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6.証拠がすべて

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「薬物入りの飲み物をイアンに飲ませようとしたな? だから、そのままその飲み物を、お前たちのものとすり替えておいたのさ。あの夜会、お前たちをおびき寄せるための罠であったが……。のこのこ出席してくれて助かったよ」

 夜会そのものが罠だったとは、知るはずもない。

「なんだ? 納得いかないような顔をして。夜会が罠であれば、あの場にいた給仕の者もこちらの協力者だよ」

 だから容易に飲み物のすり替えもできたというのか。

「さて。順を追って、君たちの罪を暴いていこうか?」

 両手を腰に手を当てながら、マレリは不適な笑みを浮かべている。

「まずは、イアン・ダリルに夜会で薬を盛った件だな。イアンに薬を飲ませ、別室で男女の営みがあったように見せかけた。それを脅しの材料として、カーラ商会はダリル家に婚姻を迫った。ここでの罪は、イアンに薬を飲ませたことだ。ただの薬ではないからね」

 ケイトはマレリから視線を逸らさない。睨みつけるかのように、鋭く見つめている。

「まったく。カーラ商会はどこからこんな違法薬物を手に入れてくるのか。ケイト、君がイアンに飲ませた薬は、一般的には媚薬と呼ばれる性的興奮剤だ。だが、それは国が認可しているものとは異なる薬。理性を奪うような違法な代物だったというわけだな」
「だけど、いくら薬のせいだとしても。イアンが私を襲ったのは事実ではなくて? ラッシュも、ダリル侯爵も、その場にきたわけでしょう?」

 ケイトも負けまいと反論した。

「行為があったように見せかけるのは簡単だろう? イアンは意識が朦朧としていたし。君の証言だけでなんとでもなる。それに、協力者のラッシュ・ベネターが目撃者だ。口裏を合わせることなど簡単だ」

 ラッシュは肌を隠すかのように掛布をたぐり寄せ、ぶるぶると身体を震わせたまま。

「それから、結婚の流れになり。そういった準備を理由に顔を合わせるたびに、イアンに薬を飲ませていた。飲み物に混ぜれば簡単だな。そうやって、イアンの自我を奪い、無理矢理、婚姻届に印を押させた。いや、イアンはそれだけは拒んだはずだ」

 そう。イアンは婚姻届への印章を拒んだ。少しずつ薬を飲ませ、洗脳したはずだったのに、彼は印章がないと言い出したのだ。

「しびれを切らしたカーラ商会長は、イアンの印章を偽造した。印章の偽造も偽造罪が適用されるからな」

「……ちっ」

 ケイトは、はしたなく舌打ちをする。
 とにかく、婚姻届の提出だけは苦戦したのだ。イアンをカーラ家に呼び出し、婚姻届へのサインと印章を迫った。サインまでは震える手でなんとか書いてくれたものの、印章はないとか言い出した。
 だからケイトの父が、国に保管されている印章の写しを閲覧し、それを覚えて同じ印章を造ったのだ。

「イアンの印章は私が預かっているからね。彼は、こうなることを恐れていたのだよ。まぁ、ようは偽造の印章による婚姻は無効になるということだ。さらに言うならば、婚姻届のイアンのサインも、心神喪失の状態でされたもの。正しい判断ができたとは思えないね」

「当時、彼が心神喪失であったと証拠があるのかしら?」

 そう、すべては証拠だ。口ではなんとでも言えるが、証拠がなければ話にならない。
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