3 / 66
第一章(2)
しおりを挟む
魔石とは魔力と呼ばれる力を閉じ込めた石のことで、その魔石を用いた道具は魔道具とも呼ばれている。それらは容易に火を起こしたり、お湯を沸かしたり、水を浄化したりすることができ、生活するうえでなくてはならないもの。
つまり、聖女は魔石がなくても、火を起こしたり湯を沸かしたり水を浄化したりできるのだ。
そういった神聖力を使える聖女が、たった十三歳の巫女に殺された。しかも、無残に胴体と頭部を切り離されて。
「フィアナ。これから、話を聞きにいくのか?」
会議が終わったところで、フィアナ・フラシスは一人の男から声をかけられた。
振り返れば、同じ部署に所属するナシオンがかすかに口元をゆるめてフィアナを見下ろしている。さらさらと揺れる金色の髪に深い森を思わせる深緑の瞳。すっきりとした鼻筋に、色香漂う唇。左目の下の泣きぼくろが、妙な妖艶さを醸し出す。この美貌を使って老若男女から情報を搾り取るのが、目の前のナシオン・ソレダーという男なのだ。
このようなときでも、貴公子の笑みをくずさずにいるのだから、そこだけは尊敬に値する。
「はい。相手が十三歳の少女とのことで、部長が私に目をつけました」
肩にかかる濡れ羽色の髪をパサリと払いのけて、フィアナは答えた。
フィアナは騎士団の中でも情報部に属する。情報部とはその名のとおり、情報を取り扱う部門。諜報活動も情報部の騎士が行うため、騎士でありながら騎士服を身につけなくてもいい部署の一つである。
今日のフィアナが担当するのは、聖女を殺したと自首してきた少女カリノの取り調べだった。
「かわいそうだよな。分所のやつも」
ナシオンはアロンに同情しているのだろう。朝から聖女の生首など見せられたら、誰だって気が滅入る。
「そうですね」と、フィアナも落ち葉のような茶色の目を瞬かせて答えた。
「あ、ナシオンさん。できれば記録係として同席していただきたいのですが、可能でしょうか」
「ああ、もちろん。俺と君は、コンビだろ?」
こういった事件が起こった場合、騎士は常に二人一組で行動する。フィアナの相手はナシオンだった。
フィアナはそんなナシオンと肩を並べて取調室へと向かう。肩を並べてといっても、フィアナは小柄であるため、ナシオンの肩と同じくらいの位置に頭がある。
無機質な階段を下り、取り調べ室を目指す。
入り口にいた見張りの騎士に目配せをしてから、フィアナは中に入った。
鉄製の重い扉を開けると、茶色の髪を二つの三つ編みに結んでいる少女の姿があった。椅子にちょこんと腰掛けている様子は、年相応に見える。血に汚れていた服は、簡素なワンピースに着替えられていた。
そういえば、フィアナが本部にやって来たときに、管理部の同期の人間が、服がどうのこうのと言いながら外へ出ていったような気がする。
「こんにちは」
フィアナは少女に向かって声をかけた。
テーブルの一点を見つめていた少女は、ゆっくりと顔をあげる。吸い込まれそうなほどの深い海のような青い瞳が印象的だ。
「……こんにちは。お姉さんも騎士様?」
カリノがそう尋ねたのは、フィアナが騎士服を着ていないかだろう。
「そうです。こう見えても騎士団に所属する騎士です。これから、カリノさんからお話をうかがいたいのですが」
「はい。わたしが聖女様を殺しました。だからわたしを処刑してください」
後ろに控えていたナシオンから、動揺した様子が伝わってきた。彼にはチラリと視線を向け、もう一つの椅子に座るようにと顎でしゃくる。
「今すぐ処刑にはできません。どうしてカリノさんが聖女様を殺したのか。理由をきちんと確認しなければなりません。そしてなによりも、本当に聖女様を殺したのはカリノさんなのか、というのを確かめなければなりません」
つまり、聖女は魔石がなくても、火を起こしたり湯を沸かしたり水を浄化したりできるのだ。
そういった神聖力を使える聖女が、たった十三歳の巫女に殺された。しかも、無残に胴体と頭部を切り離されて。
「フィアナ。これから、話を聞きにいくのか?」
会議が終わったところで、フィアナ・フラシスは一人の男から声をかけられた。
振り返れば、同じ部署に所属するナシオンがかすかに口元をゆるめてフィアナを見下ろしている。さらさらと揺れる金色の髪に深い森を思わせる深緑の瞳。すっきりとした鼻筋に、色香漂う唇。左目の下の泣きぼくろが、妙な妖艶さを醸し出す。この美貌を使って老若男女から情報を搾り取るのが、目の前のナシオン・ソレダーという男なのだ。
このようなときでも、貴公子の笑みをくずさずにいるのだから、そこだけは尊敬に値する。
「はい。相手が十三歳の少女とのことで、部長が私に目をつけました」
肩にかかる濡れ羽色の髪をパサリと払いのけて、フィアナは答えた。
フィアナは騎士団の中でも情報部に属する。情報部とはその名のとおり、情報を取り扱う部門。諜報活動も情報部の騎士が行うため、騎士でありながら騎士服を身につけなくてもいい部署の一つである。
今日のフィアナが担当するのは、聖女を殺したと自首してきた少女カリノの取り調べだった。
「かわいそうだよな。分所のやつも」
ナシオンはアロンに同情しているのだろう。朝から聖女の生首など見せられたら、誰だって気が滅入る。
「そうですね」と、フィアナも落ち葉のような茶色の目を瞬かせて答えた。
「あ、ナシオンさん。できれば記録係として同席していただきたいのですが、可能でしょうか」
「ああ、もちろん。俺と君は、コンビだろ?」
こういった事件が起こった場合、騎士は常に二人一組で行動する。フィアナの相手はナシオンだった。
フィアナはそんなナシオンと肩を並べて取調室へと向かう。肩を並べてといっても、フィアナは小柄であるため、ナシオンの肩と同じくらいの位置に頭がある。
無機質な階段を下り、取り調べ室を目指す。
入り口にいた見張りの騎士に目配せをしてから、フィアナは中に入った。
鉄製の重い扉を開けると、茶色の髪を二つの三つ編みに結んでいる少女の姿があった。椅子にちょこんと腰掛けている様子は、年相応に見える。血に汚れていた服は、簡素なワンピースに着替えられていた。
そういえば、フィアナが本部にやって来たときに、管理部の同期の人間が、服がどうのこうのと言いながら外へ出ていったような気がする。
「こんにちは」
フィアナは少女に向かって声をかけた。
テーブルの一点を見つめていた少女は、ゆっくりと顔をあげる。吸い込まれそうなほどの深い海のような青い瞳が印象的だ。
「……こんにちは。お姉さんも騎士様?」
カリノがそう尋ねたのは、フィアナが騎士服を着ていないかだろう。
「そうです。こう見えても騎士団に所属する騎士です。これから、カリノさんからお話をうかがいたいのですが」
「はい。わたしが聖女様を殺しました。だからわたしを処刑してください」
後ろに控えていたナシオンから、動揺した様子が伝わってきた。彼にはチラリと視線を向け、もう一つの椅子に座るようにと顎でしゃくる。
「今すぐ処刑にはできません。どうしてカリノさんが聖女様を殺したのか。理由をきちんと確認しなければなりません。そしてなによりも、本当に聖女様を殺したのはカリノさんなのか、というのを確かめなければなりません」
102
あなたにおすすめの小説
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】金で買われた婚約者と壊れた魔力の器
miniko
恋愛
子爵家の令嬢であるメリッサは、公爵家嫡男のサミュエルと婚約している。
2人はお互いに一目惚れし、その仲を公爵家が認めて婚約が成立。
本当にあったシンデレラストーリーと噂されていた。
ところが、結婚を目前に控えたある日、サミュエルが隣国の聖女と恋に落ち、メリッサは捨てられてしまう。
社交界で嘲笑の対象となるメリッサだが、実はこの婚約には裏があって・・・
※全体的に設定に緩い部分が有りますが「仕方ないな」と広い心で許して頂けると有り難いです。
※恋が動き始めるまで、少々時間がかかります。
※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
偽物聖女、承りました
イセヤ レキ
恋愛
五十年前、この国に訪れた危機を救ったと言われる、憧れの聖女様。
聖女様については伝承が語り継がれているものの、誰もその正体を知らない。
私、リュミナ・セレスフォードはその聖女様との初対面時に、まさかの六十年前へ召喚されてしまう。
私を召喚した犯人は、当時の第一王子、ルーウェン。
私のほかにも、私の曽祖父であるエルディアや、内乱時代に生きた剣の達人であるアルフェインもその場に召喚されていた。
なのに一番肝心の聖女様が、召喚されていない!
聖女様は謎多き人物だけど、噂は色々出回っている。
聖女様は恐らく治癒能力持ち、そして平民。
さらに言えば、いずれ聖女様はアルフェインと結ばれるはずなのだ。
「仕方がない。聖女様が見つかるまで、私が代役を務めます」
こうして、私たちの聖女様探しの旅が今、始まった。
全五話、完結済。
義務ですもの。
あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる