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第五章(8)
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なんのことだ? とラウルは眉間にしわを寄せる。
「最近。団長さんが女性の間で人気らしいです。尽くす系って言われているみたいですよ。今までウザいウザいと言っていた人たちが、団長さんにお世話されたいって」
ふん、とラウルは鼻で笑う。
そしてつまみのナッツを一つ摘まみ、リネットの口の前に差し出した。
リネットは条件反射的に口を開けて、それを食べる。
「俺が世話を焼きたいのは、リネットだけだな。君は目を離すとどこかにいなくなってしまいそうで怖い。それに、君がいなくなった俺も生きていけない」
「それは、呪いのせいですよね。呪いがかかっているから……」
う~ん、とラウルも唸る。
「まぁ。その呪いのせいで君が俺の運命を握っているというのもあるが。まぁ、あれだ」
耳を赤くするラウルは、右手の人差し指でぽりぽりと頬をかいた。
「あの呪いで苦しんでいたとき、君に解呪方法がないと言われ、絶望に堕とされた。だが、すぐに症状を緩和する方法があると聞いて希望が持てた。それが毎朝キスをすることだとわかり……。だから俺は、相手に君を選んだ」
「あの場だから、仕方なく私を選んだのではなく?」
「あの場だから都合がよかったんだろうな」
ラウルはグラスに手を伸ばして、二口ほど葡萄酒を飲んだ。ゴクリゴクリと喉が上下する。
「君が言ったように、プロを頼る方法もあっただろう。だが、信頼できる相手かと問われれば、それはわからない。向こうだって、俺がキスをしないと生きていけない身体だと知ったら、金額をつりあげてくるかもしれないだろ?」
なるほど、とリネットは心の中で手を打った。商売人だからこそ、中には金に釣られてラウルの命を弄ぶ者も出てくるかもしれない。
ふざけたように見える呪いだが、症状緩和の相手に求められるのは信頼なのだ。
「選択肢が選択肢になっていないあの場でよかった。だから俺は堂々と君を指名できたわけだ」
「消去法からいってもそれが無難です」
「でも俺は、毎朝キスをするならリネット、君が良いと思った。俺だって独身の健全たる男だ。かわいい女の子とキスができるなら嬉しい」
なんとも正直な男だ。毎朝女性とキスをするのが嬉しいらしい。だがその前の「かわいい女の子」というくだりが、リネットには気になった。
「かわいい女の子ですか?」
「あぁ。リネットはかわいい。特に寝顔がかわいいな」
「ちょっと、そういうことを言わないでください」
リネットをかわいいと言っていたのは、スサ小国の家族くらいだ。あそこを離れてからは言われたことがない。
アルヴィスにいたっては、容姿をけなすことがあっても褒めることは一度もなかった。ただリネットが初々しく嫌がり、苦痛にゆがめる表情を見て喜んでいただけ。
「リネットが正直に気持ちを伝えてくれたから、俺も正直に話す。そうでなければフェアではない」
そういうところがラウルらしい。
「だから俺は、かわいい女の子とラッキーだと思っていたのに、君の実態はひどかった」
「ひどいってひどいです。まぁ、団長さんとお会いしたときは、ひどい生活でしたけど」
それはリネットにだって自覚はある。
「そうだな。だからあのまま君を放っておけば、いずれ身体を壊すだろうと思って、君を引き取った」
「私を捨て猫かなにかと勘違いしてませんか?」
「猫のようにかわいいと思うときもあるが、リネットはリネットだな。とにかく、目が離せない。だから俺がこうやって世話を焼くのは君だけだ」
ラウルはまた、リネットにナッツを食べさせる。それによって少しだけ咽せたリネットが葡萄酒で潤そうとすれば、すかさずラウルがグラスを手にしてリネットの口元に近づける。
一口だけ飲んだ。
「これ、美味しいですよね。顔がぽかぽかしてきました」
へへっとリネットは笑う。
「団長さん、団長さん」
言いたいことを言ったせいか、リネットは気分もよかった。
「なんだ?」
「団長さんは私だから世話を焼いてくれるんですか? 私だからキスの相手に選んでくれたんですか?」
ラウルは少しだけ悩む素振りを見せてから答える。
「まあ、そういうことになるな」
「つまりそれって、私のことが好きってことですか?」
ふごっと変な声がラウルから聞こえた。
「最近。団長さんが女性の間で人気らしいです。尽くす系って言われているみたいですよ。今までウザいウザいと言っていた人たちが、団長さんにお世話されたいって」
ふん、とラウルは鼻で笑う。
そしてつまみのナッツを一つ摘まみ、リネットの口の前に差し出した。
リネットは条件反射的に口を開けて、それを食べる。
「俺が世話を焼きたいのは、リネットだけだな。君は目を離すとどこかにいなくなってしまいそうで怖い。それに、君がいなくなった俺も生きていけない」
「それは、呪いのせいですよね。呪いがかかっているから……」
う~ん、とラウルも唸る。
「まぁ。その呪いのせいで君が俺の運命を握っているというのもあるが。まぁ、あれだ」
耳を赤くするラウルは、右手の人差し指でぽりぽりと頬をかいた。
「あの呪いで苦しんでいたとき、君に解呪方法がないと言われ、絶望に堕とされた。だが、すぐに症状を緩和する方法があると聞いて希望が持てた。それが毎朝キスをすることだとわかり……。だから俺は、相手に君を選んだ」
「あの場だから、仕方なく私を選んだのではなく?」
「あの場だから都合がよかったんだろうな」
ラウルはグラスに手を伸ばして、二口ほど葡萄酒を飲んだ。ゴクリゴクリと喉が上下する。
「君が言ったように、プロを頼る方法もあっただろう。だが、信頼できる相手かと問われれば、それはわからない。向こうだって、俺がキスをしないと生きていけない身体だと知ったら、金額をつりあげてくるかもしれないだろ?」
なるほど、とリネットは心の中で手を打った。商売人だからこそ、中には金に釣られてラウルの命を弄ぶ者も出てくるかもしれない。
ふざけたように見える呪いだが、症状緩和の相手に求められるのは信頼なのだ。
「選択肢が選択肢になっていないあの場でよかった。だから俺は堂々と君を指名できたわけだ」
「消去法からいってもそれが無難です」
「でも俺は、毎朝キスをするならリネット、君が良いと思った。俺だって独身の健全たる男だ。かわいい女の子とキスができるなら嬉しい」
なんとも正直な男だ。毎朝女性とキスをするのが嬉しいらしい。だがその前の「かわいい女の子」というくだりが、リネットには気になった。
「かわいい女の子ですか?」
「あぁ。リネットはかわいい。特に寝顔がかわいいな」
「ちょっと、そういうことを言わないでください」
リネットをかわいいと言っていたのは、スサ小国の家族くらいだ。あそこを離れてからは言われたことがない。
アルヴィスにいたっては、容姿をけなすことがあっても褒めることは一度もなかった。ただリネットが初々しく嫌がり、苦痛にゆがめる表情を見て喜んでいただけ。
「リネットが正直に気持ちを伝えてくれたから、俺も正直に話す。そうでなければフェアではない」
そういうところがラウルらしい。
「だから俺は、かわいい女の子とラッキーだと思っていたのに、君の実態はひどかった」
「ひどいってひどいです。まぁ、団長さんとお会いしたときは、ひどい生活でしたけど」
それはリネットにだって自覚はある。
「そうだな。だからあのまま君を放っておけば、いずれ身体を壊すだろうと思って、君を引き取った」
「私を捨て猫かなにかと勘違いしてませんか?」
「猫のようにかわいいと思うときもあるが、リネットはリネットだな。とにかく、目が離せない。だから俺がこうやって世話を焼くのは君だけだ」
ラウルはまた、リネットにナッツを食べさせる。それによって少しだけ咽せたリネットが葡萄酒で潤そうとすれば、すかさずラウルがグラスを手にしてリネットの口元に近づける。
一口だけ飲んだ。
「これ、美味しいですよね。顔がぽかぽかしてきました」
へへっとリネットは笑う。
「団長さん、団長さん」
言いたいことを言ったせいか、リネットは気分もよかった。
「なんだ?」
「団長さんは私だから世話を焼いてくれるんですか? 私だからキスの相手に選んでくれたんですか?」
ラウルは少しだけ悩む素振りを見せてから答える。
「まあ、そういうことになるな」
「つまりそれって、私のことが好きってことですか?」
ふごっと変な声がラウルから聞こえた。
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