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妹の身代わりに
2.
「アンちゃん。悪いわね、ディーのこと、頼むわね」
ニコニコと幸せそうな笑みを浮かべたデルタの両親は、アヌークに変装したアルセンにそう言葉をかけて家を出て行った。
さて、困ったのはアルセン。さすがに家の中までもアヌークの恰好のまま、つまり女装のままでいたくない、というのが本音。自宅の屋敷にいるときはもちろんアルセンとしての恰好をしていて女装などしていない。
「あの、さ。俺、着替えてもいいかな」
「は? 何、言ってんの? アンの代わりなんだからダメに決まってるでしょ。アルは今日と明日、アンの代わりでしょ」
「え」
つまり、この女の恰好のまま、ということか。
「それに。この家にアルセンがいたって近所の人に知られたら、面倒なことになるでしょ。誰が来るかわからないんだからさ」
まあ、デルタの言うことも一理ある。仕方ない、不本意ながらアルセンはアヌークの恰好のまま、一日、いや二日を過ごすことにしようと思った。
デルタと二人きりと言っても、何も甘い雰囲気になるわけでもない。何よりも、デルタに欲情などしないと言い切っているアルセン。普通に、おしゃべりをして、夕飯を食べ、そうやってくつろいでいた。ここにいるのはアルセンだがアルセンではない。つまりは、そういうこと。
「アルー。先に、お風呂入ってきていいよ」
明日の朝食の仕込みをしていたデルタがそう声をかける。
「あ、そうそう」
エプロンで手を拭きながら、デルタは言い、そして奥の寝室から何やら持ってくる。
「見て見て、このナイトウェア。アンに着てもらおうと思って、買っておいたんだよね」
「え、アンに? 俺じゃなくて?」
それよりもデルタが手にしているナイトウェアと呼ばれるもの。いささかスケスケ感が気になるところではあるのだが。
「もしかして。俺に着ろって言ってる?」
「アルじゃなくて、アンね。せっかくお揃いで準備したのに……」
「つまり、俺に着ろ、と?」
「だから。アンね。俺じゃなくて、アンね」
恐らくデルタは怒っている。妹のアヌークを自分の身代わりとして騎士団で働かせていることに。女の友情というか一体感というか、恐らくそういうものが働いている。
「着てくれるよね?」
そう問うデルタの顔が怖かった。
仕方なく、風呂からあがったアルセンはデルタが言うところのお揃いのナイトウェアを着てみた。残念ながら、胸の谷間はないけれど、その胸の下からふわっとレースが広がるようなデザインになっている。下は膝上の丈。顔はアヌークと同じなんだから、ここについている身体を女性のものであると想像してみたら。
これは、ヤバイ。男だったら欲情しない方がおかしい。
「うわ。アン。やっぱり似合ってる」
言うとデルタは、少し濡れていたアルセンの髪をぽんぽんと拭くと、ゆるく三つ編みにする。
アルセンとアヌークが双子のように似ていると言われているその原因の一つに、アルセンの髪型もあった。彼は長髪だ。理由を聞いたら、長髪の隊長ってかっこよくね? とそんなことを言っていた。だが、本当はたびたびこうやってアヌークと入れ替わるためであることをデルタは知っている。
「私も、お風呂入ってくるね」
デルタは嬉しそうに言うと、浴室へと消えていく。
ニコニコと幸せそうな笑みを浮かべたデルタの両親は、アヌークに変装したアルセンにそう言葉をかけて家を出て行った。
さて、困ったのはアルセン。さすがに家の中までもアヌークの恰好のまま、つまり女装のままでいたくない、というのが本音。自宅の屋敷にいるときはもちろんアルセンとしての恰好をしていて女装などしていない。
「あの、さ。俺、着替えてもいいかな」
「は? 何、言ってんの? アンの代わりなんだからダメに決まってるでしょ。アルは今日と明日、アンの代わりでしょ」
「え」
つまり、この女の恰好のまま、ということか。
「それに。この家にアルセンがいたって近所の人に知られたら、面倒なことになるでしょ。誰が来るかわからないんだからさ」
まあ、デルタの言うことも一理ある。仕方ない、不本意ながらアルセンはアヌークの恰好のまま、一日、いや二日を過ごすことにしようと思った。
デルタと二人きりと言っても、何も甘い雰囲気になるわけでもない。何よりも、デルタに欲情などしないと言い切っているアルセン。普通に、おしゃべりをして、夕飯を食べ、そうやってくつろいでいた。ここにいるのはアルセンだがアルセンではない。つまりは、そういうこと。
「アルー。先に、お風呂入ってきていいよ」
明日の朝食の仕込みをしていたデルタがそう声をかける。
「あ、そうそう」
エプロンで手を拭きながら、デルタは言い、そして奥の寝室から何やら持ってくる。
「見て見て、このナイトウェア。アンに着てもらおうと思って、買っておいたんだよね」
「え、アンに? 俺じゃなくて?」
それよりもデルタが手にしているナイトウェアと呼ばれるもの。いささかスケスケ感が気になるところではあるのだが。
「もしかして。俺に着ろって言ってる?」
「アルじゃなくて、アンね。せっかくお揃いで準備したのに……」
「つまり、俺に着ろ、と?」
「だから。アンね。俺じゃなくて、アンね」
恐らくデルタは怒っている。妹のアヌークを自分の身代わりとして騎士団で働かせていることに。女の友情というか一体感というか、恐らくそういうものが働いている。
「着てくれるよね?」
そう問うデルタの顔が怖かった。
仕方なく、風呂からあがったアルセンはデルタが言うところのお揃いのナイトウェアを着てみた。残念ながら、胸の谷間はないけれど、その胸の下からふわっとレースが広がるようなデザインになっている。下は膝上の丈。顔はアヌークと同じなんだから、ここについている身体を女性のものであると想像してみたら。
これは、ヤバイ。男だったら欲情しない方がおかしい。
「うわ。アン。やっぱり似合ってる」
言うとデルタは、少し濡れていたアルセンの髪をぽんぽんと拭くと、ゆるく三つ編みにする。
アルセンとアヌークが双子のように似ていると言われているその原因の一つに、アルセンの髪型もあった。彼は長髪だ。理由を聞いたら、長髪の隊長ってかっこよくね? とそんなことを言っていた。だが、本当はたびたびこうやってアヌークと入れ替わるためであることをデルタは知っている。
「私も、お風呂入ってくるね」
デルタは嬉しそうに言うと、浴室へと消えていく。
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