26 / 63
第三章:夫 x 夫 x 夫(6)
しおりを挟む
穏やかなまま、晩餐の場は終わった。
クラリスはアニーとメイに連れられて部屋へと戻っていく。
ユージーンは一度執務室に足を運び、ネイサンとサジェスから、不在の間の様子を、簡単に報告を受けた。やはり、クラリスがやってきたことが大きな変化であるものの、彼女が来たことで問題が発生しているわけでもない。
「奥様は、よくやってくださっております」
特にサジェスにいたっては、クラリスの信望者にまでなりつつある。心からユージーンとクラリスの結婚を喜んでいるようで、結婚式をどうするかをそろそろ決めたい、とのことだった。
ユージーンも魔獣討伐から戻ってきたことだし、すぐにベネノ侯爵に手紙を送り結婚式の段取りについて相談する、とサジェスに言えば、彼は鷹揚に頷いた。
それからサジェスには、魔獣討伐団が無事に帰還したため、慰労パーティーの手配をするようにと指示を出す。そうすれば、サジェスが抜かりなく段取りをしてくれるはず。
サジェスを下がらせ、今度はネイサンから話を聞く。
城の切り盛りについてはサジェスから聞くのが一番であるが、兵のことやら街の様子を確認するのであれば。ネイサンほど適した人間はいない。
「お前から見て、どう思う?」
ユージーンが唐突に尋ねると「何がですか?」とネイサンからはとぼけた答えが返ってきた。
「彼女のことだ」
「彼女ってどなたです?」
ネイサンは知っててそう聞いているのだ。
「クラリスだ」
少しだけつっけんどんに返すと、ネイサンがにたりと笑った。
「ユージーン様、後悔してますよね?」
「な、なにがだ」
「奥様に離婚約を申し込んだこと」
「それは……」
ネイサンはどうやらお見通しのようだった、いや、あのとき「惚れた」とユージーンが声高々に宣言したのだから、気持ちは知られているのだろう。
「僕から見ましても、奥様はユージーン様にとって理想の女性です」
ネイサンの言葉に、なぜかユージーンの頬がゆるんだ。
「そ、そうか……この結婚話を打診されたときは、彼女をさんざん毒女だと言ってけなしていたお前がそう言葉にするくらいなのだから、確かなんだろうな」
誰に言うわけでもなく、ユージーンはぽつんと呟いた。
「その件に関しては、僕からも奥様にきちんと謝罪しております。やはり僕たちは、噂と上辺だけを信じて、奥様を偏見の目で見ていたようです」
「そうか……お前がそう言うなら……そうなんだろうな」
クラリスがネイサンに認められたのが、なぜか嬉しかった。
「それでだ、ネイサン。相談があるんだが……」
ユージーンはネイサンを信頼している。だから側に置き、留守の間の領地と民を任せているのだ。
「なんでしょう?」
「クラリスとの結婚生活を続けていくためには、どうしたらいい?」
パチパチとネイサンが目を瞬いた。まるで夢でも見ているのでは、とでも言うかのように何度もまばたきをする。
「ユージーン様は、奥様と別れたくないと?」
「先ほどからそう言っているだろう? だが、離婚前提で結婚してしまった以上、こちらも誠意を見せねばと思ってだな。黙って二年後に、やはり離婚はしない、と言い出すのは卑怯ではないかと思ったんだ」
「なるほど。でしたら、身体から落とせばいいのでは? と言いたいところですが、そもそも離婚前提の結婚を打診した時点でユージーン様はクズですので、ここでいきなり襲ってはもっとクズになります。とことんクズ男を貫く方針であるならば、お止めはしませんが、やはりきちんと気持ちを伝えるべきだと思います」
ネイサンの言葉が、心にズキンと突き刺さる。
――気持ちを伝える。
簡単なようで難しい。結婚の前提が前提だっただけに、うまく伝えられるだろうか。
部下たちをねぎらう言葉はするすると出てくるのに、クラリスにはどのようにして言葉をかけ気持ちを伝えたらいいのか。さっぱりと思い浮かばなかった。
クラリスはアニーとメイに連れられて部屋へと戻っていく。
ユージーンは一度執務室に足を運び、ネイサンとサジェスから、不在の間の様子を、簡単に報告を受けた。やはり、クラリスがやってきたことが大きな変化であるものの、彼女が来たことで問題が発生しているわけでもない。
「奥様は、よくやってくださっております」
特にサジェスにいたっては、クラリスの信望者にまでなりつつある。心からユージーンとクラリスの結婚を喜んでいるようで、結婚式をどうするかをそろそろ決めたい、とのことだった。
ユージーンも魔獣討伐から戻ってきたことだし、すぐにベネノ侯爵に手紙を送り結婚式の段取りについて相談する、とサジェスに言えば、彼は鷹揚に頷いた。
それからサジェスには、魔獣討伐団が無事に帰還したため、慰労パーティーの手配をするようにと指示を出す。そうすれば、サジェスが抜かりなく段取りをしてくれるはず。
サジェスを下がらせ、今度はネイサンから話を聞く。
城の切り盛りについてはサジェスから聞くのが一番であるが、兵のことやら街の様子を確認するのであれば。ネイサンほど適した人間はいない。
「お前から見て、どう思う?」
ユージーンが唐突に尋ねると「何がですか?」とネイサンからはとぼけた答えが返ってきた。
「彼女のことだ」
「彼女ってどなたです?」
ネイサンは知っててそう聞いているのだ。
「クラリスだ」
少しだけつっけんどんに返すと、ネイサンがにたりと笑った。
「ユージーン様、後悔してますよね?」
「な、なにがだ」
「奥様に離婚約を申し込んだこと」
「それは……」
ネイサンはどうやらお見通しのようだった、いや、あのとき「惚れた」とユージーンが声高々に宣言したのだから、気持ちは知られているのだろう。
「僕から見ましても、奥様はユージーン様にとって理想の女性です」
ネイサンの言葉に、なぜかユージーンの頬がゆるんだ。
「そ、そうか……この結婚話を打診されたときは、彼女をさんざん毒女だと言ってけなしていたお前がそう言葉にするくらいなのだから、確かなんだろうな」
誰に言うわけでもなく、ユージーンはぽつんと呟いた。
「その件に関しては、僕からも奥様にきちんと謝罪しております。やはり僕たちは、噂と上辺だけを信じて、奥様を偏見の目で見ていたようです」
「そうか……お前がそう言うなら……そうなんだろうな」
クラリスがネイサンに認められたのが、なぜか嬉しかった。
「それでだ、ネイサン。相談があるんだが……」
ユージーンはネイサンを信頼している。だから側に置き、留守の間の領地と民を任せているのだ。
「なんでしょう?」
「クラリスとの結婚生活を続けていくためには、どうしたらいい?」
パチパチとネイサンが目を瞬いた。まるで夢でも見ているのでは、とでも言うかのように何度もまばたきをする。
「ユージーン様は、奥様と別れたくないと?」
「先ほどからそう言っているだろう? だが、離婚前提で結婚してしまった以上、こちらも誠意を見せねばと思ってだな。黙って二年後に、やはり離婚はしない、と言い出すのは卑怯ではないかと思ったんだ」
「なるほど。でしたら、身体から落とせばいいのでは? と言いたいところですが、そもそも離婚前提の結婚を打診した時点でユージーン様はクズですので、ここでいきなり襲ってはもっとクズになります。とことんクズ男を貫く方針であるならば、お止めはしませんが、やはりきちんと気持ちを伝えるべきだと思います」
ネイサンの言葉が、心にズキンと突き刺さる。
――気持ちを伝える。
簡単なようで難しい。結婚の前提が前提だっただけに、うまく伝えられるだろうか。
部下たちをねぎらう言葉はするすると出てくるのに、クラリスにはどのようにして言葉をかけ気持ちを伝えたらいいのか。さっぱりと思い浮かばなかった。
618
あなたにおすすめの小説
断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~
古堂 素央
恋愛
【完結】
「なんでわたしを突き落とさないのよ」
学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。
階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。
しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。
ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?
悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!
黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
行動あるのみです!
棗
恋愛
※一部タイトル修正しました。
シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。
自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。
これが実は勘違いだと、シェリは知らない。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる