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夫41歳、妻22歳、娘6歳(8)
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オネルヴァは自分自身にそれまでの価値があるとは思えなかった。だからこそ、ゼセール王国を疑ってしまうのだ。いつか足元をすくわれてしまうのではないか、と。
「そのような不安な顔をするな」
アルヴィドはオネルヴァの隣に座った。彼の大きな手が伸びてきて、オネルヴァの頭を撫でた。
「顔色が悪い。そうやってすぐに何事も真面目に取り組むのは君のいいところでもあるが、限度を知らないのは悪いところでもある」
彼はテーブルの上に散乱している書籍にチラリと視線を向けた。
「君にばかり辛い思いをさせて、悪いとは思っている」
頭を撫でていた彼の手は、オネルヴァの藍白の髪をすくった。かさかさに乾いていたその髪も、ここにきてからは艶が溢れようになった。
「もっと早く君をあの場所から救い出すことができていたら、今頃君は……になっていたのかな?」
手にした髪の先に、アルヴィドは唇を落とした。
「お兄様?」
「すまない。少し、感傷的になってしまった。可愛い妹が嫁ぐのが、やはり寂しいようだ」
アルヴィドは慌てて彼女の髪から手を離した。
「お兄様と、お義父様には感謝しております。ですから、ゼセールへ嫁ぐのは、わたくしの意思です」
アルヴィドの笑顔はどこか苦しそうに見えた。
「今日は、君の相手が決まったことを伝えにきたんだ」
「わたくしの相手、ですか?」
「そう。君の嫁ぎ先」
オネルヴァは森のような深い緑色の眼を大きく見開いた。
「イグナーツ・ブレンバリ将軍を知っているか? ゼセール王国の軍人だ。そして、キシュアス再建のために、力を貸してくれた人物でもある。ゼセールの北軍を率いているから、北の将軍と呼ばれることもあるようだ」
ゼセール王国はキシュアス王国の南側にある。協力してくれたのが北軍であるのは、そういった地形的な意味もあるのだろう。それもここ数日間のうちに、オネルヴァが学んだ内容でもあった。
「はい、お名前だけは」
「君の相手だ」
「はい」
夫となる人物の名を告げられても、オネルヴァはその名を紙の上でしか知らない。彼の瞳は何色なのか、どのような髪型なのか、身体は大きいのか、いくつくらいの人なのか、何も知らない。
ただイグナーツ・ブレンバリ将軍という人物が存在していることしか知らないのだ。
「輿入れは、十日後」
「十日後、ですか?」
異例の早さといってもいいだろう。
「ああ。互いの国のためだ」
別に結婚したくないとか、行きたくないとか、そういった気持ちがあるわけではない。
オネルヴァは、純粋に相手が気になっていた。
「どのような方ですか?」
「誰が?」
「ブレンバリ将軍です」
オネルヴァの発言が面白くなかったのか、アルヴィドは目を細くした。少しだけ、睨んでいるようにも見える。
「そのような不安な顔をするな」
アルヴィドはオネルヴァの隣に座った。彼の大きな手が伸びてきて、オネルヴァの頭を撫でた。
「顔色が悪い。そうやってすぐに何事も真面目に取り組むのは君のいいところでもあるが、限度を知らないのは悪いところでもある」
彼はテーブルの上に散乱している書籍にチラリと視線を向けた。
「君にばかり辛い思いをさせて、悪いとは思っている」
頭を撫でていた彼の手は、オネルヴァの藍白の髪をすくった。かさかさに乾いていたその髪も、ここにきてからは艶が溢れようになった。
「もっと早く君をあの場所から救い出すことができていたら、今頃君は……になっていたのかな?」
手にした髪の先に、アルヴィドは唇を落とした。
「お兄様?」
「すまない。少し、感傷的になってしまった。可愛い妹が嫁ぐのが、やはり寂しいようだ」
アルヴィドは慌てて彼女の髪から手を離した。
「お兄様と、お義父様には感謝しております。ですから、ゼセールへ嫁ぐのは、わたくしの意思です」
アルヴィドの笑顔はどこか苦しそうに見えた。
「今日は、君の相手が決まったことを伝えにきたんだ」
「わたくしの相手、ですか?」
「そう。君の嫁ぎ先」
オネルヴァは森のような深い緑色の眼を大きく見開いた。
「イグナーツ・ブレンバリ将軍を知っているか? ゼセール王国の軍人だ。そして、キシュアス再建のために、力を貸してくれた人物でもある。ゼセールの北軍を率いているから、北の将軍と呼ばれることもあるようだ」
ゼセール王国はキシュアス王国の南側にある。協力してくれたのが北軍であるのは、そういった地形的な意味もあるのだろう。それもここ数日間のうちに、オネルヴァが学んだ内容でもあった。
「はい、お名前だけは」
「君の相手だ」
「はい」
夫となる人物の名を告げられても、オネルヴァはその名を紙の上でしか知らない。彼の瞳は何色なのか、どのような髪型なのか、身体は大きいのか、いくつくらいの人なのか、何も知らない。
ただイグナーツ・ブレンバリ将軍という人物が存在していることしか知らないのだ。
「輿入れは、十日後」
「十日後、ですか?」
異例の早さといってもいいだろう。
「ああ。互いの国のためだ」
別に結婚したくないとか、行きたくないとか、そういった気持ちがあるわけではない。
オネルヴァは、純粋に相手が気になっていた。
「どのような方ですか?」
「誰が?」
「ブレンバリ将軍です」
オネルヴァの発言が面白くなかったのか、アルヴィドは目を細くした。少しだけ、睨んでいるようにも見える。
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