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第六章
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と、そのとき。事務所の扉が乱暴に開かれた。
「あ、レンさん。まだ残っていたんですね。間に合ってよかった」
事務所に入ってきたのはエリックだった。
「と、あれ? リディア、さん? え、え、え。リディアさん、ですよね? 眼鏡かけてないけど」
エリックのその一言で、リューディアは眼鏡を机の上に置いたままであったことに気付く。思わず両手で顔を隠したのだが、しっかりとその顔をエリックに見られた後だったらしい。
「ブス」と言われたあの時の恐怖が蘇る。
「うわぁ。リディアさん、眼鏡を外した顔を初めて見ましたけど。やっぱり可愛いですね。初めてお会いしたときも思いましたけど、やはりイルメリさんの妹ですね。だけど、眼鏡を外したらもっと可愛い。こんなに可愛いなら、眼鏡を外した方が絶対にいいですよ」
エリックの言葉にリューディアは耳を疑った。
そもそもリューディアのことを「可愛い」と表現してくれるのは家族しかいない。家族以外ではエメレンスがその言葉を口にして励ましてくれるだけ。だけどエリックは初めて会った時に「可愛らしい方」と表現してくれた。さらに今、眼鏡を外したリューディアを見て「可愛い」と口にした。これは「欲目」では無いのだろうか。
「エリック。女性の容姿に対して、そのようなことを口にするのは失礼だろ」
「え、だって。本当に可愛いじゃないですか。レンさんはそう思わないんですか? 本当にその顔でシャルコの街を歩いたら、すれ違う男性、皆が皆、可愛いって思いますよ。イルメリさんも美人だから、やっぱり姉妹なんですね」
感心しているエリックに悪気はない。そして、可愛らしい女性を目にして、悪い気持ちもしない。むしろもっと愛でたいとさえ思う。
リューディアの義姉であるイルメリは美人と言う表現がよく似合う女性だ。可愛いではなく綺麗。年相応の美しさ。それはリューディアが見てもそう思っているし、いずれは自分もそのような年の重ね方をしたいとさえ思っている。
「リディアさん。そんなに照れないでくださいよ。僕の方が照れるじゃないですか」
リディアは恐る恐る顔を上げた。恐らく、その顔は真っ赤に染め上がっていることだろう。恥ずかしさと恐怖と。全身が燃えるように熱い。
「眼鏡を外すとやっぱり印象が変わりますね。眼鏡姿のリディアさんも素敵だけど。眼鏡を外した姿も可愛いです。やっぱり、視力が悪いのですか? 僕の顔、きちんと見えてます?」
エリックがリューディアに向かって顔を近づけてきた。それは、本当に見えているのか、ということを確認したいからだろう。ムッとしながらエメレンスはエリックを見たが、彼に悪気があるわけではない。
見えている、という意味を込めて、リディアはこくこくと頷いた。できることなら早く眼鏡をかけたかったのだが、そのかけるタイミングがわからない。
「え、見えるんですか? じゃあ、眼鏡。かける必要が無いじゃないですか。一体、何のために眼鏡をかけているんですか?」
視力の矯正でなかったら、何のためにというエリックの疑問は正しい。一般的に眼鏡は視力の矯正に用いられるからだ。
だから何のために、と問われて「顔を隠すために」と、リューディアには答えられなかった。
「あの、その。採掘現場はいろいろと危険ですから。その、目を守るためです……」
「なるほど。採掘師も採掘するときはゴーグルかけますもんね。そういうことか。僕はフードしかかぶってないけど、やっぱり眼鏡をかけたほうがいいのかな……」
エリックはぶつくさ言い出した。どうやら、リューディアの苦しい言い訳に納得したようだ。
「それよりもエリック。わざわざここに来たってことは、何か用があったんだろう?」
エメレンスは、このエリックにリューディアの素顔を見られてしまったということが、非常に悔しかった。だが、それを顔に出すようなことをせずに、淡々と尋ねる。
「あ、そうそう。そうでした、レンさん。肝心の大事な用事を忘れるところだった。はい。以前頼まれた、採掘量のメモの写しです。採掘師たちは給金が絡んでいるから、誰がいつどこでどのくらい掘ったかっていうのを記録しておくらしいんですよ。月々の給金と比較するためにね。ガイルが写しを作ってくれたので、預かってきました」
エメレンスはエリックから紙の束を受け取った。びっしりと数値が書きこまれているそれは、ここ二年間の記録のようだ。その隙にリューディアは眼鏡をかける。
「リディアさん。眼鏡、かけちゃったんですか? もったいない」
というエリックは本当にもったいないと思っているのか、悔しそうな表情をしていた。チラリとエメレンスの視線が飛ぶ。と同時に彼の興味をリューディアからそらす為にも、エメレンスは口を開いた。
「エリック、これはいい資料だ。ありがとう。今日はもう遅いから、帰ろう」
エメレンスがそう言ったとき。
「なんだ、お前たち。まだ残っていたのか? ほら、もう帰れ、帰れ」
周辺の見回りをしていたヘイデンが戻ってきたようだ。彼はいつも帰る前に、事務所の周辺と現場入り口の周辺の見回りをしてから帰宅する。
「あ、部隊長。今、エリックからこれを受け取ったところです」
エメレンスはエリックからもらった資料の写しをヘイデンへと手渡した。
「これは……」
ざっと資料に目を通すヘイデン。その数値が意味することなど、一目見ればすぐにわかること。
「明日、ゆっくりと確認する。とにかく今日はもう遅いから帰れ。ほら、帰れ、帰れ」
ヘイデンはまくしたてるように言うと、事務所に残っている三人を追い出した。だが、彼は少し気になっていることがあった。
なんとなく感じるこの三人とは違う人間の気配。魔力を探ってみたが、どうやらどうやら相手は魔力消しの薬を飲んでいるようだ。もしくは、魔力の無い人間か。
罠を張るのもいいかもしれない、と、ヘイデンはわざとどうでもいい書類を机の上に並べてから事務所に鍵をかけた。
「あ、レンさん。まだ残っていたんですね。間に合ってよかった」
事務所に入ってきたのはエリックだった。
「と、あれ? リディア、さん? え、え、え。リディアさん、ですよね? 眼鏡かけてないけど」
エリックのその一言で、リューディアは眼鏡を机の上に置いたままであったことに気付く。思わず両手で顔を隠したのだが、しっかりとその顔をエリックに見られた後だったらしい。
「ブス」と言われたあの時の恐怖が蘇る。
「うわぁ。リディアさん、眼鏡を外した顔を初めて見ましたけど。やっぱり可愛いですね。初めてお会いしたときも思いましたけど、やはりイルメリさんの妹ですね。だけど、眼鏡を外したらもっと可愛い。こんなに可愛いなら、眼鏡を外した方が絶対にいいですよ」
エリックの言葉にリューディアは耳を疑った。
そもそもリューディアのことを「可愛い」と表現してくれるのは家族しかいない。家族以外ではエメレンスがその言葉を口にして励ましてくれるだけ。だけどエリックは初めて会った時に「可愛らしい方」と表現してくれた。さらに今、眼鏡を外したリューディアを見て「可愛い」と口にした。これは「欲目」では無いのだろうか。
「エリック。女性の容姿に対して、そのようなことを口にするのは失礼だろ」
「え、だって。本当に可愛いじゃないですか。レンさんはそう思わないんですか? 本当にその顔でシャルコの街を歩いたら、すれ違う男性、皆が皆、可愛いって思いますよ。イルメリさんも美人だから、やっぱり姉妹なんですね」
感心しているエリックに悪気はない。そして、可愛らしい女性を目にして、悪い気持ちもしない。むしろもっと愛でたいとさえ思う。
リューディアの義姉であるイルメリは美人と言う表現がよく似合う女性だ。可愛いではなく綺麗。年相応の美しさ。それはリューディアが見てもそう思っているし、いずれは自分もそのような年の重ね方をしたいとさえ思っている。
「リディアさん。そんなに照れないでくださいよ。僕の方が照れるじゃないですか」
リディアは恐る恐る顔を上げた。恐らく、その顔は真っ赤に染め上がっていることだろう。恥ずかしさと恐怖と。全身が燃えるように熱い。
「眼鏡を外すとやっぱり印象が変わりますね。眼鏡姿のリディアさんも素敵だけど。眼鏡を外した姿も可愛いです。やっぱり、視力が悪いのですか? 僕の顔、きちんと見えてます?」
エリックがリューディアに向かって顔を近づけてきた。それは、本当に見えているのか、ということを確認したいからだろう。ムッとしながらエメレンスはエリックを見たが、彼に悪気があるわけではない。
見えている、という意味を込めて、リディアはこくこくと頷いた。できることなら早く眼鏡をかけたかったのだが、そのかけるタイミングがわからない。
「え、見えるんですか? じゃあ、眼鏡。かける必要が無いじゃないですか。一体、何のために眼鏡をかけているんですか?」
視力の矯正でなかったら、何のためにというエリックの疑問は正しい。一般的に眼鏡は視力の矯正に用いられるからだ。
だから何のために、と問われて「顔を隠すために」と、リューディアには答えられなかった。
「あの、その。採掘現場はいろいろと危険ですから。その、目を守るためです……」
「なるほど。採掘師も採掘するときはゴーグルかけますもんね。そういうことか。僕はフードしかかぶってないけど、やっぱり眼鏡をかけたほうがいいのかな……」
エリックはぶつくさ言い出した。どうやら、リューディアの苦しい言い訳に納得したようだ。
「それよりもエリック。わざわざここに来たってことは、何か用があったんだろう?」
エメレンスは、このエリックにリューディアの素顔を見られてしまったということが、非常に悔しかった。だが、それを顔に出すようなことをせずに、淡々と尋ねる。
「あ、そうそう。そうでした、レンさん。肝心の大事な用事を忘れるところだった。はい。以前頼まれた、採掘量のメモの写しです。採掘師たちは給金が絡んでいるから、誰がいつどこでどのくらい掘ったかっていうのを記録しておくらしいんですよ。月々の給金と比較するためにね。ガイルが写しを作ってくれたので、預かってきました」
エメレンスはエリックから紙の束を受け取った。びっしりと数値が書きこまれているそれは、ここ二年間の記録のようだ。その隙にリューディアは眼鏡をかける。
「リディアさん。眼鏡、かけちゃったんですか? もったいない」
というエリックは本当にもったいないと思っているのか、悔しそうな表情をしていた。チラリとエメレンスの視線が飛ぶ。と同時に彼の興味をリューディアからそらす為にも、エメレンスは口を開いた。
「エリック、これはいい資料だ。ありがとう。今日はもう遅いから、帰ろう」
エメレンスがそう言ったとき。
「なんだ、お前たち。まだ残っていたのか? ほら、もう帰れ、帰れ」
周辺の見回りをしていたヘイデンが戻ってきたようだ。彼はいつも帰る前に、事務所の周辺と現場入り口の周辺の見回りをしてから帰宅する。
「あ、部隊長。今、エリックからこれを受け取ったところです」
エメレンスはエリックからもらった資料の写しをヘイデンへと手渡した。
「これは……」
ざっと資料に目を通すヘイデン。その数値が意味することなど、一目見ればすぐにわかること。
「明日、ゆっくりと確認する。とにかく今日はもう遅いから帰れ。ほら、帰れ、帰れ」
ヘイデンはまくしたてるように言うと、事務所に残っている三人を追い出した。だが、彼は少し気になっていることがあった。
なんとなく感じるこの三人とは違う人間の気配。魔力を探ってみたが、どうやらどうやら相手は魔力消しの薬を飲んでいるようだ。もしくは、魔力の無い人間か。
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