【R18】毎日「おはようのキス」をしないと発情する呪いにかけられた騎士団長を助けたい私

澤谷弥(さわたに わたる)

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第三章(5)

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 一人残されたリネットは、黙々と資料に目を通した。薄暗い書庫だが、魔法灯の光がリネットを包む。

 ヤゴル地区には数百年前、ゴル族という部族が住んでおり、呪術が盛んだった。呪術といっても人を呪うとか恨みを晴らすとか、そういった類いだけにとどまらない。例えば、明日の天気を晴れにするとか、豊作を祈るとか、そういった祈祷のような行為も含まれている。

『毎日「おはようのキス」をしないと発情する呪い』は、先日も彼らに言ったように、両片思いのカップルがゴル族の中にいて、それを見かねた友達が、毎日「おはようのキス」をすることで二人の仲を進展させようとした、というのが起源にある。

(だから、キスの相手は固定……。本来は、想い合った二人のための呪い……)
「う~ん」

 誰もいないのをいいことに、リネットは唸りながら、資料のページをめくる。

 ゴル族の生活に関する資料だ。この部族は閉鎖的な部族で、他部族との交流を避けていた。そのため、部族間内で結婚するが、どちらかといえば個人の意思が尊重される自由恋愛による結婚が主だった。ただ適齢期になっても相手が決まらない場合は、出会いの場が設けられるらしい。

「って、普通にお見合いでは?」

 誰もいないのをいいことに、リネットは一人突っ込みを入れた。
 数百年前のといっても、恋愛や結婚事情は今と変わらない気がする。

(わからない……)

 そこでリネットは机に突っ伏した。
 そもそも他人の色恋沙汰に関して、リネットは疎い。いや、他人だけではない。自分に関してはもっと興味がない。なぜなら、恋愛なんてしなくても生きていけるからだ。それに、キサレータ帝国での生活を少し引きずっているというのもある。

 結婚に興味がない。とにかく、恋愛事情は苦手なのだ。

(他の資料を読んでみよう……そうよ、呪術に特化した資料を……)

 リネットは他の資料に手を伸ばす。だが、お目当ての呪術に書かれている資料はここにはなさそうだ。

(なんで……?)

 再びリネットは机に顔を預けた。

(あ、むしろヤゴル地区にこだわっているからダメなのでは? 対象をこの国全域に広げ、そこの呪術を……)

 そう思って、今までの資料を本棚に戻そうと立ち上がったとき、地下書庫に誰かが入ってきたことに気がついた。

(……珍しい。どこの部署の人だろう?)

 魔法師は特有の紺色のローブを羽織っている。しかし、今、書庫内に入ってきた人物はローブを羽織っていない。

(……って、団長さん!)

 誰だろうと思ってその人物を見ていたため、ラウルと目が合ったのは不可抗力である。
 銀色の髪が魔法灯によってきらめき、青い瞳がリネットを捉えた。

「リネット。迎えにきた」

 後光が差すような眩しい笑みを浮かべ、ラウルが軽やかに近づいてくる。

「えっ?」

 図書館だというのについ大きな声をあげてしまい、リネットは慌てて両手で口を押さえた。だがすぐに、ここがリネット以外いない地下書庫だったと思い直す。

「迎えって……どうしたんですか?」
「どうもこうも? そろそろ図書館も閉館時間だろ?」

 ラウルに指摘され、リネットは慌てて時間を確認する。あと十分で閉館だ。三十分前から、十分おきに閉館を知らせる鐘が鳴るはずなのに、集中しすぎて聞き逃したらしい。

「あ、本当ですね。今、資料を片づけますので」

 地下書庫にある本は禁帯出で外に持ち出すことができない。だから使い終わったら、書棚に戻す必要があるのだが。

「これは、ここでいいのか?」

 書棚の前で背伸びして資料を戻そうとしていたリネットを見かねたのか、ラウルがひょいっとそれを奪い取って棚に戻した。

「あ、はい。ありがとうございます」
「他は?」
「あ、えっと……ここと、ここなので……おしまいです」

 そう言ってリネットは、最後の一冊を棚にしまう。

「よし、では帰るぞ」
「あの……帰るってどこに?」
「どこにって、騎士団の官舎にある俺の部屋だな」

 だが、まだ六時過ぎたところだ。

「えっと……団長さん、お仕事は?」
「終わった。だから帰るんだろう?」
「こんなに早く?」

 図書館は六時半に閉館する。だからリネットは、その後、研究室に戻って呪い全般を確認しようとしていたのだが。

「こんなに早くって……騎士団の訓練などは五時には終わる」
「早いですね」
「身体が資本だからな。昼間の訓練はそこそこ負荷をかけるが、その分、夜はゆっくり休ませるようにしている」
「なるほど。ですが、私はこれから研究室に戻ってもう少し調べたいことがあるんです」
「ダメだ」

 ラウルが間髪入れずに答えてきた。

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