婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。

澤谷弥(さわたに わたる)

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第六章

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 二人が事務所に戻るころには、散らかっていた所内もすっかりと元通りになっていた。

「もう片付いたのですね」
 驚きながら、リューディアは近くにいたエメレンスに声をかけた。エリックはさっさと自席に戻ってしまったようだ。

「ああ、ディア。なんとか、第一研究部が来る前に片付けることができたよ。そっちはどうだった?」

「あ、はい。現場の方は今日も問題ありませんでした」
 手にしていたファイルをリューディアは自席の上に置いた。

「ところで、何か無くなったものとかあったのですか?」

「いいや」
 エメレンスは両方の手の平を上に向けて肩をすくめ、おどけるような仕草をする。
「あ、でも。念のため私物も確認するように、と部隊長が」

「わかりました」
 リューディアも慌てて机の中を確認するが、特に荒らされた様子もなく、盗まれたものも無さそうだった。
 朝からバタバタとしていたので、自席に座ったところで一息つけた心地になる。

「はい」
 それを見過ごしてなのか、エメレンスが飲み物を手渡してきた。

「ありがとうございます」
 それを一口飲んだところで、いつもの時間が戻ってきたような気がした。

「あ、そうだ。ディア。部隊長が、ディアも第一研究部の相手をするように、と言っていたけど、大丈夫かい?」

「あ、はい」
 その件については、昨日、帰宅してからヘイデンにも言われていたこと。だから、それを見据えて今日の業務スケジュールは頭の中で立てている、はず。
 その後、リューディアが書類をまとめていると、第一研究部の魔導士たちが来たわよ、とイルメリから声をかけられた。
「応接室に案内してあるから。ディア、あなたも一緒に話を聞くんでしょ?」

「あ、はい。ありがとうございます」

「ヘイデンは先に行っているみたいだから。あ、あとこの資料も一緒に持っていってくれないかしら?」

「はい」

 リューディアはイルメリから預かった書類を大事そうに抱え込んで、応接室へと向かった。そこの扉を叩けば、中から入るようにとヘイデンの声が聞こえてきた。

「失礼いたします」

「ディア、久しぶりだね」

 リューディアが部屋に入ると同時に、シオドリックが手をあげて答えた。

「シオ兄さま。シオ兄さま、お一人ですか?」

「ああ。ここには今、オレ一人だ。他の者たちは、現場を確認している」
 つまり、この応接室にはヘイデンとシオドリック、そしてリューディアの兄弟三人のみ。ここにミシェルがいれば、久しぶりに四人が揃ったのに、残念ながらその真ん中の兄は王都にいる。

「シオ兄さま。わたくし、ここではリディアと名乗っております。イルメリお義姉さまの妹ということになっております」

「うん。それはオレもヘイにいから聞いた。だから、オレもリディアと呼ぶから」

「あ、そうだお兄さま。これ、お義姉さまから預かってきた資料です」

 思い出したようにリディアはヘイデンに資料を渡す。

「ありがとう。イルメリには、予想採掘量と実際の採掘量、そして選鉱した結果良品として判断された魔宝石の量をまとめてもらっていたんだ」

 リューディアはヘイデンの隣に腰をおろした。

「そして、これが爆発した魔導具だよ」
 シオドリックが言うと、魔導具をテーブルの上に置いた。煤けていて汚れているため、テーブルの上には大きな布地が敷かれている。

「シオ兄さまは、こちらの魔導具から魔宝石を取り出したのですか?」
 リューディアの質問にシオドリックは首を横に振る。
「取り出して失くすと困ると思ったから。これから、初めて分解する」
 鞄から工具類を取り出したシオドリックは、白の綿手袋をはめてから器用に魔導具を分解し始めた。煤けた外装を外して、むき出しになった魔導回路から、コアとなる魔宝石を取り出す。
 コロン、とそれはテーブルの上に転がった。

「シオ兄さま。この魔宝石。もう少し詳しく見てもよろしいですか?」

「ああ。かまわないよ。手が汚れるからこれを使って。あとは、ルーペが必要かな?」
 シオドリックから手袋とルーペを手渡されたリューディアは、鑑定士のようにじっと魔宝石を観察した。それが終われば、ふぅと息を吐いて、魔宝石とルーペをテーブルの上に置く。
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