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第五章
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リューディアはただ驚くことしかできない。見上げた先にあるのは楽しそうに笑っているエメレンスの顔。
「久しぶりだね、リューディア。怪我はない?」
「あ、はい……。あの、ありがとうございます。失態をお見せして、申し訳ございません」
「いや。君が無事で何よりだよ」
エメレンスはにっこりと笑うと、彼女を解放し足場の良いところへ立たせる。
「ところで、今。リューディアは何をしていたの?」
「あ、レンさま。その、ここではわたくし、リディアと名乗っておりまして。その、イルメリお義姉さまの妹ということになっているのです。ですからどうか、わたくしのことはディアとお呼びください」
「ディア……」
と、エメレンスは口の中で呟く。彼女の愛称を呼ぶことができるということに、喜びをかみしめているのだ。
「ああ、ボクもここではレン・ホリノヴァだ。ホリノヴァは母親の旧姓だね」
「え、てことは、レンさま、もしかして?」
「うん、もしかしなくても、ディアが思っている通りだと思う。今日から魔導士団採掘部隊に異動になったレン・ホリノヴァです」
そこでエメレンスがいたずらを仕掛けた子供のように笑えば、リューディアは驚きを隠せない。
「ほら、採掘部隊の人手不足の話を聞いて。ボクでも役に立てることがあればと思って、希望を出したんだ」
「そうだったんですね」
「おい、ディア、レン」
と、後ろの方から二人を呼ぶ声が聞こえる。この声はリューディアの兄であるヘイデンのものだし、二人をこのように呼べるのも間違いなく採掘部隊長を務めるヘイデンである。
「急にレンが走り出したから驚いたよ。ってここ、崩れているじゃないか。もしかして、ディア?」
腕を組み、落とし穴を掘った子供を叱るかのような表情を浮かべるヘイデン。そして、それがバレてしまったというように焦る表情をするリューディア。
「すいません。こちらも少し緩んでいたようで。わたくしが足を乗せたら、その崩れてしまったのです」
「そうか。下まで落ちなくてよかったよ」
「それは、あの、レンさまが助けてくださったので」
「そうか。ありがとう、レン。だから君は途中から走り出したんだな」
「え、ええ、まあ。はい」
エメレンスはこの坑道の奥から魔力がグラリと歪むのを感じた。だから、何かが彼女に起こっていると思い、自分がもてる力の全てを駆使して、ここに向かってきたのだ。
「だからって、空間転移とか、無駄に高度な魔法を使うことは褒められたものではない」
というヘイデンの言葉で、エメレンスが空間転移を使ってまでリューディアを助けてくれたことに気付く。
「だが、それでディアが無事であったのも事実。ありがとう、レン。ということで、ディア。ここにいるのは俺の部下のレン・ホリノヴァだ。エメレンス殿下ではないから、気をつけろよ」
「はい。わかりました。レンさま。先ほども言いましたが、わたくしもリディア・オーストンと名乗っておりますので」
「ディア。そのレンさまというのもやめた方がいい。ここでは君とエメレンス殿下は対等だからな」
「え、と。では、なんてお呼びすれば?」
「ディア。ボクのことは、レンと呼んで。ボクも君のことはディアと呼ぶし、ね、呼んでみて」
「え、と、あ、はい。レン……」
さま、とつけたくなるところを、リューディアはぐっと堪えた。
「よし、君たちは同僚だし、俺の部下だ。何か問題があったら、すぐに俺に報告してくれ」
新たな部下を得たヘイデンは、嬉々として微笑んでいる。
「はい。よろしくお願いします。ヘイデン部隊長」
「もしかして、わたくしも。お兄さまのことは部隊長とお呼びした方がよろしいのでしょうか?」
「いや、ディアはいいよ。ディアからそう言われても、なんか気持ち悪いし」
「お兄さま、気持ち悪いだなんて、酷いです……」
兄妹のやり取りを、エメレンスもにこやかな笑みを浮かべながら聞いている。
「ディアが元気そうで安心したよ」
それがエメレンスの本音だった。あのモーゼフから婚約解消を突き付けられ、さらに美醜に関する言葉も投げかけられ、彼女が傷ついているものと思っていたからだ。だがそのような様子は一かけらも無い。エメレンスが贈った眼鏡をかけながらも、このように笑って生き生きとした表情を見せている。
「では、レン。早速で悪いのだが、この北側の坑道の安全確認と、危険個所の整備をディアと共に行って欲しい」
「はい」
「ディアはこの坑道に詳しいから、わからないことがあれば彼女に聞いてくれ」
「はい、ディア、よろしくね」
「はい」
「それから、夕方。レンのことは採掘師の皆にも紹介するから。そのつもりでいてくれ」
「わかりました」
「悪いが俺は今日中に今月の採掘量の報告書を作り上げなければならない。事務所内にいるから、何かあればそこにいる」
そう言って事務所へ戻るヘイデンの後姿を見送ってから、エメレンスはもう一度リューディアに向かい合った。
「久しぶりだね、リューディア。怪我はない?」
「あ、はい……。あの、ありがとうございます。失態をお見せして、申し訳ございません」
「いや。君が無事で何よりだよ」
エメレンスはにっこりと笑うと、彼女を解放し足場の良いところへ立たせる。
「ところで、今。リューディアは何をしていたの?」
「あ、レンさま。その、ここではわたくし、リディアと名乗っておりまして。その、イルメリお義姉さまの妹ということになっているのです。ですからどうか、わたくしのことはディアとお呼びください」
「ディア……」
と、エメレンスは口の中で呟く。彼女の愛称を呼ぶことができるということに、喜びをかみしめているのだ。
「ああ、ボクもここではレン・ホリノヴァだ。ホリノヴァは母親の旧姓だね」
「え、てことは、レンさま、もしかして?」
「うん、もしかしなくても、ディアが思っている通りだと思う。今日から魔導士団採掘部隊に異動になったレン・ホリノヴァです」
そこでエメレンスがいたずらを仕掛けた子供のように笑えば、リューディアは驚きを隠せない。
「ほら、採掘部隊の人手不足の話を聞いて。ボクでも役に立てることがあればと思って、希望を出したんだ」
「そうだったんですね」
「おい、ディア、レン」
と、後ろの方から二人を呼ぶ声が聞こえる。この声はリューディアの兄であるヘイデンのものだし、二人をこのように呼べるのも間違いなく採掘部隊長を務めるヘイデンである。
「急にレンが走り出したから驚いたよ。ってここ、崩れているじゃないか。もしかして、ディア?」
腕を組み、落とし穴を掘った子供を叱るかのような表情を浮かべるヘイデン。そして、それがバレてしまったというように焦る表情をするリューディア。
「すいません。こちらも少し緩んでいたようで。わたくしが足を乗せたら、その崩れてしまったのです」
「そうか。下まで落ちなくてよかったよ」
「それは、あの、レンさまが助けてくださったので」
「そうか。ありがとう、レン。だから君は途中から走り出したんだな」
「え、ええ、まあ。はい」
エメレンスはこの坑道の奥から魔力がグラリと歪むのを感じた。だから、何かが彼女に起こっていると思い、自分がもてる力の全てを駆使して、ここに向かってきたのだ。
「だからって、空間転移とか、無駄に高度な魔法を使うことは褒められたものではない」
というヘイデンの言葉で、エメレンスが空間転移を使ってまでリューディアを助けてくれたことに気付く。
「だが、それでディアが無事であったのも事実。ありがとう、レン。ということで、ディア。ここにいるのは俺の部下のレン・ホリノヴァだ。エメレンス殿下ではないから、気をつけろよ」
「はい。わかりました。レンさま。先ほども言いましたが、わたくしもリディア・オーストンと名乗っておりますので」
「ディア。そのレンさまというのもやめた方がいい。ここでは君とエメレンス殿下は対等だからな」
「え、と。では、なんてお呼びすれば?」
「ディア。ボクのことは、レンと呼んで。ボクも君のことはディアと呼ぶし、ね、呼んでみて」
「え、と、あ、はい。レン……」
さま、とつけたくなるところを、リューディアはぐっと堪えた。
「よし、君たちは同僚だし、俺の部下だ。何か問題があったら、すぐに俺に報告してくれ」
新たな部下を得たヘイデンは、嬉々として微笑んでいる。
「はい。よろしくお願いします。ヘイデン部隊長」
「もしかして、わたくしも。お兄さまのことは部隊長とお呼びした方がよろしいのでしょうか?」
「いや、ディアはいいよ。ディアからそう言われても、なんか気持ち悪いし」
「お兄さま、気持ち悪いだなんて、酷いです……」
兄妹のやり取りを、エメレンスもにこやかな笑みを浮かべながら聞いている。
「ディアが元気そうで安心したよ」
それがエメレンスの本音だった。あのモーゼフから婚約解消を突き付けられ、さらに美醜に関する言葉も投げかけられ、彼女が傷ついているものと思っていたからだ。だがそのような様子は一かけらも無い。エメレンスが贈った眼鏡をかけながらも、このように笑って生き生きとした表情を見せている。
「では、レン。早速で悪いのだが、この北側の坑道の安全確認と、危険個所の整備をディアと共に行って欲しい」
「はい」
「ディアはこの坑道に詳しいから、わからないことがあれば彼女に聞いてくれ」
「はい、ディア、よろしくね」
「はい」
「それから、夕方。レンのことは採掘師の皆にも紹介するから。そのつもりでいてくれ」
「わかりました」
「悪いが俺は今日中に今月の採掘量の報告書を作り上げなければならない。事務所内にいるから、何かあればそこにいる」
そう言って事務所へ戻るヘイデンの後姿を見送ってから、エメレンスはもう一度リューディアに向かい合った。
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