【R18】聖女さま、団長とまぐわっていただけませんか?

澤谷弥(さわたに わたる)

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聖女(3)

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 アズサは、土下座男に案内され、ニールがこもっている部屋へと足を向けた。アズサが歩くたびに、淡雪のような色のローブがしゅるしゅると音を立てる。ウェディングドレスのトレーンのように、このローブは裾が長かった。この裾の長さが聖女の力を示すと、誰かが言っていたような気がするが、アズサからしたら汚れが気になって仕方ない。

 ニールの部屋の扉の前に立つ。

 彼女がここにくるまでには、いろんなところに根回しをする必要があった。なぜなら、アズサは聖女なのだ。その聖女が、魔物の毒素に侵されて死にかけている魔導士団長を救うとなれば、国としても大イベントなのである。

「団長は魔物の毒素によって、半分、自我を失っている状態です。たまに、意識を取り戻すこともありますが、団長の魔力を抑えるのは、我々でも五人ほど必要でして。それで、身体と魔力を拘束しているのです」

 土下座男は、形式的に扉をノックした。残念ながら、中から返事はない。


「失礼します」

 やはり形式的に挨拶をして、扉を開ける。
 扉の向こう側からは、くぐもった声が聞こえてきた。

「くっ……。うぅっ」
「団長、俺です。ミロです」

 そこでアズサは、土下座男の名を知った。

「……うぅ……っ」

 団長と呼ばれている相手、ニールからはやはり返事がない。

 ミロはゆっくりと歩みを進めて、部屋の奥へと向かう。アズサもミロの後ろをついていく。
 部屋の奥にある大きな天蓋つきのきらびやかなベッド。レースのカーテンは開かれており、そこで横になっている男は疑うことなくニール・アンヒムであるのだが、その様子がアズサの予想しているものとは異なった。

「先ほども言いましたが、団長は魔力が強く、自我を失うと我々五人でやっと取り押さえられる状態でして。その対応として、縛ってあります」
「口枷も?」

 アズサは思わず尋ねていた。

 アズサの天敵ともいえるニールが、手足に枷を嵌められその先は支柱に繋がっている。さらに口枷も嵌められているから、先ほどから聞こえていたくぐもった声はこれが原因である。

「ここまでする必要が?」

 それがアズサの率直な思いだった。

「団長に無闇に魔法の詠唱をされてしまったら、困りますので」

 だから四肢の自由と言葉を封じたのだろう。
 アズサとミロの存在に気がついたニールは、少しだけ顔を持ち上げた。

(ちょっ……、やばい……、なに、あの色気……)

 彼は興奮のためか、顔は紅潮しており、翡翠色の目は潤んでいる。枷からはみ出ている唇は艶やかに色めき立ち、うっすらと光る汗が情欲をそそる。
 それはアズサが思わずゴクリと喉を鳴らしてしまうほどだった。

「んっ、ん、んぅ……、ぅううっ」

 アズサに気がついたニールは、小刻みに首を振っている。怯えているようにも見える。いや、今のこの姿をアズサには見られたくないのだ。

「団長。聖女様を連れてきました。聖女様であれば、団長のその症状を中和できます」
 かっと翡翠色の目が大きく見開かれた。
『や・め・ろ』と、その目は訴えている。

(いやがっている……。もしかして、今までの仕返しが、できる?)

 ぞくぞくと背筋に快楽が走った。この男を征服できる。
 アズサがニールに飲まされた煮え湯は数多い。ここぞとばかりに煮えたぎった油をぶっかけてやりたいと密かに心の中で思っていたのは、自身の心の平穏を守るためだ。

「ミロさん。あとは、私のほうでなんとかしますので」

 できるだけ平静を装い、アズサは穏やかに声をかけた。

「聖女さま。ありがとうございます。なにとぞ、団長を、団長をよろしくお願いします」

 ミロはアズサの両手をとって、ぶんぶんと上下に振りながら礼を言った。
 その間も、ニールからは辛そうな声が聞こえてくる。
 ミロが部屋を出て行ったのを確認してから、アズサは扉に鍵をかけた。
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