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秘密を知られた夫と秘密を知った妻(9)
「かわいらしいですね。よく見ると、みな、少しずつお顔が違うのですね」
オネルヴァの言葉に、イグナーツの口の端がひくっと動いた。何か言いたそうに、ひくひくとしている。
「旦那様。どうかされましたか? あの、ご迷惑でなければ、わたくしにも一つ、いただけないでしょうか」
するとまた、イグナーツの唇がふるふると震える。
「やはり。こちらはエルシーの分でしたか……? あの、無理にとはいいませんので。忘れてください」
これだけあるならば、一つくらいもらってもいいだろうと思っていた。
「いや……。好きなだけ持っていってかまわない」
「ですが、こちらはエルシーの分なのですよね。エルシーが誕生日にもらっていると、そう教えてくださいましたから」
「あ、ああ。そうだな……。あげる相手がエルシーくらいしかいないからな。だから、好きなだけ持っていけばいい」
「好きなだけ……。ですが、たくさんいただいたらエルシーの分がなくなってしまいますから」
そこでオネルヴァはすっと立ち上がり、すたすたと歩き出す。
「この子をいただいてもよろしいですか?」
窓際に置かれているうさぎが気になった。少しだけ耳がくたっと垂れている。その垂れ具合が、オネルヴァの心にずさりと刺さった。両手で抱き上げて、抱きしめる。
「それは、俺が初めて作ったものだな」
驚いてイグナーツの顔をまっすぐに見つめた。だが彼は、視線を逸らして鉛色のカーペットを見つめている。
「あの……。この子たちは、旦那様がお作りになられたのですか?」
彼は動かない。視線も合わない。だけどオネルヴァはしっかりと彼を見据えている。
「……そうだ……」
絞り出すような声で、彼は呟いた。
「旦那様は、手先が器用なのですね。どの子も微妙に表情が違いますし、何よりも愛らしいです」
オネルヴァはぬいぐるみの顔に頬を寄せ、ぎゅうっと抱きしめる。
やっと顔をあげたイグナーツは、オネルヴァがぬいぐるみと触れ合っている様子を見ていた。
「オネルヴァは……俺がそういったものを作っていることに対して、何も思わないのか?」
「え? と……。すごいと思います。わたくしも刺繍はしますが、こういったぬいぐるみを作ることはできませんので。ほつれたものを直すくらいしかできません」
「そういうことではなくて、だな……」
イグナーツは大きな右手で口元を覆った。どこか照れているようにも見える。
オネルヴァは首を傾げた。彼は何を言いたいのだろうか。
「俺のような男が、このようなぬいぐるみを作っていることに対して、それ以外の感想はないのか?」
「すごい、以外ですか? え、と。素晴らしいとか。感動しましたとか。語彙力がなくて申し訳ありません。それよりも、わたくしも作ってみたいです。どうやって作るのでしょう? わたくしにも作れますか?」
すると、くつくつとイグナーツが笑い出した。むむっと、オネルヴァは唇を少しだけ尖らせた。
「旦那様?」
「いや、すまない。俺の悩んでいたことは、大したことのないものだったんだと、そう思えてきたんだ」
「そうですか」
笑われて、少しだけ心がもやっとしたオネルヴァだが、イグナーツが浮かべた笑みによって、そのもやもやが流れていく。
「ここにあるものは俺が作ったわけだが。別に手に針を持って、ちくちくやっているわけではない」
その言葉に、オネルヴァは目をきょとんとさせる。針を持たずにどうやってぬいぐるみを作るのだろうか。
「まあ、見てもらったほうが早いだろう」
イグナーツは、ソファに深く座った。
「君も、隣に座りなさい」
ぽんぽんとソファの上を叩かれたため、オネルヴァは少し躊躇ってからそこに腰をおろした。
その様子を見ていたイグナーツは満足そうに微笑むと、腕を組み、ソファに大きく寄り掛かる。オネルヴァから見たら、まるで居眠りでもするかのような格好にも見えた。
「あ……」
オネルヴァの言葉に、イグナーツの口の端がひくっと動いた。何か言いたそうに、ひくひくとしている。
「旦那様。どうかされましたか? あの、ご迷惑でなければ、わたくしにも一つ、いただけないでしょうか」
するとまた、イグナーツの唇がふるふると震える。
「やはり。こちらはエルシーの分でしたか……? あの、無理にとはいいませんので。忘れてください」
これだけあるならば、一つくらいもらってもいいだろうと思っていた。
「いや……。好きなだけ持っていってかまわない」
「ですが、こちらはエルシーの分なのですよね。エルシーが誕生日にもらっていると、そう教えてくださいましたから」
「あ、ああ。そうだな……。あげる相手がエルシーくらいしかいないからな。だから、好きなだけ持っていけばいい」
「好きなだけ……。ですが、たくさんいただいたらエルシーの分がなくなってしまいますから」
そこでオネルヴァはすっと立ち上がり、すたすたと歩き出す。
「この子をいただいてもよろしいですか?」
窓際に置かれているうさぎが気になった。少しだけ耳がくたっと垂れている。その垂れ具合が、オネルヴァの心にずさりと刺さった。両手で抱き上げて、抱きしめる。
「それは、俺が初めて作ったものだな」
驚いてイグナーツの顔をまっすぐに見つめた。だが彼は、視線を逸らして鉛色のカーペットを見つめている。
「あの……。この子たちは、旦那様がお作りになられたのですか?」
彼は動かない。視線も合わない。だけどオネルヴァはしっかりと彼を見据えている。
「……そうだ……」
絞り出すような声で、彼は呟いた。
「旦那様は、手先が器用なのですね。どの子も微妙に表情が違いますし、何よりも愛らしいです」
オネルヴァはぬいぐるみの顔に頬を寄せ、ぎゅうっと抱きしめる。
やっと顔をあげたイグナーツは、オネルヴァがぬいぐるみと触れ合っている様子を見ていた。
「オネルヴァは……俺がそういったものを作っていることに対して、何も思わないのか?」
「え? と……。すごいと思います。わたくしも刺繍はしますが、こういったぬいぐるみを作ることはできませんので。ほつれたものを直すくらいしかできません」
「そういうことではなくて、だな……」
イグナーツは大きな右手で口元を覆った。どこか照れているようにも見える。
オネルヴァは首を傾げた。彼は何を言いたいのだろうか。
「俺のような男が、このようなぬいぐるみを作っていることに対して、それ以外の感想はないのか?」
「すごい、以外ですか? え、と。素晴らしいとか。感動しましたとか。語彙力がなくて申し訳ありません。それよりも、わたくしも作ってみたいです。どうやって作るのでしょう? わたくしにも作れますか?」
すると、くつくつとイグナーツが笑い出した。むむっと、オネルヴァは唇を少しだけ尖らせた。
「旦那様?」
「いや、すまない。俺の悩んでいたことは、大したことのないものだったんだと、そう思えてきたんだ」
「そうですか」
笑われて、少しだけ心がもやっとしたオネルヴァだが、イグナーツが浮かべた笑みによって、そのもやもやが流れていく。
「ここにあるものは俺が作ったわけだが。別に手に針を持って、ちくちくやっているわけではない」
その言葉に、オネルヴァは目をきょとんとさせる。針を持たずにどうやってぬいぐるみを作るのだろうか。
「まあ、見てもらったほうが早いだろう」
イグナーツは、ソファに深く座った。
「君も、隣に座りなさい」
ぽんぽんとソファの上を叩かれたため、オネルヴァは少し躊躇ってからそこに腰をおろした。
その様子を見ていたイグナーツは満足そうに微笑むと、腕を組み、ソファに大きく寄り掛かる。オネルヴァから見たら、まるで居眠りでもするかのような格好にも見えた。
「あ……」
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