婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。

澤谷弥(さわたに わたる)

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第四章

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◇◆◇◆

 リューディアもこのシャルコに来て十日も過ぎれば、お手伝いさんと一緒に掃除と洗濯、料理もできるようになっていた。元々学習意欲の高い子であり、さらに素直な性格が、新しい知識をぐんぐんと吸収するのに役立っているようだ。ヘイデンとイルメリが仕事をしている間は、ミルコとヴィルは子供たちがたくさん集まっている場所にお手伝いさんと共に行っているようだ。そこには、同じように両親が仕事をしている子供たちが集まっていて、一緒に遊んだりおやつを食べたり昼寝をしたりしている。つまり、託児所。

 一月も過ぎた頃、採掘師たちからの呼び名は「お嬢ちゃん」から「リディアちゃん」へと変わっていた。イルメリも「姫さん」から「イルメリさん」へ。

 それは、とある日の出来事。
 採掘師たちが採掘のためにもう少し奥の採掘場へと進もうとしたとき。

「そちら、地盤が緩んでいるので進んではいけません」
 魔導士のローブを纏い、落下物から頭を守るためにフードをしっかりとかぶり、そして眼鏡をかけたリューディアが、ガイルへと声をかけた。驚いたのはガイル。
「だが、ここを行かなきゃ、あっちの採掘現場へ行けないぞ?」

「はい。ですから、そちらの坑道はわたくしたちの方で整備しますので、今日は西側の現場の採掘をお願いします。今日の予定は西側の現場での採掘になっているはずです」

「嬢ちゃんの言うことを、おいそれ聞いてられっかって。俺たちは毎日決められた量を採掘しないと、金がもらえないんだよ。西の現場、粗方掘っちまったから、もう、原石は出ないんだよ」
 と言い出したのは、採掘師の一人。
「いいえ。まだ、掘っていない箇所があります。西側の五号区。今日はそちらの現場をお願いします。あちらの現場への道は、今日中にわたくしたちが整備しますから」
 リューディアは同じことを口にした。それでも採掘師たちはリューディアの言うことを聞こうとはしない。採掘師の幾人かは、リューディアが進んではいけないと口にした坑道へと向かう。パラパラと頭上からは、粉のように土や小石が落ちてきている。人の歩く振動によって、その量は次第に増えてきているようにも見えた。

 バラララララッ……。

 激しい音を立てて、大き目の岩が落ちてきたのは彼らが坑道を歩き始めてすぐのこと。

「おい、お前たち」
 部下の様子を黙って伺っていたガイルもつい、声をあげてしまう。埃も舞い上がり、周囲は砂塵によって視界を奪われる。
「無事か、怪我はないか」
 ガイルの声しか聞こえない。だが、よくよく耳を澄ませば、ケホケホ、ゲホッと咽ているような声が聞こえてくる。

「師長、俺たちはなんとか」

「はい、特に怪我もありません」

 それが嘘ではないと確信できたのは、その砂埃が全て引いてから。

「また、崩落かよ」
 ガイルは忌々しく口にする。今回は規模が小さいが、数月すうつき前には大きな事故が起こった。幸いなことに採掘師たちは無事だったが、採鉱を担当している幾人かの魔導士たちがそれによって怪我をした。そして彼らは今、この仕事から離れている。

「ですから、そちらの坑道に進んではならないと言ったではありませんか」
 埃の中からゆったりと歩いてきたリューディア。足元には彼女が庇ったであろう採掘師が一人。

「おい、大丈夫か? 怪我をしているのか?」
 ガイルは慌てて倒れている採掘師の元へと駆け寄る。

「すいません。この方が巻き込まれそうでしたので、わたくしの魔法でちょっと飛ばしてしまいました」

「そ、そう。そうなんすよ、師長。この嬢ちゃん、俺らのことを助けてくれたんです」
 様子を見ていた他の採掘師がガイルに説明する。
 ガイルは倒れている部下とリューディアを交互に見つめていた。

「そうか、ありがとう。リディア嬢……」
 ガイルがリューディアのことを嬢ちゃんと呼ばなくなったのは、これがきっかけだ。
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