14 / 29
幼妻の場合(9)
しおりを挟む
◇◇◇◇
クラークは「休みが取れた」と言っていたが、それでも二日に一回の割合で王宮内にある執務室へと足を運んでいた。団長となれば、王宮内に専用の部屋を構えているのだ。
だからまだ、彼との約束は果たせていない。二人で映画を見に行くという約束だ。
クラークが戻ってきてから五日後。オリビアはカステル侯爵邸を訪れていた。侯爵夫人であるポリーからお茶飲みに誘われていたのだ。
クラークも王宮へと行ってしまったし、オリビアは今までの報告と今後の相談をポリーにしようと思っていた。
「よかったですわね。クラーク様が戻られて」
「ええ、安心しました」
「久しぶりに再会してどうなのですか? 熱い夜を過ごされたのでしょうか?」
庭園にあるガゼボでお茶を嗜む二人。だから茶会というほどのものでもない。ただの茶飲みである。
さわさわと吹き付ける風が、ガゼボの周囲にある色とりどりの花を揺らす。その風にのって、花の甘い匂いが鼻孔に届く。
のどかな天気が、茶飲みの時間を穏やかな時間へと誘っていた。
「カトリーナ様からも、いろいろと教えていただいたのですが。クラーク様には全然効果がありませんでした」
しゅん、とオリビアは肩を落とす。
あら、まぁ。と口元を手で押さえながら、ポリーはオリビアを見つめていた。
「なかなか手強い敵ですわね。カトリーナ様ご推薦であれば、私の夫であればいつもコロリと騙されてしまいますのに」
手強い敵を想像しているのか、ポリーもむむっと唇を噛みしめていた。だが、すぐに表情を和らげる。
「ですが、ジャンから聞きましたわ」
ポリーは夫と名前で呼び合っているらしい。これもカトリーナから、夫婦仲が盛り上がる秘訣として教えてもらったものだ。
だが、オリビアは心の中でクラークの名を呼ぶものの、本人を目の前にしては呼ぶことなどできない。
「お二人で映画を見に行かれるんですって?」
そこでポリーは、お菓子に手を伸ばす。
「ポリー様もご存知なのですか?」
お菓子をもぐもぐと食べていた彼女は、うんうんと頷く仕草をしていた。
「えぇ。どうやら、クラーク様が、ジャンに相談したらしいですわ。『流行りの映画を教えて欲しい』って。それをね、二日前にジャンから聞いたものですから、私とジャンのオススメの映画を紹介しておきましたわ」
そこでポリーは紅茶を飲んだ。
まさか、クラークがそこまでして約束を守ろうとしているとは思ってもいなかった。
「ところで、ポリー様がすすめてくださる映画とは何ですか? 教えてもらってもよろしいですか?」
「ええ、もちろん」
カップをソーサの上に戻したポリーは、言葉を続ける。
「私とジャンで『禁じられた遊戯』をすすめることにしましたわ。この映画を二人で見れば、その夜はとても濃厚な一夜になることでしょう」
映画の内容を思い出したのか、それとも濃厚な一夜を思い出したのか、ポリーは「きゃっ」と頬を赤らめて、そこに手を当てていた。
(『禁じられた遊戯』……。一体、どのようなお話なのかしら……)
「クラーク様は、基本的には一か月ほどお休みでしょう? だから、私の方でチケットを買っておきましたから、ジャンからクラーク様に渡してもらおうと思っておりますの。是非とも二人で見ていただきたいわ。『禁じられた遊戯』は最高傑作よ」
「どのようなお話なのでしょうか?」
「あら、聞きたい? 聞きたいのね? ネタバレ無しで、ざっくりと内容を教えるわね。あ、そうそう。他にも『許されぬ二人』も素敵なお話だったわ。あぁ、どちらがいいかしら」
そこからポリーの映画談義となった。
ポリーはかなりの種類の映画を見ているようだった。ジャンが休みになると、二人でよく出かけるらしい。
オリビアはその話すら羨ましいと思っていた。
クラークは「休みが取れた」と言っていたが、それでも二日に一回の割合で王宮内にある執務室へと足を運んでいた。団長となれば、王宮内に専用の部屋を構えているのだ。
だからまだ、彼との約束は果たせていない。二人で映画を見に行くという約束だ。
クラークが戻ってきてから五日後。オリビアはカステル侯爵邸を訪れていた。侯爵夫人であるポリーからお茶飲みに誘われていたのだ。
クラークも王宮へと行ってしまったし、オリビアは今までの報告と今後の相談をポリーにしようと思っていた。
「よかったですわね。クラーク様が戻られて」
