だから、どうか、幸せに

話し合いもない。
王太子の一方的な発言で終わった。

「婚約を解消する」

王城の王太子の私室に呼びつけ、婚約者のエルセンシアに告げた。

彼女が成人する一年後に、婚姻は予定されていた。

王太子が彼女を見初めて十二年。
妃教育の為に親元から離されて十二年。

エルセンシアは、王家の鎖から解放される。

「かしこまりました」

反論はなかった。
何故かという質問もない。

いつも通り、命を持たぬ人形のような空っぽの瞳で王太子を見つめ、その言葉に従うだけ。
彼女が此処に連れて来られてからずっと同じ目をしていた。
それを不気味に思う侍従達は少なくない。

彼女が家族に会うときだけは人形から人へ息を吹き返す。
家族らだけに見せる花が咲きほころぶような笑顔に恋したのに、その笑顔を向けられたことは、十二年間一度もなかった。

王太子は好かれていない。
それはもう痛いほどわかっていたのに、言葉通り婚約解消を受け入れて部屋を出ていくエルセンシアに、王太子は傷付いた。

振り返り、「やはり嫌です」と泣いて縋ってくるエルセンシアを想像している内に、扉の閉じる音がした。

想像のようにはいかない。

王太子は部屋にいた側近らに退出を命じた。

今は一人で失恋の痛みを抱えていたい。

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