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幼妻の場合(9)
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◇◇◇◇
クラークは「休みが取れた」と言っていたが、それでも二日に一回の割合で王宮内にある執務室へと足を運んでいた。団長となれば、王宮内に専用の部屋を構えているのだ。
だからまだ、彼との約束は果たせていない。二人で映画を見に行くという約束だ。
クラークが戻ってきてから五日後。オリビアはカステル侯爵邸を訪れていた。侯爵夫人であるポリーからお茶飲みに誘われていたのだ。
クラークも王宮へと行ってしまったし、オリビアは今までの報告と今後の相談をポリーにしようと思っていた。
「よかったですわね。クラーク様が戻られて」
「ええ、安心しました」
「久しぶりに再会してどうなのですか? 熱い夜を過ごされたのでしょうか?」
庭園にあるガゼボでお茶を嗜む二人。だから茶会というほどのものでもない。ただの茶飲みである。
さわさわと吹き付ける風が、ガゼボの周囲にある色とりどりの花を揺らす。その風にのって、花の甘い匂いが鼻孔に届く。
のどかな天気が、茶飲みの時間を穏やかな時間へと誘っていた。
「カトリーナ様からも、いろいろと教えていただいたのですが。クラーク様には全然効果がありませんでした」
しゅん、とオリビアは肩を落とす。
あら、まぁ。と口元を手で押さえながら、ポリーはオリビアを見つめていた。
「なかなか手強い敵ですわね。カトリーナ様ご推薦であれば、私の夫であればいつもコロリと騙されてしまいますのに」
手強い敵を想像しているのか、ポリーもむむっと唇を噛みしめていた。だが、すぐに表情を和らげる。
「ですが、ジャンから聞きましたわ」
ポリーは夫と名前で呼び合っているらしい。これもカトリーナから、夫婦仲が盛り上がる秘訣として教えてもらったものだ。
だが、オリビアは心の中でクラークの名を呼ぶものの、本人を目の前にしては呼ぶことなどできない。
「お二人で映画を見に行かれるんですって?」
そこでポリーは、お菓子に手を伸ばす。
「ポリー様もご存知なのですか?」
お菓子をもぐもぐと食べていた彼女は、うんうんと頷く仕草をしていた。
「えぇ。どうやら、クラーク様が、ジャンに相談したらしいですわ。『流行りの映画を教えて欲しい』って。それをね、二日前にジャンから聞いたものですから、私とジャンのオススメの映画を紹介しておきましたわ」
そこでポリーは紅茶を飲んだ。
まさか、クラークがそこまでして約束を守ろうとしているとは思ってもいなかった。
「ところで、ポリー様がすすめてくださる映画とは何ですか? 教えてもらってもよろしいですか?」
「ええ、もちろん」
カップをソーサの上に戻したポリーは、言葉を続ける。
「私とジャンで『禁じられた遊戯』をすすめることにしましたわ。この映画を二人で見れば、その夜はとても濃厚な一夜になることでしょう」
映画の内容を思い出したのか、それとも濃厚な一夜を思い出したのか、ポリーは「きゃっ」と頬を赤らめて、そこに手を当てていた。
(『禁じられた遊戯』……。一体、どのようなお話なのかしら……)
「クラーク様は、基本的には一か月ほどお休みでしょう? だから、私の方でチケットを買っておきましたから、ジャンからクラーク様に渡してもらおうと思っておりますの。是非とも二人で見ていただきたいわ。『禁じられた遊戯』は最高傑作よ」
「どのようなお話なのでしょうか?」
「あら、聞きたい? 聞きたいのね? ネタバレ無しで、ざっくりと内容を教えるわね。あ、そうそう。他にも『許されぬ二人』も素敵なお話だったわ。あぁ、どちらがいいかしら」
そこからポリーの映画談義となった。
ポリーはかなりの種類の映画を見ているようだった。ジャンが休みになると、二人でよく出かけるらしい。