「ええ、安心しました」
「久しぶりに再会してどうなのですか? 熱い夜を過ごされたのでしょうか?」
庭園にあるガゼボでお茶を嗜む二人。だから茶会というほどのものでもない。ただの茶飲みである。
さわさわと吹き付ける風が、ガゼボの周囲にある色とりどりの花を揺らす。その風にのって、花の甘い匂いが鼻孔に届く。
のどかな天気が、茶飲みの時間を穏やかな時間へと誘っていた。
「カトリーナ様からも、いろいろと教えていただいたのですが。クラーク様には全然効果がありませんでした」
しゅん、とオリビアは肩を落とす。
あら、まぁ。と口元を手で押さえながら、ポリーはオリビアを見つめていた。
「なかなか手強い敵ですわね。カトリーナ様ご推薦であれば、私の夫であればいつもコロリと騙されてしまいますのに」
手強い敵を想像しているのか、ポリーもむむっと唇を噛みしめていた。だが、すぐに表情を和らげる。
「ですが、ジャンから聞きましたわ」
ポリーは夫と名前で呼び合っているらしい。これもカトリーナから、夫婦仲が盛り上がる秘訣として教えてもらったものだ。
だが、オリビアは心の中でクラークの名を呼ぶものの、本人を目の前にしては呼ぶことなどできない。
「お二人で映画を見に行かれるんですって?」
そこでポリーは、お菓子に手を伸ばす。
「ポリー様もご存知なのですか?」
お菓子をもぐもぐと食べていた彼女は、うんうんと頷く仕草をしていた。
「えぇ。どうやら、クラーク様が、ジャンに相談したらしいですわ。『流行りの映画を教えて欲しい』って。それをね、二日前にジャンから聞いたものですから、私とジャンのオススメの映画を紹介しておきましたわ」
そこでポリーは紅茶を飲んだ。
まさか、クラークがそこまでして約束を守ろうとしているとは思ってもいなかった。
「ところで、ポリー様がすすめてくださる映画とは何ですか? 教えてもらってもよろしいですか?」
「ええ、もちろん」
カップをソーサの上に戻したポリーは、言葉を続ける。
「私とジャンで『禁じられた遊戯』をすすめることにしましたわ。この映画を二人で見れば、その夜はとても濃厚な一夜になることでしょう」
映画の内容を思い出したのか、それとも濃厚な一夜を思い出したのか、ポリーは「きゃっ」と頬を赤らめて、そこに手を当てていた。
(『禁じられた遊戯』……。一体、どのようなお話なのかしら……)
「クラーク様は、基本的には一か月ほどお休みでしょう? だから、私の方でチケットを買っておきましたから、ジャンからクラーク様に渡してもらおうと思っておりますの。是非とも二人で見ていただきたいわ。『禁じられた遊戯』は最高傑作よ」
「どのようなお話なのでしょうか?」
「あら、聞きたい? 聞きたいのね? ネタバレ無しで、ざっくりと内容を教えるわね。あ、そうそう。他にも『許されぬ二人』も素敵なお話だったわ。あぁ、どちらがいいかしら」
そこからポリーの映画談義となった。
ポリーはかなりの種類の映画を見ているようだった。ジャンが休みになると、二人でよく出かけるらしい。
オリビアはその話すら羨ましいと思っていた。
1
あなたにおすすめの小説
能力持ちの若き夫人は、冷遇夫から去る
基本二度寝
恋愛
「婚姻は王命だ。私に愛されようなんて思うな」
若き宰相次官のボルスターは、薄い夜着を纏って寝台に腰掛けている今日妻になったばかりのクエッカに向かって言い放った。
実力でその立場までのし上がったボルスターには敵が多かった。
一目惚れをしたクエッカに想いを伝えたかったが、政敵から彼女がボルスターの弱点になる事を悟られるわけには行かない。
巻き込みたくない気持ちとそれでも一緒にいたいという欲望が鬩ぎ合っていた。
ボルスターは国王陛下に願い、その令嬢との婚姻を王命という形にしてもらうことで、彼女との婚姻はあくまで命令で、本意ではないという態度を取ることで、ボルスターはめでたく彼女を手中に収めた。
けれど。
「旦那様。お久しぶりです。離縁してください」
結婚から半年後に、ボルスターは離縁を突きつけられたのだった。
※復縁、元サヤ無しです。
※時系列と視点がコロコロゴロゴロ変わるのでタイトル入れました
※えろありです
※ボルスター主人公のつもりが、端役になってます(どうしてだ)
※タイトル変更→旧題:黒い結婚
お飾り王妃だって幸せを望んでも構わないでしょう?
