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第二章(11)
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* * *
ラウルが執務室でいつものように書類に目を通していると、ヒースが追加の書類を手にしてやってきた。机の上にはすでに山のように書類が重ねられているというのに、ヒースの姿を目にしただけでもげんなりしてしまう。
「団長。こちら、例のヤゴル遺跡の報告書なのですが……」
ヤゴル遺跡と聞いて、ラウルは顔をしかめる。
「とりあえず、被害状況をまとめたものになります。それから団長のことは、負傷者という形で報告が必要かと思いまして……」
「そうだな。魔法師の治療を受けたと書いておけばいいか?」
「そうですね。さすがに呪いを受けて発情中とは書けないので」
事実をそのまま書けないときは、ぼかして書くしかない。
「魔法師たちも、俺が受けた呪いについては口止めしてくれているらしい」
「そりゃそうでしょ。呪われて体調を崩したとかならわかりますが……発情って……」
ヒースがラウルから顔を逸らして口元を押さえているのは、込み上げてくる笑いを堪えるためだろう。
ラウルは少しむっとして答える。
「だったら、おまえもあの呪いを受けてみればいい。とにかく、痛かった」
「痛いって、アレですか? 魔法師のリネットさん。団長のあそこの部分を見て驚いていましたし」
そこでヒースはまたぷっと噴き出す。
「痛かったのは、確かにアレだ。自分の意志とは関係なく、勝手に育った感じだな。だが、彼女のおかげでなんとか助かった」
「本当ですよ。私だってヤられるかもしれないと、危機を感じたくらいですから」
今だからこうやって笑い話にできるが、あのときはとにかく辛かった。抑えきれない衝動と、堪えられないような痛み。いっそのこと意識を失いたいと思ったくらいだ。
「それにしてもリネットさん。あれだけの情報と症状から呪いの種類を見破るとは、さすがですね。初めて見たときは、ほわほわっとしていて、その辺を歩いていそうな女学生に見えたのですが」
ラウルもそう思った。呪いによって苦しみ悶えていたときに、突如として現れた小柄な女性。呪いを解く方法がないと聞いたときは、この世の終わりと表現したくなるくらいの絶望感に襲われたが、症状を緩和する方法があると耳にしたときは、早くその方法を試してほしいと願った。
それが「おはようのキス」と言われてしまえば、信じられない気持ちでいっぱいである。つまり、キスさえすればこの苦しみから解放される。しかし、毎日、同じ相手というのが難点だった。
残念ながら、ラウルは結婚も婚約もしていないし、恋人もいない。更に言うならば、過去に恋人がいたためしもない。となれば、キスの相手がいない。
リネットはプロも提案してきたが、そうなった場合の費用は騎士団持ちになるかラウル持ちになるか悩ましいところだが、報告をぼかす案件となれば、間違いなくラウル持ちになるだろう。
ヒースが「キスの相手は異性でなければならないのか」と確認した挙げ句、ヒース自身も対象かと口にしたときにはさすがに焦った。
毎朝、ヒースの顔を見るのは勘弁願いたいし、ラウルも性愛の対象は女性である。ヒースとキスをしなければ今すぐ死ぬと言われれば考えるが、そうでなければ別の相手を望みたい。
といってもその場に女性がブリタとリネットしかおらず、既婚女性と独身女性がいたら、後腐れなく独身女性を選ぶのが自然だろう。
四人の中で誰を選ぶかと突きつけられ、少しだけ悩んでリネットを指名した。彼女も薄々そうなるだろうことは予想していたようで「消去法でいってもそうなりますよね」と言ったところで、すぐにその場で口づけてきたのだ。「おはようございます」と時間にそぐわない挨拶までつけて。
その後、驚くくらいに昂ぶりがおさまった。となれば彼女が言っていた『毎日「おはようのキス」をしないと発情する呪い』に違いはないらしい。そしてその呪いが解けるまで、ラウルはリネットと毎日キスをしなければならない。
はっきり言って、ラウル的には苦痛ではない。毎日、リネットのようなかわいい女性に「おはよう」とキスされるのは、最高ではないだろうか。独身男性のささやかな夢だ。
しかし、そんな夢が現実になると思っていたが、その考えは甘かった。
翌朝。リネットに「おはようのキス」をしてもらうために、魔法院の彼女の研究室へと向かったが、不在だった。この件を知っているエドガーがいたため、彼女の所在を尋ねれば「まだ寝てるよ。たいてい、昼過ぎにならないとここには来ないから」とケラケラ笑っていた。
だが彼は、丁寧にもリネットの部屋まで教えてくれたのだ。となれば、そこへ向かうしかない。もちろん、扉には鍵がかかっており、ラウルは扉をノックした。まだ眠っているのか、ノックしても扉は開かない。しつこくノックをし続けたが、悔しいことにラウルのラウルが疼き始める。なぜこのタイミングなのか、まったくもってわからない。まだ我慢できるが、このまま彼女とキスをせずに仕事へ向かったらどうなるのか、予想がつかない。
となれば、頼るのは魔法師長しかいない。
ラウルが執務室でいつものように書類に目を通していると、ヒースが追加の書類を手にしてやってきた。机の上にはすでに山のように書類が重ねられているというのに、ヒースの姿を目にしただけでもげんなりしてしまう。
「団長。こちら、例のヤゴル遺跡の報告書なのですが……」
ヤゴル遺跡と聞いて、ラウルは顔をしかめる。
「とりあえず、被害状況をまとめたものになります。それから団長のことは、負傷者という形で報告が必要かと思いまして……」
「そうだな。魔法師の治療を受けたと書いておけばいいか?」
「そうですね。さすがに呪いを受けて発情中とは書けないので」
事実をそのまま書けないときは、ぼかして書くしかない。
「魔法師たちも、俺が受けた呪いについては口止めしてくれているらしい」
「そりゃそうでしょ。呪われて体調を崩したとかならわかりますが……発情って……」
ヒースがラウルから顔を逸らして口元を押さえているのは、込み上げてくる笑いを堪えるためだろう。
ラウルは少しむっとして答える。
「だったら、おまえもあの呪いを受けてみればいい。とにかく、痛かった」
「痛いって、アレですか? 魔法師のリネットさん。団長のあそこの部分を見て驚いていましたし」
そこでヒースはまたぷっと噴き出す。
「痛かったのは、確かにアレだ。自分の意志とは関係なく、勝手に育った感じだな。だが、彼女のおかげでなんとか助かった」
「本当ですよ。私だってヤられるかもしれないと、危機を感じたくらいですから」
今だからこうやって笑い話にできるが、あのときはとにかく辛かった。抑えきれない衝動と、堪えられないような痛み。いっそのこと意識を失いたいと思ったくらいだ。
「それにしてもリネットさん。あれだけの情報と症状から呪いの種類を見破るとは、さすがですね。初めて見たときは、ほわほわっとしていて、その辺を歩いていそうな女学生に見えたのですが」
ラウルもそう思った。呪いによって苦しみ悶えていたときに、突如として現れた小柄な女性。呪いを解く方法がないと聞いたときは、この世の終わりと表現したくなるくらいの絶望感に襲われたが、症状を緩和する方法があると耳にしたときは、早くその方法を試してほしいと願った。
それが「おはようのキス」と言われてしまえば、信じられない気持ちでいっぱいである。つまり、キスさえすればこの苦しみから解放される。しかし、毎日、同じ相手というのが難点だった。
残念ながら、ラウルは結婚も婚約もしていないし、恋人もいない。更に言うならば、過去に恋人がいたためしもない。となれば、キスの相手がいない。
リネットはプロも提案してきたが、そうなった場合の費用は騎士団持ちになるかラウル持ちになるか悩ましいところだが、報告をぼかす案件となれば、間違いなくラウル持ちになるだろう。
ヒースが「キスの相手は異性でなければならないのか」と確認した挙げ句、ヒース自身も対象かと口にしたときにはさすがに焦った。
毎朝、ヒースの顔を見るのは勘弁願いたいし、ラウルも性愛の対象は女性である。ヒースとキスをしなければ今すぐ死ぬと言われれば考えるが、そうでなければ別の相手を望みたい。
といってもその場に女性がブリタとリネットしかおらず、既婚女性と独身女性がいたら、後腐れなく独身女性を選ぶのが自然だろう。
四人の中で誰を選ぶかと突きつけられ、少しだけ悩んでリネットを指名した。彼女も薄々そうなるだろうことは予想していたようで「消去法でいってもそうなりますよね」と言ったところで、すぐにその場で口づけてきたのだ。「おはようございます」と時間にそぐわない挨拶までつけて。
その後、驚くくらいに昂ぶりがおさまった。となれば彼女が言っていた『毎日「おはようのキス」をしないと発情する呪い』に違いはないらしい。そしてその呪いが解けるまで、ラウルはリネットと毎日キスをしなければならない。
はっきり言って、ラウル的には苦痛ではない。毎日、リネットのようなかわいい女性に「おはよう」とキスされるのは、最高ではないだろうか。独身男性のささやかな夢だ。
しかし、そんな夢が現実になると思っていたが、その考えは甘かった。
翌朝。リネットに「おはようのキス」をしてもらうために、魔法院の彼女の研究室へと向かったが、不在だった。この件を知っているエドガーがいたため、彼女の所在を尋ねれば「まだ寝てるよ。たいてい、昼過ぎにならないとここには来ないから」とケラケラ笑っていた。
だが彼は、丁寧にもリネットの部屋まで教えてくれたのだ。となれば、そこへ向かうしかない。もちろん、扉には鍵がかかっており、ラウルは扉をノックした。まだ眠っているのか、ノックしても扉は開かない。しつこくノックをし続けたが、悔しいことにラウルのラウルが疼き始める。なぜこのタイミングなのか、まったくもってわからない。まだ我慢できるが、このまま彼女とキスをせずに仕事へ向かったらどうなるのか、予想がつかない。
となれば、頼るのは魔法師長しかいない。
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