オリビアはその話すら羨ましいと思っていた。
クラークは「休みが取れた」と言っていたが、それでも二日に一回の割合で王宮内にある執務室へと足を運んでいた。団長となれば、王宮内に専用の部屋を構えているのだ。
だからまだ、彼との約束は果たせていない。二人で映画を見に行くという約束だ。
クラークが戻ってきてから五日後。オリビアはカステル侯爵邸を訪れていた。侯爵夫人であるポリーからお茶飲みに誘われていたのだ。
クラークも王宮へと行ってしまったし、オリビアは今までの報告と今後の相談をポリーにしようと思っていた。
「よかったですわね。クラーク様が戻られて」
「ええ、安心しました」
「久しぶりに再会してどうなのですか? 熱い夜を過ごされたのでしょうか?」
庭園にあるガゼボでお茶を嗜む二人。だから茶会というほどのものでもない。ただの茶飲みである。
さわさわと吹き付ける風が、ガゼボの周囲にある色とりどりの花を揺らす。その風にのって、花の甘い匂いが鼻孔に届く。
のどかな天気が、茶飲みの時間を穏やかな時間へと誘っていた。
「カトリーナ様からも、いろいろと教えていただいたのですが。クラーク様には全然効果がありませんでした」
しゅん、とオリビアは肩を落とす。
あら、まぁ。と口元を手で押さえながら、ポリーはオリビアを見つめていた。
「なかなか手強い敵ですわね。カトリーナ様ご推薦であれば、私の夫であればいつもコロリと騙されてしまいますのに」
手強い敵を想像しているのか、ポリーもむむっと唇を噛みしめていた。だが、すぐに表情を和らげる。
「ですが、ジャンから聞きましたわ」
ポリーは夫と名前で呼び合っているらしい。これもカトリーナから、夫婦仲が盛り上がる秘訣として教えてもらったものだ。
だが、オリビアは心の中でクラークの名を呼ぶものの、本人を目の前にしては呼ぶことなどできない。
「お二人で映画を見に行かれるんですって?」
そこでポリーは、お菓子に手を伸ばす。
「ポリー様もご存知なのですか?」
お菓子をもぐもぐと食べていた彼女は、うんうんと頷く仕草をしていた。
「えぇ。どうやら、クラーク様が、ジャンに相談したらしいですわ。『流行りの映画を教えて欲しい』って。それをね、二日前にジャンから聞いたものですから、私とジャンのオススメの映画を紹介しておきましたわ」
そこでポリーは紅茶を飲んだ。
まさか、クラークがそこまでして約束を守ろうとしているとは思ってもいなかった。
「ところで、ポリー様がすすめてくださる映画とは何ですか? 教えてもらってもよろしいですか?」
「ええ、もちろん」
カップをソーサの上に戻したポリーは、言葉を続ける。
「私とジャンで『禁じられた遊戯』をすすめることにしましたわ。この映画を二人で見れば、その夜はとても濃厚な一夜になることでしょう」
映画の内容を思い出したのか、それとも濃厚な一夜を思い出したのか、ポリーは「きゃっ」と頬を赤らめて、そこに手を当てていた。
(『禁じられた遊戯』……。一体、どのようなお話なのかしら……)
「クラーク様は、基本的には一か月ほどお休みでしょう? だから、私の方でチケットを買っておきましたから、ジャンからクラーク様に渡してもらおうと思っておりますの。是非とも二人で見ていただきたいわ。『禁じられた遊戯』は最高傑作よ」
「どのようなお話なのでしょうか?」
「あら、聞きたい? 聞きたいのね? ネタバレ無しで、ざっくりと内容を教えるわね。あ、そうそう。他にも『許されぬ二人』も素敵なお話だったわ。あぁ、どちらがいいかしら」
そこからポリーの映画談義となった。
ポリーはかなりの種類の映画を見ているようだった。ジャンが休みになると、二人でよく出かけるらしい。
オリビアはその話すら羨ましいと思っていた。
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