皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました

澤谷弥(さわたに わたる)

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隊長、事件です(1)

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 事件というものは突然起こる。できることなら「これから事件が起きますよ」とせめて十分前には予告して欲しいものだ。

 ミレーヌとルネは図書館へ行くために、校舎の脇を歩いていた。ここから中庭を抜けて図書館へ。今日は天気も曇り空でイマイチなせいか、外を歩いている人間なんて他にいない。時期が時期なだけに、皆、校舎の中でそれぞれの課題をこなしたり、隣接している訓練場で訓練をしたりしているのだろう。もしくは自宅で課題やレポートこなすために、早々に帰宅したか、のどれか。
 二人は、とっくに学科のレポート提出を終えていた。だから、図書館へ向かっているのは娯楽のためであった。卒業に向けた課題の緊張感から解放されたい、という思いもある。

「きゃ」と女性の声が聞こえた。

「今、何か聞こえなかった?」とルネが言い、二人顔を見合わせる。

「やめてください」と聞こえたように思う。
 でも、どこから聞こえた? と二人できょろきょろと周囲を確認する。

「ルネ、あそこ」とミレーヌはルネの耳元で囁く。
 校舎の屋上、一人の女性の後ろ姿が見える。
「なんで屋上に?」ルネが尋ねる。そもそも屋上は立ち入り禁止のはず。

 ――ミレーヌ。お兄様を呼んできて。隊長室にいるはずだから。

 天の声が聞こえた。

 ――お願い。シャノンを助けて。

「え? シャノン?」

「ミレーヌ、どうしたの? シャノンに何かあった?」

「多分、あの子、シャノンだと思う。私、他の人、呼んでくる」

「わかった。私は、とりあえず屋上に向かう」

 言い、二人は別れ、それぞれがそれぞれの目的地へと向かった。

 ミレーヌは、全力で走った。隊長室へ向かうのは、二回目だ。廊下は走らない、なんてかまっていられない。廊下も全力疾走。

 扉をノックするのも煩わしい。それでも、ノックだけして返事を待たずに入室する。
「マーティン隊長」
 勢いよく扉を開け、兄の名を呼ぶ。
「すぐに来てもらえませんか? シャノンが」
 両手を太ももについて、身体を二つ折りにして言った。息があがって、それだけ言うのが精いっぱいだった。

 マーティンはいつもの様子と違うミレーヌに気付き「わかった、すぐ向かおう」と席を立つ。つられて、エドガーも立ち上がる。そして幸いなことに、隊長室にはこの二人しかいなかった。

「シャノンが、校舎の、屋上に」
 ミレーヌは肩を大きく上下させながら、マーティンへ言った。

「とにかく、校舎に向かえばいいのだな?」
 マーティンの問いに、はい、と答える。
 そこからの兄の行動は速かった。さすが、隊長。全力疾走の速さがミレーヌとは違う。

 エドガーはそんな彼の後を追わず、ミレーヌに付き添う。
「大丈夫か?」と問うと「はい」と答える。

「今、息を整えます。そしたら、また行きます」

「わかった、私も一緒に行こう」

☆☆

 ミレーヌが隊長室に駆け込む数分前に戻る。
 隊長室で、また事務仕事に追われているエドガー。そして同じくマーティン。隊長職の面倒なところの一つに、この事務仕事がある。
 業務計画なり、遠征予算なり、報告書なり、必ず何かしらある事務仕事。この時間、他の隊員たちは副隊長指揮の元、訓練をしているはずだ。

 何を思ったのか、エドガーが声をかけた。
「マーティン」

「何だ」

「何でもない」

 マーティンとエドガーの間には、ロビーの机がある。一つ空いている距離が、ちょうど良いのかもしれない。

「マーティン」

「用がないなら、呼ぶな。今、計算が合わないのだ」

「ならば、それが終わってからでいい」

「いや、気になるから今、話せ」

 マーティンはペンを置き、立ち上がる。そして、飲み物を準備すると、一つをエドガーの机の上に置く。
 マーティンは自分の席に座らず、空いているロビーの席に座った。

「で、話とはなんだ?」

「ミレーヌは婚約しているのか?」

「誰と?」
 エドガーの問いに、すかさずマーティンは突っ込みを入れる。妹が婚約した、という話は今のところ聞いていない。

「それを私が聞いているのだが」

「残念ながら、そう言った話は今のところ聞いていないな」
 そこでマーティンは飲み物を一口飲む。

「では、その……。学校の中で気になる人がどうのこうの……という話は」

「そういった話も聞いたことはない。そもそも、ミレーヌには友達が少ない。あの騎士科ではそういった話にもならんだろう。好きなヤツができたらさっさと連れてこいと言っているのに、その気配すらない。このままでは卒業パーティのエスコートの相手さえも決まらない」
 なんだか、マーティンの愚痴が始まってしまった。

「それでエドガー。君はミレーヌのことをどう思っているのだ?」
 とマーティンが問いかけた時「マーティン隊長」と、勢いよく扉を開けた少女がいた。
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