46 / 66
第六章(7)
しおりを挟む
**~*~*~**
ざわざわと胸騒ぎがした。これはあのとき、両親を失った夜に似ている。
毛布にくるまって何度も寝返りを打ちつつも、眠れなかったあの日。
突然、キアロが「逃げるぞ」と言ってカリノの手を引っ張ったあの夜。
両親の背を、キアロと一緒に追いかけていたのに、目の前に閃光が走ったあのとき。
何が起こったのかなんてわからなかった。
『カリノ、こっちだ』
『お父さんとお母さんは?』
『わからない。だけど、あっちには行けない』
とにかく無我夢中で走って、逃げて、走って――。
空が白み始めた頃には森の中にいた。
町を見下ろす場所に広がっている森。そこから見下ろすと、ごぉごぉと炎が音を立てて、建物を燃やしていた。
森の中には同じように逃げてきた人がいるものの、誰もが呆然と立ち尽くす。
『お兄ちゃん……』
カリノはキアロにひしっと抱きついて、町の火が消えるのをただただ待った。
燃やすものがなくなれば、火は自然と消える。次の日に少し雨が降ったのも幸いしたのだろう。
まだ熾火がくすぶっているのは、弱い雨の力ではすべての火を消さなかったからだ。
家があっただろう場所には、燃えかすしかない。まだ熱気が残り、きな臭いにおい。
『ここは、駄目だな。他の場所で食料を探そう』
何もかも燃えてしまった。
だけど、カリノは生きている。生きているからお腹は空くし、眠くなる。
キアロの手をしっかりと握りしめ、食べられそうなものを捜し歩く。
『……あっ』
真っ白いローブを羽織っている女性が、こちらに向かって歩いてきた。後ろには、白い騎士服を着ている騎士たち。
彼女は途方に暮れている人たちに向かって声をかけ、食べ物を分け、希望を与えていた。
その彼女がラクリーアだったのだ。
(ラクリーア様……?)
同室のメッサがすやすやと寝息を立てているのを確認してから、カリノはそろりと部屋を出た。
部屋と部屋をつなぐ通路は、もちろん真っ暗だ。だけど、それもしばらくすればうっすらと見えるようになるのを知っている。
心の中で十数えれば、どこに何があるのかを把握できるようになるのだ。
いつものように足音を立てずに、素早く歩く。建物から出てしまえば、少しは緊張も解けた。
外は、いつもより暗く感じた。今日は新月だった。星の光は小さく地上に降り注ぐ。
それでも足元や少し先が見えるほど明るい。
慣れた道、いつも使っている道。
それから秘密の抜け穴をくぐって、敷地外へと出る。川を流れる水の音が次第に大きく聞こえるようになってきたのは、それだけ川に近づいてきた証拠でもある。
ここからもっと川辺に向かえば、いつもラクリーアとキアロと座って話をしている場所に着く。
ボソボソと人の声が聞こえた。
こんな時間、こんな場所に誰がいるというのか。
できるだけ足音を立てないように、ゆっくりと彼らに近づく。なぜか、その彼らが気になった。
ぼんやりとだが、その人物が誰であるかを確認できる距離まで近づいたとき、一人の身体が大きく傾いて崩れ落ちていく。
(何……? どうしたの?)
一人は倒れ、一人はそれを見下ろしていた。
だが、なぜその者が倒れなければならないのか。その原因をカリノはしっかりと見てしまった。
「お兄ちゃん……?」
カリノの言葉に、立っている人物が、身体を大きく震わせた。
驚いたようにカリノに視線を向けたその者の手の中には、血で汚れた短刀が握られていた。
ざわざわと胸騒ぎがした。これはあのとき、両親を失った夜に似ている。
毛布にくるまって何度も寝返りを打ちつつも、眠れなかったあの日。
突然、キアロが「逃げるぞ」と言ってカリノの手を引っ張ったあの夜。
両親の背を、キアロと一緒に追いかけていたのに、目の前に閃光が走ったあのとき。
何が起こったのかなんてわからなかった。
『カリノ、こっちだ』
『お父さんとお母さんは?』
『わからない。だけど、あっちには行けない』
とにかく無我夢中で走って、逃げて、走って――。
空が白み始めた頃には森の中にいた。
町を見下ろす場所に広がっている森。そこから見下ろすと、ごぉごぉと炎が音を立てて、建物を燃やしていた。
森の中には同じように逃げてきた人がいるものの、誰もが呆然と立ち尽くす。
『お兄ちゃん……』
カリノはキアロにひしっと抱きついて、町の火が消えるのをただただ待った。
燃やすものがなくなれば、火は自然と消える。次の日に少し雨が降ったのも幸いしたのだろう。
まだ熾火がくすぶっているのは、弱い雨の力ではすべての火を消さなかったからだ。
家があっただろう場所には、燃えかすしかない。まだ熱気が残り、きな臭いにおい。
『ここは、駄目だな。他の場所で食料を探そう』
何もかも燃えてしまった。
だけど、カリノは生きている。生きているからお腹は空くし、眠くなる。
キアロの手をしっかりと握りしめ、食べられそうなものを捜し歩く。
『……あっ』
真っ白いローブを羽織っている女性が、こちらに向かって歩いてきた。後ろには、白い騎士服を着ている騎士たち。
彼女は途方に暮れている人たちに向かって声をかけ、食べ物を分け、希望を与えていた。
その彼女がラクリーアだったのだ。
(ラクリーア様……?)
同室のメッサがすやすやと寝息を立てているのを確認してから、カリノはそろりと部屋を出た。
部屋と部屋をつなぐ通路は、もちろん真っ暗だ。だけど、それもしばらくすればうっすらと見えるようになるのを知っている。
心の中で十数えれば、どこに何があるのかを把握できるようになるのだ。
いつものように足音を立てずに、素早く歩く。建物から出てしまえば、少しは緊張も解けた。
外は、いつもより暗く感じた。今日は新月だった。星の光は小さく地上に降り注ぐ。
それでも足元や少し先が見えるほど明るい。
慣れた道、いつも使っている道。
それから秘密の抜け穴をくぐって、敷地外へと出る。川を流れる水の音が次第に大きく聞こえるようになってきたのは、それだけ川に近づいてきた証拠でもある。
ここからもっと川辺に向かえば、いつもラクリーアとキアロと座って話をしている場所に着く。
ボソボソと人の声が聞こえた。
こんな時間、こんな場所に誰がいるというのか。
できるだけ足音を立てないように、ゆっくりと彼らに近づく。なぜか、その彼らが気になった。
ぼんやりとだが、その人物が誰であるかを確認できる距離まで近づいたとき、一人の身体が大きく傾いて崩れ落ちていく。
(何……? どうしたの?)
一人は倒れ、一人はそれを見下ろしていた。
だが、なぜその者が倒れなければならないのか。その原因をカリノはしっかりと見てしまった。
「お兄ちゃん……?」
カリノの言葉に、立っている人物が、身体を大きく震わせた。
驚いたようにカリノに視線を向けたその者の手の中には、血で汚れた短刀が握られていた。
42
あなたにおすすめの小説
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】金で買われた婚約者と壊れた魔力の器
miniko
恋愛
子爵家の令嬢であるメリッサは、公爵家嫡男のサミュエルと婚約している。
2人はお互いに一目惚れし、その仲を公爵家が認めて婚約が成立。
本当にあったシンデレラストーリーと噂されていた。
ところが、結婚を目前に控えたある日、サミュエルが隣国の聖女と恋に落ち、メリッサは捨てられてしまう。
社交界で嘲笑の対象となるメリッサだが、実はこの婚約には裏があって・・・
※全体的に設定に緩い部分が有りますが「仕方ないな」と広い心で許して頂けると有り難いです。
※恋が動き始めるまで、少々時間がかかります。
※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
偽物聖女、承りました
イセヤ レキ
恋愛
五十年前、この国に訪れた危機を救ったと言われる、憧れの聖女様。
聖女様については伝承が語り継がれているものの、誰もその正体を知らない。
私、リュミナ・セレスフォードはその聖女様との初対面時に、まさかの六十年前へ召喚されてしまう。
私を召喚した犯人は、当時の第一王子、ルーウェン。
私のほかにも、私の曽祖父であるエルディアや、内乱時代に生きた剣の達人であるアルフェインもその場に召喚されていた。
なのに一番肝心の聖女様が、召喚されていない!
聖女様は謎多き人物だけど、噂は色々出回っている。
聖女様は恐らく治癒能力持ち、そして平民。
さらに言えば、いずれ聖女様はアルフェインと結ばれるはずなのだ。
「仕方がない。聖女様が見つかるまで、私が代役を務めます」
こうして、私たちの聖女様探しの旅が今、始まった。
全五話、完結済。
義務ですもの。
あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる