を強く掴まれる。リュークは掴んでいない方の手を私の目元に持ってくると涙を拭った。

 その時私は涙を流していた上、体を震わしていた事に気がついた。わたしの負けだ。

 握っていたナイフを落としてリュークに向かって言った。

「あなたもわたしの目的を知っているのでしょう…?お願い…もう楽にして…。」

 愛した人に殺されるなら本望だと目を閉じた。しかしいくら経っても何の音もしない。

 目を震わせながら開こうとしたその時、身体を強く抱きしめられていた。

「私は君が何者でも関係ない。君だけを愛している。私を殺させないし、君を死なせない。」

 リュークの言葉が嬉しかった。しかし彼を殺さないということは、いずれ私は始末され、他の誰かが来ることだろう。だがリュークで有れば大丈夫だと思う確信があった。

 彼はそんなことで倒れることはないのは目の前で実感しているから。

「…お願い…あなたを裏切り殺そうとした。わたしを…っ…‼︎」

 命を差し出すと言おうとした瞬間、彼は床に座るわたしの体を押し倒した。

 手を頭上で両手でまとめ上げられ、スカートの中へと手を伸ばしていく。

「なっ…なにをっ…‼︎」

「君が命を捨てるというのなら、これからは私のものだ…!」

 そういうとわたしの太ももをいやらしく撫で回した。

「あっ…やめてっ…。」

 顔を逸らして、足を閉じて侵入を阻もうとしたが、わたしの太腿を撫でながら首筋に舌を這わしてくる。

「君がわたしの元を去る事は予知していた…。だが君がいなくなった事で私はどれほど傷ついたか…。」

 彼の悲痛な表情に何も言えなくなる。手を差し伸べて抱きしめたが押さえられている事が良くも悪くも助かった。

 その隙に、わたしの落としたナイフを掴みわたしの身につけていた洋服を切り刻みあられも無い姿にされる。

「はぁ…リューク……だめっ…!」

 慌てるわたしに彼は容赦なく身体中を弄った。三年間体を重ねていたからこそ彼は私の弱い所を念入りに攻めてくる。

「あっ…ダメっ…もう私たちは…っ…。」

「うるさい…もう何も言わなくていい…。」

 その瞬間、彼は私の中へといきなり入ってきた。

 彼に揺さぶられながら快感を受け止める。そして直ぐ彼は私の中に吐精した。

「はぁ…はぁ…リューク…あっ…‼︎」

 彼の方へ手を伸ばした瞬間、彼のものがまた大きくなり、私の中で動き出した。

「くっ…メソア…足りないんだ…。君が消えてから夜もろくに眠れずっ…君の残像をどれほど作り出したか…うぅっ…‼︎」

「ああっ…あっ…。」

 彼の揺さぶりに合わせて腰が動いていく。そしていつのまにか彼の体温を求めて自ら彼に抱きついた。

「メソア…メソアっ…!チュ…クチュッ…はぁ…はぁ…。」

「んっ…んっーー…っ!」

 そうして2人で果てていた。それからも何度も体を重ねて離れていた想いをお互いにぶつけ合った。

 夜も暗くなった頃、ようやく落ち着いた。

 リュークはメソアを抱き上げベッドに横たわらすと、使用人に素早く掃除をする様に言い付けて、私の顔をシーツに隠して抱きしめて眠りについた。

 それからは彼からの溺愛の毎日だった。彼は夜に私の元へ部屋を訪れ愛し合い、2人で眠り、彼の公務を見送った。

 ゆっくり過ごせる時には王宮の自慢の庭を眺めてしあわせな毎日だった。

 でもこんな日が長く続く事はないのだろうと思う。なぜなら解決しなくてはいけない問題が山積みな上、彼に対して疑問があったからだった。

 あの日、リュークの隣にいた金髪の女性は誰なのか…。まだ聞けていない…。
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