基本二度寝
恋愛
王太子だったベアディスは結婚し即位した。
彼の妻となった王妃サリーシアは今日もため息を吐いている。
仕事は有能でも、ベアディスとサリーシアは性格が合わないのだ。
王は今日も愛妾のもとへ通う。
妃はそれは構わないと思っている。
元々学園時代に、今の愛妾である男爵令嬢リリネーゼと結ばれたいがために王はサリーシアに婚約破棄を突きつけた。
しかし、実際サリーシアが居なくなれば教育もままなっていないリリネーゼが彼女同様の公務が行えるはずもなく。
廃嫡を回避するために、ベアディスは恥知らずにもサリーシアにお飾り妃となれと命じた。
王家の臣下にしかなかった公爵家がそれを拒むこともできず、サリーシアはお飾り王妃となった。
しかし、彼女は自身が幸せになる事を諦めたわけではない。
虎視眈々と、離縁を計画していたのであった。
※初っ端から乳弄られてます
だから、どうか、幸せに
基本二度寝
恋愛
話し合いもない。
王太子の一方的な発言で終わった。
「婚約を解消する」
王城の王太子の私室に呼びつけ、婚約者のエルセンシアに告げた。
彼女が成人する一年後に、婚姻は予定されていた。
王太子が彼女を見初めて十二年。
妃教育の為に親元から離されて十二年。
エルセンシアは、王家の鎖から解放される。
「かしこまりました」
反論はなかった。
何故かという質問もない。
いつも通り、命を持たぬ人形のような空っぽの瞳で王太子を見つめ、その言葉に従うだけ。
彼女が此処に連れて来られてからずっと同じ目をしていた。
それを不気味に思う侍従達は少なくない。
彼女が家族に会うときだけは人形から人へ息を吹き返す。
家族らだけに見せる花が咲きほころぶような笑顔に恋したのに、その笑顔を向けられたことは、十二年間一度もなかった。
王太子は好かれていない。
それはもう痛いほどわかっていたのに、言葉通り婚約解消を受け入れて部屋を出ていくエルセンシアに、王太子は傷付いた。
振り返り、「やはり嫌です」と泣いて縋ってくるエルセンシアを想像している内に、扉の閉じる音がした。
想像のようにはいかない。
王太子は部屋にいた側近らに退出を命じた。
今は一人で失恋の痛みを抱えていたい。
【完結】裏切られたあなたにもう二度と恋はしない
たろ
恋愛
優しい王子様。あなたに恋をした。
あなたに相応しくあろうと努力をした。
あなたの婚約者に選ばれてわたしは幸せでした。
なのにあなたは美しい聖女様に恋をした。
そして聖女様はわたしを嵌めた。
わたしは地下牢に入れられて殿下の命令で騎士達に犯されて死んでしまう。
大好きだったお父様にも見捨てられ、愛する殿下にも嫌われ酷い仕打ちを受けて身と心もボロボロになり死んでいった。
その時の記憶を忘れてわたしは生まれ変わった。
知らずにわたしはまた王子様に恋をする。
愛さないと言うけれど、婚家の跡継ぎは産みます
基本二度寝
恋愛
「君と結婚はするよ。愛することは無理だけどね」
婚約者はミレーユに恋人の存在を告げた。
愛する女は彼女だけとのことらしい。
相手から、侯爵家から望まれた婚約だった。
真面目で誠実な侯爵当主が、息子の嫁にミレーユを是非にと望んだ。
だから、娘を溺愛する父も認めた婚約だった。
「父も知っている。寧ろ好きにしろって言われたからね。でも、ミレーユとの婚姻だけは好きにはできなかった。どうせなら愛する女を妻に持ちたかったのに」
彼はミレーユを愛していない。愛する気もない。
しかし、結婚はするという。
結婚さえすれば、これまで通り好きに生きていいと言われているらしい。
あの侯爵がこんなに息子に甘かったなんて。
大人になったオフェーリア。
ぽんぽこ狸
恋愛
婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。
生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。
けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。
それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。
その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。
その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
貴方の記憶が戻るまで
cyaru
恋愛
「君と結婚をしなくてはならなくなったのは人生最大の屈辱だ。私には恋人もいる。君を抱くことはない」
初夜、夫となったサミュエルにそう告げられたオフィーリア。
3年経ち、子が出来ていなければ離縁が出来る。
それを希望に間もなく2年半となる時、戦場でサミュエルが負傷したと連絡が入る。
大怪我を負ったサミュエルが目を覚ます‥‥喜んだ使用人達だが直ぐに落胆をした。
サミュエルは記憶を失っていたのだった。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※作者都合のご都合主義です。作者は外道なので気を付けてください(何に?‥いろいろ)
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる