53 / 66
第七章(7)
しおりを挟む
「聖騎士イアンさんは、所属は違えど同じ騎士です。それに以前、仕事で顔を合わせたこともありましたので、話を聞くには都合がよかったのです。アルテール殿下については、先ほどもお話がありましたように、聖女様との接点が見つかったからです」
シリウル公爵は、ふむぅと頷き思案する。
「さらに私は、カリノさんから話を聞くうちに、彼女は聖女様を殺害していないと、そう確信しました。だからカリノさんに、この場では真実を言葉にするようにと、助言しただけです」
カリノが聖女を殺したと言っていたのに、この場で主張を変えた理由を、フィアナは説明したつもりだ。
だが、今の発言で騎士団長のこめかみはふるえているし、アルテールもその瞳に怒りを滲ませている。少なくとも、この二人は敵に回した。
「カリノさんが聖女様を殺害したと仮定した場合、その凶器がまだわかっておりません。また、動機も不明です。彼女自身が犯人だと言ったとしても、そこの裏付けはきちんととるべきかと」
団長なんかは、今にも向こうから飛びだしてきそうな勢いだ。
「そもそも、カリノさんが一人で聖女様殺害を行うには無理があると考えました。少なくとも共犯者がいるはずです。ですが、カリノさんは何も言いませんでした。そうなれば、脅されているのではと考えるのが妥当と判断しました」
室内にいる誰もがしんと静まり返る。
「カリノさんは、聖女様を殺した凶器についてもけして口にはしませんでした。頭部を切断したのは、薪割り用の斧。だけど、それは死後に切断したのであって、直接の死因とは関係ありません」
第一騎士団では追求しなかった凶器。死因は失血死とされているが、致命傷となったのは腹部の傷か、もしくは持ち去られた左手首を、先に大きく傷つけたか。
「つまり、致命傷や凶器について、誰も知らないというわけですね?」
シリウル公爵の言葉に、フィアナは神妙な面持ちで首肯する。
「はい。残念ながらそういった証拠を見つけることができませんでした。今回の捜査は極秘で行われたものです。ですから、協力者を得ることが難しかったのも原因かもしれません」
できるだけ第一騎士団に日がないようにと、フィアナは言葉を選びながら続けた。
「なるほど。制限された中での捜査は、骨が折れましたね」
そうやって捜査にあたった者を気遣う姿を見せるのは、シリウル公爵の人柄もあるのだろう。
「……ですが、捜査は終わってしまいましたが。私がたまたま散歩をしたときに、見つけたものがあるのです」
わざとらしかったかなと思いつつも、これ以外の表現がフィアナには考えつかなかった。
法廷内が騒がしくなる。
「それを今、提出してもよろしいですか?」
「今回の事件に関するものであれば」
「では、こちらを差証拠品として裁判官に提出します」
フィアナは例の短剣の入った布袋を取り出した。それはベルトに挟んでいた。
フィアナから布袋を受け取ったシリウル公爵は、中から短剣を取り出し、目を細くして睨みつけるような視線を向けた。
「これは、短剣ですね? 土で汚れているようですが……ん? 血痕ですか? これをどこで?」
「聖女様の殺害現場の近くに埋められていました。不自然に土が掘り返された跡があったため、掘り起こしてみたところ、これが出てきたのです。この短剣、誰のものか、ご存知ではありませんか?」
シリウル公爵の白い手袋は、泥と血ですでに汚れていた。だが、それすら気にもせず、彼はじっくりと短剣を観察する。
「この赤い紋章は……」
シリウル公爵の呟きにより、誰もがアルテールへと顔を向けた。
「この血痕が誰のものか調べていただきたいところですが、聖女様のご遺体はすでに埋葬されたと聞いております」
損傷が酷いため、大聖堂側はその遺体が戻ってきてすぐに、裏手の墓地に埋葬したとのこと。
シリウル公爵は、ふむぅと頷き思案する。
「さらに私は、カリノさんから話を聞くうちに、彼女は聖女様を殺害していないと、そう確信しました。だからカリノさんに、この場では真実を言葉にするようにと、助言しただけです」
カリノが聖女を殺したと言っていたのに、この場で主張を変えた理由を、フィアナは説明したつもりだ。
だが、今の発言で騎士団長のこめかみはふるえているし、アルテールもその瞳に怒りを滲ませている。少なくとも、この二人は敵に回した。
「カリノさんが聖女様を殺害したと仮定した場合、その凶器がまだわかっておりません。また、動機も不明です。彼女自身が犯人だと言ったとしても、そこの裏付けはきちんととるべきかと」
団長なんかは、今にも向こうから飛びだしてきそうな勢いだ。
「そもそも、カリノさんが一人で聖女様殺害を行うには無理があると考えました。少なくとも共犯者がいるはずです。ですが、カリノさんは何も言いませんでした。そうなれば、脅されているのではと考えるのが妥当と判断しました」
室内にいる誰もがしんと静まり返る。
「カリノさんは、聖女様を殺した凶器についてもけして口にはしませんでした。頭部を切断したのは、薪割り用の斧。だけど、それは死後に切断したのであって、直接の死因とは関係ありません」
第一騎士団では追求しなかった凶器。死因は失血死とされているが、致命傷となったのは腹部の傷か、もしくは持ち去られた左手首を、先に大きく傷つけたか。
「つまり、致命傷や凶器について、誰も知らないというわけですね?」
シリウル公爵の言葉に、フィアナは神妙な面持ちで首肯する。
「はい。残念ながらそういった証拠を見つけることができませんでした。今回の捜査は極秘で行われたものです。ですから、協力者を得ることが難しかったのも原因かもしれません」
できるだけ第一騎士団に日がないようにと、フィアナは言葉を選びながら続けた。
「なるほど。制限された中での捜査は、骨が折れましたね」
そうやって捜査にあたった者を気遣う姿を見せるのは、シリウル公爵の人柄もあるのだろう。
「……ですが、捜査は終わってしまいましたが。私がたまたま散歩をしたときに、見つけたものがあるのです」
わざとらしかったかなと思いつつも、これ以外の表現がフィアナには考えつかなかった。
法廷内が騒がしくなる。
「それを今、提出してもよろしいですか?」
「今回の事件に関するものであれば」
「では、こちらを差証拠品として裁判官に提出します」
フィアナは例の短剣の入った布袋を取り出した。それはベルトに挟んでいた。
フィアナから布袋を受け取ったシリウル公爵は、中から短剣を取り出し、目を細くして睨みつけるような視線を向けた。
「これは、短剣ですね? 土で汚れているようですが……ん? 血痕ですか? これをどこで?」
「聖女様の殺害現場の近くに埋められていました。不自然に土が掘り返された跡があったため、掘り起こしてみたところ、これが出てきたのです。この短剣、誰のものか、ご存知ではありませんか?」
シリウル公爵の白い手袋は、泥と血ですでに汚れていた。だが、それすら気にもせず、彼はじっくりと短剣を観察する。
「この赤い紋章は……」
シリウル公爵の呟きにより、誰もがアルテールへと顔を向けた。
「この血痕が誰のものか調べていただきたいところですが、聖女様のご遺体はすでに埋葬されたと聞いております」
損傷が酷いため、大聖堂側はその遺体が戻ってきてすぐに、裏手の墓地に埋葬したとのこと。
37
あなたにおすすめの小説
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】金で買われた婚約者と壊れた魔力の器
miniko
恋愛
子爵家の令嬢であるメリッサは、公爵家嫡男のサミュエルと婚約している。
2人はお互いに一目惚れし、その仲を公爵家が認めて婚約が成立。
本当にあったシンデレラストーリーと噂されていた。
ところが、結婚を目前に控えたある日、サミュエルが隣国の聖女と恋に落ち、メリッサは捨てられてしまう。
社交界で嘲笑の対象となるメリッサだが、実はこの婚約には裏があって・・・
※全体的に設定に緩い部分が有りますが「仕方ないな」と広い心で許して頂けると有り難いです。
※恋が動き始めるまで、少々時間がかかります。
※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
偽物聖女、承りました
イセヤ レキ
恋愛
五十年前、この国に訪れた危機を救ったと言われる、憧れの聖女様。
聖女様については伝承が語り継がれているものの、誰もその正体を知らない。
私、リュミナ・セレスフォードはその聖女様との初対面時に、まさかの六十年前へ召喚されてしまう。
私を召喚した犯人は、当時の第一王子、ルーウェン。
私のほかにも、私の曽祖父であるエルディアや、内乱時代に生きた剣の達人であるアルフェインもその場に召喚されていた。
なのに一番肝心の聖女様が、召喚されていない!
聖女様は謎多き人物だけど、噂は色々出回っている。
聖女様は恐らく治癒能力持ち、そして平民。
さらに言えば、いずれ聖女様はアルフェインと結ばれるはずなのだ。
「仕方がない。聖女様が見つかるまで、私が代役を務めます」
こうして、私たちの聖女様探しの旅が今、始まった。
全五話、完結済。
義務ですもの。
あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる