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8.また来てもいいですか(2)
「レインちゃん。そろそろおいとましようかね」
祖母が言い、よっこらせ、と立ち上がる。
「お姉ちゃん、もう、帰るの?」
「おねーちゃん、もっとあそんで」
「こらこら、アニー、シャリー。お姉ちゃんはお仕事があるから」
こんなとき、レインはどのような言葉を口にしたらいいかがわからない。
「また、来てもいいですか?」
と、姉妹の母親に聞くことしかできない。
「ええ、もちろん。今度はおばあちゃん抜きでいらっしゃい」
母親がそう言うものだから。
「あらあら。年寄りは邪魔ってことかい?」
と祖母も笑って答える。
でもレインはそれにどうやって返事をしたらいいかがわからない。
ただ、小さく「また、来ます」とだけ言った。
あの親子の家を後にする。レインは何度も頭を下げてしまった。あの母親に、そしてあの姉妹に。
「レインちゃん、ちょっと急ごうかね。まだまだ薬を届けなければいけない家があるんだよ」
「もしかして、私のせいで遅くなってしまったのでしょうか」
「そんなこと無いよ。あの家はね、お母さんがちょっと疲れているから、ああやって話を聞いて、子供たちの様子を見ることも必要なんだよ。今日はレインちゃんが一緒に遊んでくれたから、お母さんも喜んでいたよ」
「また、あの子たちと一緒に遊びたいです」
「そうだね」
このレインという孫は、年齢よりも大人びて見えるけれど、心は幼いということに気付いた。多分、人と接した経験が圧倒的に少ないのだ。どのような生活がそうさせたのか、祖母は知らない。だがここにいる間だけは、その心の成長を見守るのも悪くはないのかもしれない。
「レインちゃんはお友達とどのようなことを遊んでいたんだい?」
「友達?」
はて、友達とは何だろうか。
「友達って、お兄様のことではありませんよね」
「そうだね。ライトくんはレインちゃんの家族だからね。学校に行っていたんだろう? 学校で一緒にお話ししたり遊んだりする親しい子はいなかったのかい?」
答えはもちろん「いません」なのだが。
なぜかレインは、また鼻の奥が痛くなった。学園時代も、年上の学生と接する機会が多かった。そのためか、彼女に寄ってくるような人間はいなかった。魔法の勉強をするのは嫌いではなかったが、授業と授業の合間のちょっとした時間は嫌いだった。だから、その嫌いな時間を有意義に使おうと思い、魔導書を読み始める。すると、余計に人が寄り付かなくなる。そして、レインはその時間が余計に嫌いになる、という悪循環。
たまに学園内で兄やトラヴィスと顔を合わせることもあった。兄とは昼ご飯を一緒に食べることもあった。課題に困っていると、研究所にも連れて行ってくれ、そこで課題を教えてもらうこともあった。思い返せば、困った時に側にいてくれたのはいつでも兄だった。
トラヴィスは、いつもレインが一人でいるところを見計らって声をかけてきた。別に何も特別なことを話すわけでは無い。授業でどんな魔法を習ったとか、そういった報告をすると、彼は必ず笑顔で「そうか、よかったな」と声をかけてくれた。
彼はいつも、暖かな笑顔でレインを見守ってくれていた。
魔導士団の入団が決まった時も、トラヴィスは誰よりも喜んでくれた。入団の祝いにと、耐毒性の魔法付与がされた髪飾りを贈ってくれた。それは今でも身に着けている。少し端の方が欠けてしまったけれど、それでも身に着けているのはなぜだろう。
魔物討伐の遠征のときも、トラヴィスは誰よりも体の小さなレインを気遣ってくれた。
トラヴィスは……。
なぜか、トラヴィスのことばかり思い出してしまう。
トラヴィスは元気にしているだろうか。
目の奥が熱くなった。
祖母が言い、よっこらせ、と立ち上がる。
「お姉ちゃん、もう、帰るの?」
「おねーちゃん、もっとあそんで」
「こらこら、アニー、シャリー。お姉ちゃんはお仕事があるから」
こんなとき、レインはどのような言葉を口にしたらいいかがわからない。
「また、来てもいいですか?」
と、姉妹の母親に聞くことしかできない。
「ええ、もちろん。今度はおばあちゃん抜きでいらっしゃい」
母親がそう言うものだから。
「あらあら。年寄りは邪魔ってことかい?」
と祖母も笑って答える。
でもレインはそれにどうやって返事をしたらいいかがわからない。
ただ、小さく「また、来ます」とだけ言った。
あの親子の家を後にする。レインは何度も頭を下げてしまった。あの母親に、そしてあの姉妹に。
「レインちゃん、ちょっと急ごうかね。まだまだ薬を届けなければいけない家があるんだよ」
「もしかして、私のせいで遅くなってしまったのでしょうか」
「そんなこと無いよ。あの家はね、お母さんがちょっと疲れているから、ああやって話を聞いて、子供たちの様子を見ることも必要なんだよ。今日はレインちゃんが一緒に遊んでくれたから、お母さんも喜んでいたよ」
「また、あの子たちと一緒に遊びたいです」
「そうだね」
このレインという孫は、年齢よりも大人びて見えるけれど、心は幼いということに気付いた。多分、人と接した経験が圧倒的に少ないのだ。どのような生活がそうさせたのか、祖母は知らない。だがここにいる間だけは、その心の成長を見守るのも悪くはないのかもしれない。
「レインちゃんはお友達とどのようなことを遊んでいたんだい?」
「友達?」
はて、友達とは何だろうか。
「友達って、お兄様のことではありませんよね」
「そうだね。ライトくんはレインちゃんの家族だからね。学校に行っていたんだろう? 学校で一緒にお話ししたり遊んだりする親しい子はいなかったのかい?」
答えはもちろん「いません」なのだが。
なぜかレインは、また鼻の奥が痛くなった。学園時代も、年上の学生と接する機会が多かった。そのためか、彼女に寄ってくるような人間はいなかった。魔法の勉強をするのは嫌いではなかったが、授業と授業の合間のちょっとした時間は嫌いだった。だから、その嫌いな時間を有意義に使おうと思い、魔導書を読み始める。すると、余計に人が寄り付かなくなる。そして、レインはその時間が余計に嫌いになる、という悪循環。
たまに学園内で兄やトラヴィスと顔を合わせることもあった。兄とは昼ご飯を一緒に食べることもあった。課題に困っていると、研究所にも連れて行ってくれ、そこで課題を教えてもらうこともあった。思い返せば、困った時に側にいてくれたのはいつでも兄だった。
トラヴィスは、いつもレインが一人でいるところを見計らって声をかけてきた。別に何も特別なことを話すわけでは無い。授業でどんな魔法を習ったとか、そういった報告をすると、彼は必ず笑顔で「そうか、よかったな」と声をかけてくれた。
彼はいつも、暖かな笑顔でレインを見守ってくれていた。
魔導士団の入団が決まった時も、トラヴィスは誰よりも喜んでくれた。入団の祝いにと、耐毒性の魔法付与がされた髪飾りを贈ってくれた。それは今でも身に着けている。少し端の方が欠けてしまったけれど、それでも身に着けているのはなぜだろう。
魔物討伐の遠征のときも、トラヴィスは誰よりも体の小さなレインを気遣ってくれた。
トラヴィスは……。
なぜか、トラヴィスのことばかり思い出してしまう。
トラヴィスは元気にしているだろうか。
目の奥が熱くなった。
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