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幼妻の場合(14)
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身体をオリビアの方に向けて、姿勢を正す。
その姿にオリビアもドキリとして、慌ててグラスをテーブルの上に置いた。
(も、もしかして。大人になったから、夜のお誘いなのかしら……)
これから起こることに淡い期待を抱き、彼女は両手をきゅっと握りしめて膝の上においた。
「オリビア……。君は、好きな男性がいるのか?」
なぜ彼がそのように尋ねるのか、意味がわからなかった。だが、それが夜のお誘いの入り口であると思うと、わかるような気がする。
二人は愛を確認し合ってから、くんずほぐれつの関係に持ち込まれるのだ。
今日の映画にもそのようなシーンがあった。
「はい」
「そうか……」
またクラークは目を伏せる。
(もしかして、クラークが緊張している?)
ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえてしまいそうなほど、静かな空気が流れていく。
「……オリビア」
「はい」
「君も十八になった。だから、離縁しよう」
え、と聞き返したくなったその言葉を、オリビアは飲み込んだ。
鼻から大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。
(ええと。クラークは、何を言っているのかしら? 離縁? 離縁って、別れるってことよね? なんで? なんでなんでなんで?)
「旦那様。今、なんとおっしゃったのでしょうか?」
信じたくない気持ちによって、彼女はそう問うていた。
「離縁しよう。俺たちは別れよう」
「何故ですか?」
大人の女性を演じていたつもりだが、それもすっかりと忘れてしまうほどオリビアは興奮してしまう。
思わず立ち上がり、クラークを睨みつける。
「なぜ。なぜ、離縁なのですか?」
離縁と言葉にしただけで、オリビアの頬には一筋の涙が流れた。
驚いたのはクラークの方だった。
「なぜ、君は泣いている? 俺のような男と離縁できるんだぞ? 俺たちの結婚は、団長との約束のようなものだ。君が大人になるまで君を守る必要があった。だから俺は結婚をして君を守ろうとした。だが、君はもう立派な大人だ。俺が守らなくてもう大丈夫だろう。」
クラークが『守る』と言っているのは、恐らくあの『伯父』のことだ。彼はあの伯父からオリビアを守ろうとしていたのだ。
「十八になった君は、保護者の承諾なしに自由に結婚できる。だから君には、本当に好きな男性と幸せになってもらいたい。君の貴重な二年間を、俺のために費やしてくれたことには礼を言う。また爵位のことだが……。これは、君の新しい夫に継いでもらえるように俺の方でなんとかする」
その言葉で、彼が爵位のためにオリビアと結婚したわけではないことがわかる。
本当にオリビアをあの伯父から守るため。そして、アトロとの約束のためだったのだろう。
「クラークは、私が本当に好きな人と幸せになってもらいたいのですか?」
いつもは旦那様と呼んでいたのに、つい、心の中で呼んでいた彼の名が口に出ていた。
「ああ。君の隣に、俺のような男は相応しくない。俺は君よりも十七も年上で、見た目もこんなんだ……」
「ですが。カトリーナ様とモーレン公爵は二十歳も年が離れております。それでもあそこは、私から見ても仲の良い羨ましい夫婦です。年齢差なんて、別れる原因になりません」
カトリーナとモーレン公爵は、二十歳の年の差結婚で、当時の社交界を賑わせた。四十歳になっても結婚のけの字にも興味のなかったモーレン公爵が、カトリーナに一目ぼれしたことがきっかけだ。カトリーナ自身も、二十も年上の男性なんてと、最初は口にしていたが、モーレン公爵の心の広さと優しさに惹かれていき、その一年後には見事に結婚していた。
それは結婚から四年経った今でも、二人の仲は変わっていない。第一子にも恵まれ、カトリーナの妖艶さは年々増している。
「だが……」
オリビアの勢いに負けたのか、クラークが言い淀む。
「大事なことを聞き忘れていました」
そこでオリビアはすぅっと息を吸う。
「もしかして。旦那様は、私のことが嫌いなのですか?」
その姿にオリビアもドキリとして、慌ててグラスをテーブルの上に置いた。
(も、もしかして。大人になったから、夜のお誘いなのかしら……)
これから起こることに淡い期待を抱き、彼女は両手をきゅっと握りしめて膝の上においた。
「オリビア……。君は、好きな男性がいるのか?」
なぜ彼がそのように尋ねるのか、意味がわからなかった。だが、それが夜のお誘いの入り口であると思うと、わかるような気がする。
二人は愛を確認し合ってから、くんずほぐれつの関係に持ち込まれるのだ。
今日の映画にもそのようなシーンがあった。
「はい」
「そうか……」
またクラークは目を伏せる。
(もしかして、クラークが緊張している?)
ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえてしまいそうなほど、静かな空気が流れていく。
「……オリビア」
「はい」
「君も十八になった。だから、離縁しよう」
え、と聞き返したくなったその言葉を、オリビアは飲み込んだ。
鼻から大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。
(ええと。クラークは、何を言っているのかしら? 離縁? 離縁って、別れるってことよね? なんで? なんでなんでなんで?)
「旦那様。今、なんとおっしゃったのでしょうか?」
信じたくない気持ちによって、彼女はそう問うていた。
「離縁しよう。俺たちは別れよう」
「何故ですか?」
大人の女性を演じていたつもりだが、それもすっかりと忘れてしまうほどオリビアは興奮してしまう。
思わず立ち上がり、クラークを睨みつける。
「なぜ。なぜ、離縁なのですか?」
離縁と言葉にしただけで、オリビアの頬には一筋の涙が流れた。
驚いたのはクラークの方だった。
「なぜ、君は泣いている? 俺のような男と離縁できるんだぞ? 俺たちの結婚は、団長との約束のようなものだ。君が大人になるまで君を守る必要があった。だから俺は結婚をして君を守ろうとした。だが、君はもう立派な大人だ。俺が守らなくてもう大丈夫だろう。」
クラークが『守る』と言っているのは、恐らくあの『伯父』のことだ。彼はあの伯父からオリビアを守ろうとしていたのだ。
「十八になった君は、保護者の承諾なしに自由に結婚できる。だから君には、本当に好きな男性と幸せになってもらいたい。君の貴重な二年間を、俺のために費やしてくれたことには礼を言う。また爵位のことだが……。これは、君の新しい夫に継いでもらえるように俺の方でなんとかする」
その言葉で、彼が爵位のためにオリビアと結婚したわけではないことがわかる。
本当にオリビアをあの伯父から守るため。そして、アトロとの約束のためだったのだろう。
「クラークは、私が本当に好きな人と幸せになってもらいたいのですか?」
いつもは旦那様と呼んでいたのに、つい、心の中で呼んでいた彼の名が口に出ていた。
「ああ。君の隣に、俺のような男は相応しくない。俺は君よりも十七も年上で、見た目もこんなんだ……」
「ですが。カトリーナ様とモーレン公爵は二十歳も年が離れております。それでもあそこは、私から見ても仲の良い羨ましい夫婦です。年齢差なんて、別れる原因になりません」
カトリーナとモーレン公爵は、二十歳の年の差結婚で、当時の社交界を賑わせた。四十歳になっても結婚のけの字にも興味のなかったモーレン公爵が、カトリーナに一目ぼれしたことがきっかけだ。カトリーナ自身も、二十も年上の男性なんてと、最初は口にしていたが、モーレン公爵の心の広さと優しさに惹かれていき、その一年後には見事に結婚していた。
それは結婚から四年経った今でも、二人の仲は変わっていない。第一子にも恵まれ、カトリーナの妖艶さは年々増している。
「だが……」
オリビアの勢いに負けたのか、クラークが言い淀む。
「大事なことを聞き忘れていました」
そこでオリビアはすぅっと息を吸う。
「もしかして。旦那様は、私のことが嫌いなのですか?」
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