6 / 6
6
女性に対して「いいな、あの子」と思うときもあったが、それでも生涯を共にしたいと思う女性とは、騎士団に入団してから出会えていない。
まして第五騎士団という特殊な騎士団の団長を務めていれば、出会いの幅も狭くなってしまう。それに文句を言う騎士たちもいたが、オリベルの心の奥にはラウニの存在があったため、彼自身は仲間を宥める側にまわっていた。
そんなラウニと再会できるとは、オリベルも思ってもいなかった。
ラウニは騎士団の事務官としてオリベルの前に現れた。さらに男爵令嬢という肩書まで身につけていた。
それでもあのころと変わらぬ眼差しは、オリベルをすぐさま射抜いた。
しかし、オリベルは第五騎士団の所属である。きっと彼女も他の事務官と同じように、第一騎士団を本命にして、次点として第二騎士団から第四騎士団の彼らが目的なのだろうと思っていた。
だというのに――。
眠るラウニを起こさぬよう、オリベルは寝台からおりた。
「……んっ」
かわいらしい声が聞こえ、びくりと身体を震わせる。
ラウニはまだ眠ったままだった。
不謹慎だが、魔獣に噛まれてよかったのかもしれない。
あのくらいの傷であれば、なんともないと思っていたのは間違いない。そして、ラウニを助けるのに夢中で、あの魔獣が毒をもっていたというのをころっと忘れていたのは、オリベルの失態である。
「……ラウニ」
彼女の背に、そっと毛布をかけた。
今はまだ、この気持ちは伝えられない。気持ちを伝えて、今の関係が壊れるのが怖いからだ。
それでもまだ、この夢をみたいという気持ちもある。
(今日はもう少し、俺のそばにいてくれないだろうか……帰したくないんだ……)
オリベルはきゅっと拳を握りしめた。
**~*~*~*
ラウニの目が覚めたとき、部屋は暗かった。ゆっくりと身体を起こして周囲を見回すと、オリベルの姿が見えない。
魔獣の毒を受けて、ぐったりとしていた彼はどこにいったのだろう。
慌てて立ち上がると、肩からパサリと毛布が落ちた。
(もしかして、オリベル団長が?)
落ちた毛布を拾い、それを丁寧に畳んで寝台の上に置く。
急いで隣の部屋へと向かう。そこは煌々と明かりがついていた。
「ラウニ……目が覚めたのか?」
彼女の気配を察したオリベルが、すぐさま歩み寄ってくる。
「あ、はい。すみません。眠ってしまったみたいで……オリベル団長、身体の具合はいかがですか?」
「ああ、もう大丈夫だ」
ぐるぐると肩を回そうとして、「うっ」と顔をしかめる姿を見て、ラウニはくすりと笑みをこぼす。
「無理はしないでください……ところで、今、何時ごろでしょうか?」
すっかりと寝入ってしまったし、あの部屋は暗かった。となれば、間違いなく外も暗いはず。太陽はすっかりと沈んでしまったにちがいない。
「ああ、そうだな。八時くらいだ」
「え?」
なんという時間まであそこで休んでしまったのだろうか。
「ごめんなさい。こんな時間までここにいては、ご迷惑ですよね」
「……いや? 逆におまえがいてくれないと、俺は困る……おまえにそばにいてほしい……」
トクンと胸が震えた。
このような時間帯となれば、屯所にいるような者も数少ない。見回りの騎士か、仕事の終わらない者か。
しんと静まり返った執務室。ラウニがオリベルを見上げれば、彼の紺色の瞳と目が合った。
「今夜は帰すつもりはない……」
密室に男と女が二人きり。まして相手は思いを寄せる男性。となれば、ラウニだってほのかな劣情を期待してしまう。
オリベルの顔が近づいてきた。トクントクンと心臓が早鐘を打つ。
だが、そこで彼は顔を逸らす。その視線の先には――。
「なっ……。えぇ! オリベル団長……。なんなんですか、この書類。さっきよりも増えてるじゃないですか」
ラウニが口にした『さっき』とは、彼女が書類をこの部屋に運んできたときのことだ。
「いや、体調が戻ったから急ぎの書類を片づけていたんだが、事務官長がやってきてな。追加で書類をおいていった。あ、今日中の案件だけは急いで終わらせて、事務官長に手渡した。だけど、これが明日中らしい」
明日中の書類はやっぱり机の上にこんもりと積んである。
「というわけで、この仕事が終わるまで、お前のことを帰すつもりはない」
「えぇっ」
(今夜は帰さないって、そういう意味なの?)
ラウニの心の声は、残念ながらオリベルには届かなかった。
【完】
まして第五騎士団という特殊な騎士団の団長を務めていれば、出会いの幅も狭くなってしまう。それに文句を言う騎士たちもいたが、オリベルの心の奥にはラウニの存在があったため、彼自身は仲間を宥める側にまわっていた。
そんなラウニと再会できるとは、オリベルも思ってもいなかった。
ラウニは騎士団の事務官としてオリベルの前に現れた。さらに男爵令嬢という肩書まで身につけていた。
それでもあのころと変わらぬ眼差しは、オリベルをすぐさま射抜いた。
しかし、オリベルは第五騎士団の所属である。きっと彼女も他の事務官と同じように、第一騎士団を本命にして、次点として第二騎士団から第四騎士団の彼らが目的なのだろうと思っていた。
だというのに――。
眠るラウニを起こさぬよう、オリベルは寝台からおりた。
「……んっ」
かわいらしい声が聞こえ、びくりと身体を震わせる。
ラウニはまだ眠ったままだった。
不謹慎だが、魔獣に噛まれてよかったのかもしれない。
あのくらいの傷であれば、なんともないと思っていたのは間違いない。そして、ラウニを助けるのに夢中で、あの魔獣が毒をもっていたというのをころっと忘れていたのは、オリベルの失態である。
「……ラウニ」
彼女の背に、そっと毛布をかけた。
今はまだ、この気持ちは伝えられない。気持ちを伝えて、今の関係が壊れるのが怖いからだ。
それでもまだ、この夢をみたいという気持ちもある。
(今日はもう少し、俺のそばにいてくれないだろうか……帰したくないんだ……)
オリベルはきゅっと拳を握りしめた。
**~*~*~*
ラウニの目が覚めたとき、部屋は暗かった。ゆっくりと身体を起こして周囲を見回すと、オリベルの姿が見えない。
魔獣の毒を受けて、ぐったりとしていた彼はどこにいったのだろう。
慌てて立ち上がると、肩からパサリと毛布が落ちた。
(もしかして、オリベル団長が?)
落ちた毛布を拾い、それを丁寧に畳んで寝台の上に置く。
急いで隣の部屋へと向かう。そこは煌々と明かりがついていた。
「ラウニ……目が覚めたのか?」
彼女の気配を察したオリベルが、すぐさま歩み寄ってくる。
「あ、はい。すみません。眠ってしまったみたいで……オリベル団長、身体の具合はいかがですか?」
「ああ、もう大丈夫だ」
ぐるぐると肩を回そうとして、「うっ」と顔をしかめる姿を見て、ラウニはくすりと笑みをこぼす。
「無理はしないでください……ところで、今、何時ごろでしょうか?」
すっかりと寝入ってしまったし、あの部屋は暗かった。となれば、間違いなく外も暗いはず。太陽はすっかりと沈んでしまったにちがいない。
「ああ、そうだな。八時くらいだ」
「え?」
なんという時間まであそこで休んでしまったのだろうか。
「ごめんなさい。こんな時間までここにいては、ご迷惑ですよね」
「……いや? 逆におまえがいてくれないと、俺は困る……おまえにそばにいてほしい……」
トクンと胸が震えた。
このような時間帯となれば、屯所にいるような者も数少ない。見回りの騎士か、仕事の終わらない者か。
しんと静まり返った執務室。ラウニがオリベルを見上げれば、彼の紺色の瞳と目が合った。
「今夜は帰すつもりはない……」
密室に男と女が二人きり。まして相手は思いを寄せる男性。となれば、ラウニだってほのかな劣情を期待してしまう。
オリベルの顔が近づいてきた。トクントクンと心臓が早鐘を打つ。
だが、そこで彼は顔を逸らす。その視線の先には――。
「なっ……。えぇ! オリベル団長……。なんなんですか、この書類。さっきよりも増えてるじゃないですか」
ラウニが口にした『さっき』とは、彼女が書類をこの部屋に運んできたときのことだ。
「いや、体調が戻ったから急ぎの書類を片づけていたんだが、事務官長がやってきてな。追加で書類をおいていった。あ、今日中の案件だけは急いで終わらせて、事務官長に手渡した。だけど、これが明日中らしい」
明日中の書類はやっぱり机の上にこんもりと積んである。
「というわけで、この仕事が終わるまで、お前のことを帰すつもりはない」
「えぇっ」
(今夜は帰さないって、そういう意味なの?)
ラウニの心の声は、残念ながらオリベルには届かなかった。
【完】
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました
春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。
名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。
誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。
ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、
あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。
「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」
「……もう限界だ」
私は知らなかった。
宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて――
ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。
外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます
刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
ご感想ありがとうございます。
そんなオチでした!!
ここはヒーローに頑張ってもらいたいところです。
ご感想ありがとうございます。
そっちでした!!
いや、違うほうも考えてはいるかもしれないのですが、まずは目先のソレを。。。
ありがとうございます。