婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。

澤谷弥(さわたに わたる)

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第六章

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 彼女が事務所に戻ると、ヘイデンが慌ただしく部下たちに指示を出していた。

「お兄さま、何かあったのですか?」

「ああ、ディアか。王都で魔導具の爆発事故が起こった。どうやら、ここで採掘された魔宝石が使われていたようだという話が入ったんだ。それで、いつ頃採れた魔宝石かということを確認しようとしていたところなんだ」

「お兄さま、その爆発した魔導具というのは、既にこちらにあるのですか?」

「いや、まだ情報をもらっただけだからまだ、だ。王都で魔導士団の第一研究部が預かっていて、事故になった原因を調べているようだ」
 魔導士団の第一研究部と言えば、一番下の兄であるシオドリックが所属している部だ。

「その魔宝石。本当にこちらで正規に採掘されたものなのでしょうか?」

「どういう意味だい?」
 ヘイデンが目を細めた。どうやらリューディアの言葉の意味を考えているようだ。

「お兄さま。今、確認してきましたが、やはりクズ石の量が合っておりません。もっと詳しく申し上げますと、そのクズ石の中でも形は悪くても魔力を取り込むことができたクズ石の量が圧倒的に減っております」

「ディア。お前、何が言いたい?」
 ヘイデンも妹が言わんとしていることを察した。だが、答え合わせは必要だ。

「その爆発した魔導具に使用されていた魔宝石は、もしかしてクズ石では無いのでしょうか」
 はっきりと告げるリューディア。それを聞いたヘイデンも、そうかもしれない、と思っていた。だけど自信は無かった。だがリューディアからそれを聞いたら、そうかもしれないが確信に変わる。

「ディア。つまり君は、魔導具の製作にクズ石が使われていると、そう言いたいんだな」
 リューディアは力強く頷く。それは彼女も絶対にそうである、と確信しているからだ。

「このシャルコで採れる魔宝石の原石は、とても程度のいいものです。普通に使用すれば爆発など起こりません。魔導具が爆発するというのであれば、その魔導具そのものの設計が悪いときか、使用している魔宝石が悪いかのどちらかですが、今回の件、お兄さまの話を聞いている限りでは、どうやら原因は魔導具の動力となっている魔宝石にありそうだ、ということになっております。ですが、シャルコの魔宝石は、そうならないために選鉱しています。選鉱された魔宝石は、爆発を起こすような代物ではありません」
 そこは自信を持って断言できる。それだけこの選鉱に携わっている魔導士たちの能力と技術は高いのだ。ここの魔宝石で爆発事故が起こるのであれば、世の中、もっと爆発事故が起こっている、というくらいに。

「シオドリックを呼ぼう」

 ヘイデンは一番下の弟の名を口にした。

「こちらで解析したいから、現物と研究部の人間を寄越せ、と。そう、シオドリックに連絡をする。本来であれば俺とディアがあちらに行った方が手っ取り早いだろうが、この状況でここを空けるのは不安だからな。だから、向こうから来てもらう」

 それでもその日は、魔宝石の過去の採掘についての資料を探し、まとめることで時間を要した。合間に、現場の安全確認を行う必要もあったため、定時を過ぎても仕事は終わらなかった。
 リューディアが、終わった、と机に突っ伏した時には、外はもう真っ暗になっていた。

「ディア、遅くまでお疲れ」
 突っ伏したリューディアに温かいお茶を持って来てくれたのはエメレンス。彼も、今回の事故について、原因となりそうな魔宝石についての調査を協力してくれた一人。リューディアが定期安全確認に行けそうにないときには、代わって現場確認へと足を運んでくれた。だからこそ、今日の調査が思ったよりスムーズに進んだのだ。

「ありがとう、レン」
 伏せていた顔を起こして、リューディアはそのお茶を受け取る。もわんと湯気が漂い、口元を近づければ眼鏡が曇る。

「これでは、何も見えません」
 リューディアは慌てて眼鏡を外す。眼鏡をかけることで、周囲のいろいろなから守ってくれるけど、気温差で曇ってしまうのが難点だった。眼鏡が曇ってしまうと、何も見えなくなってしまい、新たな危険が生まれる。
 リューディアは元々視力が悪くて眼鏡をかけていたわけではない。だから、眼鏡を外しても視界は良好。その良好な視界の先には少し呆けているエメレンスの顔。

「レン、どうかしました?」

 不思議そうにリューディアは首を傾けた。

「あ、う、ううん。なんでもないよ。眼鏡は曇ると何も見えなくなっちゃうから、それが不便だよね」

 エメレンスは慌てて手にしていたお茶に口を近づけた。自分の気持ちを悟られないように。
「あ、あちっ」
 慌てていたからか、冷めないうちに口をつけてしまったようだ。

「大丈夫ですか? 火傷、しましたか?」
 エメレンスの声に驚いたリューディアは立ち上がって、彼の元へと近づき、その彼の顔を覗き込む。
「あ、だ、大丈夫だよ。ディアもお茶が熱いから気を付けて」
 眼鏡をかけていないリューディアの顔が近い。
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