初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘

澤谷弥(さわたに わたる)

文字の大きさ
10 / 76

夫41歳、妻22歳、娘6歳(8)

しおりを挟む
 オネルヴァは自分自身にそれまでの価値があるとは思えなかった。だからこそ、ゼセール王国を疑ってしまうのだ。いつか足元をすくわれてしまうのではないか、と。

「そのような不安な顔をするな」

 アルヴィドはオネルヴァの隣に座った。彼の大きな手が伸びてきて、オネルヴァの頭を撫でた。

「顔色が悪い。そうやってすぐに何事も真面目に取り組むのは君のいいところでもあるが、限度を知らないのは悪いところでもある」

 彼はテーブルの上に散乱している書籍にチラリと視線を向けた。

「君にばかり辛い思いをさせて、悪いとは思っている」

 頭を撫でていた彼の手は、オネルヴァの藍白あいじろの髪をすくった。かさかさに乾いていたその髪も、ここにきてからは艶が溢れようになった。

「もっと早く君をあの場所から救い出すことができていたら、今頃君は……になっていたのかな?」

 手にした髪の先に、アルヴィドは唇を落とした。

「お兄様?」
「すまない。少し、感傷的になってしまった。可愛い妹が嫁ぐのが、やはり寂しいようだ」

 アルヴィドは慌てて彼女の髪から手を離した。

「お兄様と、お義父様には感謝しております。ですから、ゼセールへ嫁ぐのは、わたくしの意思です」

 アルヴィドの笑顔はどこか苦しそうに見えた。

「今日は、君の相手が決まったことを伝えにきたんだ」
「わたくしの相手、ですか?」
「そう。君の嫁ぎ先」

 オネルヴァは森のような深い緑色の眼を大きく見開いた。

「イグナーツ・ブレンバリ将軍を知っているか? ゼセール王国の軍人だ。そして、キシュアス再建のために、力を貸してくれた人物でもある。ゼセールの北軍を率いているから、北の将軍と呼ばれることもあるようだ」

 ゼセール王国はキシュアス王国の南側にある。協力してくれたのが北軍であるのは、そういった地形的な意味もあるのだろう。それもここ数日間のうちに、オネルヴァが学んだ内容でもあった。

「はい、お名前だけは」
「君の相手だ」
「はい」

 夫となる人物の名を告げられても、オネルヴァはその名を紙の上でしか知らない。彼の瞳は何色なのか、どのような髪型なのか、身体は大きいのか、いくつくらいの人なのか、何も知らない。

 ただイグナーツ・ブレンバリ将軍という人物が存在していることしか知らないのだ。

「輿入れは、十日後」
「十日後、ですか?」

 異例の早さといってもいいだろう。

「ああ。互いの国のためだ」

 別に結婚したくないとか、行きたくないとか、そういった気持ちがあるわけではない。
 オネルヴァは、純粋に相手が気になっていた。

「どのような方ですか?」
「誰が?」
「ブレンバリ将軍です」

 オネルヴァの発言が面白くなかったのか、アルヴィドは目を細くした。少しだけ、睨んでいるようにも見える。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

処理中です...