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めんどくさい男(1)
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「ルネ。シャノン」
と紙の束を抱えたミレーヌが戻ってきた。少し、長い距離を全速力疾走してしまったかもしれない。はあ、と肩で大きく息をつく。
「これ、もらってきたから」
息もとぎれとぎれに言いながら、その紙の束をベンチの上に置いた。
――その書き損じのきれいなところだけを、濡れた教科書に挟んであげて。
ミレーヌは書き損じの何も書いていないところを破って、それを濡れた教科書に挟んでいく。するとルネもシャノンもミレーヌの真似をして作業をし始めた。
――次はその本を立てて、シャノンに風の魔法をかけてもらって。
ミレーヌはベンチの背もたれに、紙を挟んだ本を立てかけた。
「シャノン、この本に風の魔法をかけられるかしら。風通しをよくして、乾かしたいのだけれど」
シャノンは頷き、風を起こした。それはとても優しく、心地よい風だった。
シャノンの魔法はどこか優しい、ミレーヌはそう思う。
「なんか、ちょっとマシになったような気がしない?」
とルネ。
「そうかも」
とミレーヌ。
「あとはこれを何回か繰り返せばいいと思うのだけど」
――最後に重しを乗せるといいわよ。
「シャノン。ある程度乾いたら、あとは重しを乗せてみてね」
ミレーヌが言うと、シャノンは小さく頷く。
濡れた本を元に戻す魔法を使えばいいじゃないか、と思うかもしれない。ところが、そんな便利な魔法は無いのだ。魔法は、ここにある自然の力を借りるものだから、亡くなった人を生き返らすことができないように、壊れたものを元通りにすることはできない。できるだけ、それに近い状態に修復する手伝いをするもの。それが魔法というもの。
「ミレーヌ」とルネはまた友の名を呼ぶ。
ありがとう、とルネはミレーヌに抱きつく。これがルネなりの感謝の表現なのだ。
ミレーヌは慣れた。恐らくシャノンも慣れていることだろう。
「あの、ミレーヌさん。本当にありがとうございます」
シャノンも気持ちが落ち着いたのか、やっと声を発した。そして、頭をペコリと下げる。ふわふわの髪がふわふわと揺れた。
「どういたしまして」
ミレーヌはシャノンに向かって、ニッコリと笑った。そうやって笑うことが彼女を励ますための一つの手段であるような気がしたから。
三人はシャノンを真ん中にして、並んでベンチに座った。シャノンの服も乾いてきた。今日のような気候であれば風邪をひく心配もないだろう。
「あの、シャノン。私がこういうことを言う立場ではないとは思うのだけれど。その、ごめんなさい」
ミレーヌが頭を下げる。貴族と平民の争い、そのような感じがしたからミレーヌは謝ったのだ。
「ミレーヌさん。謝らないでください。その、ミレーヌさんのせいではないですし。それに、私の態度にも悪いところがあるのですから」
教科書をしっかりと抱いたシャノンが言った。
「今年の魔導科ってさ。あの皇子の話があるからさ。なんかピリピリしてるんだよね」
ルネが言う。
そう、皇子のアレ。婚約者の話。優秀な魔導科の女子生徒からその皇子の婚約者が選ばれるという話。
優秀、という意味では、シャノンが他の生徒よりも頭二つ分くらい飛び出ている。しかし彼女は平民であるし、特待生ということで学校に通っているのだ。
シャノン自身は、その話にこれっぽっちも興味が無いらしい。
これっぽっちという表現をしたのはルネ。右手の親指と人差し指を丸めて、ほんの隙間を作って表現してくれた。
「騎士科の私たちには、てんで関係ない話だけどね」
とルネは言う。
そう、ミレーヌにとって皇子の婚約者なんて関係ない話。そのために騎士科を選んだのだから。でも、自分が魔導科にいたら、シャノンを守ることができたのではないか、とも思える。いや、天の声を信じるのであれば、恐らくシャノンと敵対する関係になっていたかもしれない。だから、今、騎士科にいてよかったと心から思える。学科は違っていても、彼女を守ることはできるはずだ。
「シャノン。変なしきたりとか、変な決まりに巻き込んでしまってごめんなさい。でも、何か困ったことがあったら、相談して欲しいと思うし、私の相談にものってほしいと思う」
シャノンはミレーヌのその言葉に力強く頷いた。
「ありがとう、ミレーヌさん」
そんな女の友情を、遠くから見ている男が一人。
この男が、どこから見ていて何を思ったか。
と紙の束を抱えたミレーヌが戻ってきた。少し、長い距離を全速力疾走してしまったかもしれない。はあ、と肩で大きく息をつく。
「これ、もらってきたから」
息もとぎれとぎれに言いながら、その紙の束をベンチの上に置いた。
――その書き損じのきれいなところだけを、濡れた教科書に挟んであげて。
ミレーヌは書き損じの何も書いていないところを破って、それを濡れた教科書に挟んでいく。するとルネもシャノンもミレーヌの真似をして作業をし始めた。
――次はその本を立てて、シャノンに風の魔法をかけてもらって。
ミレーヌはベンチの背もたれに、紙を挟んだ本を立てかけた。
「シャノン、この本に風の魔法をかけられるかしら。風通しをよくして、乾かしたいのだけれど」
シャノンは頷き、風を起こした。それはとても優しく、心地よい風だった。
シャノンの魔法はどこか優しい、ミレーヌはそう思う。
「なんか、ちょっとマシになったような気がしない?」
とルネ。
「そうかも」
とミレーヌ。
「あとはこれを何回か繰り返せばいいと思うのだけど」
――最後に重しを乗せるといいわよ。
「シャノン。ある程度乾いたら、あとは重しを乗せてみてね」
ミレーヌが言うと、シャノンは小さく頷く。
濡れた本を元に戻す魔法を使えばいいじゃないか、と思うかもしれない。ところが、そんな便利な魔法は無いのだ。魔法は、ここにある自然の力を借りるものだから、亡くなった人を生き返らすことができないように、壊れたものを元通りにすることはできない。できるだけ、それに近い状態に修復する手伝いをするもの。それが魔法というもの。
「ミレーヌ」とルネはまた友の名を呼ぶ。
ありがとう、とルネはミレーヌに抱きつく。これがルネなりの感謝の表現なのだ。
ミレーヌは慣れた。恐らくシャノンも慣れていることだろう。
「あの、ミレーヌさん。本当にありがとうございます」
シャノンも気持ちが落ち着いたのか、やっと声を発した。そして、頭をペコリと下げる。ふわふわの髪がふわふわと揺れた。
「どういたしまして」
ミレーヌはシャノンに向かって、ニッコリと笑った。そうやって笑うことが彼女を励ますための一つの手段であるような気がしたから。
三人はシャノンを真ん中にして、並んでベンチに座った。シャノンの服も乾いてきた。今日のような気候であれば風邪をひく心配もないだろう。
「あの、シャノン。私がこういうことを言う立場ではないとは思うのだけれど。その、ごめんなさい」
ミレーヌが頭を下げる。貴族と平民の争い、そのような感じがしたからミレーヌは謝ったのだ。
「ミレーヌさん。謝らないでください。その、ミレーヌさんのせいではないですし。それに、私の態度にも悪いところがあるのですから」
教科書をしっかりと抱いたシャノンが言った。
「今年の魔導科ってさ。あの皇子の話があるからさ。なんかピリピリしてるんだよね」
ルネが言う。
そう、皇子のアレ。婚約者の話。優秀な魔導科の女子生徒からその皇子の婚約者が選ばれるという話。
優秀、という意味では、シャノンが他の生徒よりも頭二つ分くらい飛び出ている。しかし彼女は平民であるし、特待生ということで学校に通っているのだ。
シャノン自身は、その話にこれっぽっちも興味が無いらしい。
これっぽっちという表現をしたのはルネ。右手の親指と人差し指を丸めて、ほんの隙間を作って表現してくれた。
「騎士科の私たちには、てんで関係ない話だけどね」
とルネは言う。
そう、ミレーヌにとって皇子の婚約者なんて関係ない話。そのために騎士科を選んだのだから。でも、自分が魔導科にいたら、シャノンを守ることができたのではないか、とも思える。いや、天の声を信じるのであれば、恐らくシャノンと敵対する関係になっていたかもしれない。だから、今、騎士科にいてよかったと心から思える。学科は違っていても、彼女を守ることはできるはずだ。
「シャノン。変なしきたりとか、変な決まりに巻き込んでしまってごめんなさい。でも、何か困ったことがあったら、相談して欲しいと思うし、私の相談にものってほしいと思う」
シャノンはミレーヌのその言葉に力強く頷いた。
「ありがとう、ミレーヌさん」
そんな女の友情を、遠くから見ている男が一人。
この男が、どこから見ていて何を思ったか。
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