31 / 57
第六章
2
しおりを挟む
彼女が事務所に戻ると、ヘイデンが慌ただしく部下たちに指示を出していた。
「お兄さま、何かあったのですか?」
「ああ、ディアか。王都で魔導具の爆発事故が起こった。どうやら、ここで採掘された魔宝石が使われていたようだという話が入ったんだ。それで、いつ頃採れた魔宝石かということを確認しようとしていたところなんだ」
「お兄さま、その爆発した魔導具というのは、既にこちらにあるのですか?」
「いや、まだ情報をもらっただけだからまだ、だ。王都で魔導士団の第一研究部が預かっていて、事故になった原因を調べているようだ」
魔導士団の第一研究部と言えば、一番下の兄であるシオドリックが所属している部だ。
「その魔宝石。本当にこちらで正規に採掘されたものなのでしょうか?」
「どういう意味だい?」
ヘイデンが目を細めた。どうやらリューディアの言葉の意味を考えているようだ。
「お兄さま。今、確認してきましたが、やはりクズ石の量が合っておりません。もっと詳しく申し上げますと、そのクズ石の中でも形は悪くても魔力を取り込むことができたクズ石の量が圧倒的に減っております」
「ディア。お前、何が言いたい?」
ヘイデンも妹が言わんとしていることを察した。だが、答え合わせは必要だ。
「その爆発した魔導具に使用されていた魔宝石は、もしかしてクズ石では無いのでしょうか」
はっきりと告げるリューディア。それを聞いたヘイデンも、そうかもしれない、と思っていた。だけど自信は無かった。だがリューディアからそれを聞いたら、そうかもしれないが確信に変わる。
「ディア。つまり君は、魔導具の製作にクズ石が使われていると、そう言いたいんだな」
リューディアは力強く頷く。それは彼女も絶対にそうである、と確信しているからだ。
「このシャルコで採れる魔宝石の原石は、とても程度のいいものです。普通に使用すれば爆発など起こりません。魔導具が爆発するというのであれば、その魔導具そのものの設計が悪いときか、使用している魔宝石が悪いかのどちらかですが、今回の件、お兄さまの話を聞いている限りでは、どうやら原因は魔導具の動力となっている魔宝石にありそうだ、ということになっております。ですが、シャルコの魔宝石は、そうならないために選鉱しています。選鉱された魔宝石は、爆発を起こすような代物ではありません」
そこは自信を持って断言できる。それだけこの選鉱に携わっている魔導士たちの能力と技術は高いのだ。ここの魔宝石で爆発事故が起こるのであれば、世の中、もっと爆発事故が起こっている、というくらいに。
「シオドリックを呼ぼう」
ヘイデンは一番下の弟の名を口にした。
「こちらで解析したいから、現物と研究部の人間を寄越せ、と。そう、シオドリックに連絡をする。本来であれば俺とディアがあちらに行った方が手っ取り早いだろうが、この状況でここを空けるのは不安だからな。だから、向こうから来てもらう」
それでもその日は、魔宝石の過去の採掘についての資料を探し、まとめることで時間を要した。合間に、現場の安全確認を行う必要もあったため、定時を過ぎても仕事は終わらなかった。
リューディアが、終わった、と机に突っ伏した時には、外はもう真っ暗になっていた。
「ディア、遅くまでお疲れ」
突っ伏したリューディアに温かいお茶を持って来てくれたのはエメレンス。彼も、今回の事故について、原因となりそうな魔宝石についての調査を協力してくれた一人。リューディアが定期安全確認に行けそうにないときには、代わって現場確認へと足を運んでくれた。だからこそ、今日の調査が思ったよりスムーズに進んだのだ。
「ありがとう、レン」
伏せていた顔を起こして、リューディアはそのお茶を受け取る。もわんと湯気が漂い、口元を近づければ眼鏡が曇る。
「これでは、何も見えません」
リューディアは慌てて眼鏡を外す。眼鏡をかけることで、周囲のいろいろな危険から守ってくれるけど、気温差で曇ってしまうのが難点だった。眼鏡が曇ってしまうと、何も見えなくなってしまい、新たな危険が生まれる。
リューディアは元々視力が悪くて眼鏡をかけていたわけではない。だから、眼鏡を外しても視界は良好。その良好な視界の先には少し呆けているエメレンスの顔。
「レン、どうかしました?」
不思議そうにリューディアは首を傾けた。
「あ、う、ううん。なんでもないよ。眼鏡は曇ると何も見えなくなっちゃうから、それが不便だよね」
エメレンスは慌てて手にしていたお茶に口を近づけた。自分の気持ちを悟られないように。
「あ、あちっ」
慌てていたからか、冷めないうちに口をつけてしまったようだ。
「大丈夫ですか? 火傷、しましたか?」
エメレンスの声に驚いたリューディアは立ち上がって、彼の元へと近づき、その彼の顔を覗き込む。
「あ、だ、大丈夫だよ。ディアもお茶が熱いから気を付けて」
眼鏡をかけていないリューディアの顔が近い。
「お兄さま、何かあったのですか?」
「ああ、ディアか。王都で魔導具の爆発事故が起こった。どうやら、ここで採掘された魔宝石が使われていたようだという話が入ったんだ。それで、いつ頃採れた魔宝石かということを確認しようとしていたところなんだ」
「お兄さま、その爆発した魔導具というのは、既にこちらにあるのですか?」
「いや、まだ情報をもらっただけだからまだ、だ。王都で魔導士団の第一研究部が預かっていて、事故になった原因を調べているようだ」
魔導士団の第一研究部と言えば、一番下の兄であるシオドリックが所属している部だ。
「その魔宝石。本当にこちらで正規に採掘されたものなのでしょうか?」
「どういう意味だい?」
ヘイデンが目を細めた。どうやらリューディアの言葉の意味を考えているようだ。
「お兄さま。今、確認してきましたが、やはりクズ石の量が合っておりません。もっと詳しく申し上げますと、そのクズ石の中でも形は悪くても魔力を取り込むことができたクズ石の量が圧倒的に減っております」
「ディア。お前、何が言いたい?」
ヘイデンも妹が言わんとしていることを察した。だが、答え合わせは必要だ。
「その爆発した魔導具に使用されていた魔宝石は、もしかしてクズ石では無いのでしょうか」
はっきりと告げるリューディア。それを聞いたヘイデンも、そうかもしれない、と思っていた。だけど自信は無かった。だがリューディアからそれを聞いたら、そうかもしれないが確信に変わる。
「ディア。つまり君は、魔導具の製作にクズ石が使われていると、そう言いたいんだな」
リューディアは力強く頷く。それは彼女も絶対にそうである、と確信しているからだ。
「このシャルコで採れる魔宝石の原石は、とても程度のいいものです。普通に使用すれば爆発など起こりません。魔導具が爆発するというのであれば、その魔導具そのものの設計が悪いときか、使用している魔宝石が悪いかのどちらかですが、今回の件、お兄さまの話を聞いている限りでは、どうやら原因は魔導具の動力となっている魔宝石にありそうだ、ということになっております。ですが、シャルコの魔宝石は、そうならないために選鉱しています。選鉱された魔宝石は、爆発を起こすような代物ではありません」
そこは自信を持って断言できる。それだけこの選鉱に携わっている魔導士たちの能力と技術は高いのだ。ここの魔宝石で爆発事故が起こるのであれば、世の中、もっと爆発事故が起こっている、というくらいに。
「シオドリックを呼ぼう」
ヘイデンは一番下の弟の名を口にした。
「こちらで解析したいから、現物と研究部の人間を寄越せ、と。そう、シオドリックに連絡をする。本来であれば俺とディアがあちらに行った方が手っ取り早いだろうが、この状況でここを空けるのは不安だからな。だから、向こうから来てもらう」
それでもその日は、魔宝石の過去の採掘についての資料を探し、まとめることで時間を要した。合間に、現場の安全確認を行う必要もあったため、定時を過ぎても仕事は終わらなかった。
リューディアが、終わった、と机に突っ伏した時には、外はもう真っ暗になっていた。
「ディア、遅くまでお疲れ」
突っ伏したリューディアに温かいお茶を持って来てくれたのはエメレンス。彼も、今回の事故について、原因となりそうな魔宝石についての調査を協力してくれた一人。リューディアが定期安全確認に行けそうにないときには、代わって現場確認へと足を運んでくれた。だからこそ、今日の調査が思ったよりスムーズに進んだのだ。
「ありがとう、レン」
伏せていた顔を起こして、リューディアはそのお茶を受け取る。もわんと湯気が漂い、口元を近づければ眼鏡が曇る。
「これでは、何も見えません」
リューディアは慌てて眼鏡を外す。眼鏡をかけることで、周囲のいろいろな危険から守ってくれるけど、気温差で曇ってしまうのが難点だった。眼鏡が曇ってしまうと、何も見えなくなってしまい、新たな危険が生まれる。
リューディアは元々視力が悪くて眼鏡をかけていたわけではない。だから、眼鏡を外しても視界は良好。その良好な視界の先には少し呆けているエメレンスの顔。
「レン、どうかしました?」
不思議そうにリューディアは首を傾けた。
「あ、う、ううん。なんでもないよ。眼鏡は曇ると何も見えなくなっちゃうから、それが不便だよね」
エメレンスは慌てて手にしていたお茶に口を近づけた。自分の気持ちを悟られないように。
「あ、あちっ」
慌てていたからか、冷めないうちに口をつけてしまったようだ。
「大丈夫ですか? 火傷、しましたか?」
エメレンスの声に驚いたリューディアは立ち上がって、彼の元へと近づき、その彼の顔を覗き込む。
「あ、だ、大丈夫だよ。ディアもお茶が熱いから気を付けて」
眼鏡をかけていないリューディアの顔が近い。
24
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―
鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。
泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。
まだ八歳。
それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。
並ぶのは、かわいい雑貨。
そして、かわいい魔法の雑貨。
お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、
冷めないティーカップ、
時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。
静かに広がる評判の裏で、
かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。
ざまぁは控えめ、日常はやさしく。
かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。
---
この文面は
✔ アルファポリス向け文字数
✔ 女子読者に刺さるワード配置
✔ ネタバレしすぎない
✔ ほのぼの感キープ
を全部満たしています。
次は
👉 タグ案
👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字)
どちらにしますか?
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
王太子に愛されないので、隣国王子に拾われました
鍛高譚
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」
オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。
「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」
そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。
「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」
このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。
オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。
愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん!
王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。
冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする
「きみは強いからひとりでも平気だよね」と婚約破棄された令嬢、本当に強かったのでモンスターを倒して生きています
猫屋ちゃき
恋愛
侯爵令嬢イリメルは、ある日婚約者であるエーリクに「きみは強いからひとりでも平気だよね?」と婚約破棄される。彼は、平民のレーナとの真実の愛に目覚めてしまったのだという。
ショックを受けたイリメルは、強さとは何かについて考えた。そして悩んだ末、己の強さを確かめるためにモンスター討伐の旅に出ることにした。
旅の最中、イリメルはディータという剣士の青年と出会う。
彼の助けによってピンチを脱したことで、共に冒険をすることになるのだが、強さを求めるためのイリメルの旅は、やがて国家の、世界の存亡を賭けた問題へと直結していくのだった。
婚約破棄から始まる(?)パワー系令嬢の冒険と恋の物語。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
政略結婚だなんて、聖女さまは認めません。
りつ
恋愛
聖女メイベルは婚約者である第一王子のサイラスから、他に好きな相手がいるからお前とは結婚できないと打ち明けられ、式の一週間前に婚約を解消することとなった。代わりの相手をいろいろ紹介されるものの、その相手にも婚約者がいて……結局教会から女好きで有名なアクロイド公爵のもとへ強引に嫁がされることとなった。だが公爵の屋敷へ行く途中、今度は賊に襲われかける。踏んだり蹴ったりのメイベルを救ったのが、辺境伯であるハウエル・リーランドという男であった。彼はアクロイド公爵の代わりに自分と結婚するよう言い出して……
婚約破棄されたので、戻らない選択をしました
ふわふわ
恋愛
王太子アルトゥールの婚約者として生きてきた
貴族令嬢ミディア・バイエルン。
だが、偽りの聖女シエナに心を奪われた王太子から、
彼女は一方的に婚約を破棄される。
「戻る場所は、もうありませんわ」
そう告げて向かった先は、
王都から遠く離れたアルツハイム辺境伯領。
権力も、評価も、比較もない土地で、
ミディアは“誰かに選ばれる人生”を静かに手放していく。
指示しない。
介入しない。
評価しない。
それでも、人は動き、街は回り、
日常は確かに続いていく。
一方、王都では――
彼女を失った王太子と王政が、
少しずつ立ち行かなくなっていき……?
派手な復讐も、涙の和解もない。
あるのは、「戻らない」という選択と、
終わらせない日常だけ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる