わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?

澤谷弥(さわたに わたる)

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閑話:侍女 → 毒女(2)

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 それから二十日経ったころ。

 ネイサンが、クラリスの森の散策に同行してくれる人物を探していた。

 以前からクラリスは温室の裏にある森に入りたいと言っていたのだが、許可が下りなかった。理由は、毒を持つ危険生物やら植物がたくさん生息していること、たまに魔獣が出ること。つまり、危険だからだ。
 しかしクラリスはしつこくネイサンに頼んでいたようで、そのネイサンは困り果ててユージーンに手紙で相談していたらしい。その返事が来て、護衛となるような者を同行させることを条件として、クラリスの森の散策が許可された。

 だからといってクラリスを護衛の者と二人きりにさせるわけにはいかない。そのため、侍女の中から誰かつけようと考えていたようなのだが。

「奥様が森の散策ですか? 私が同行します」

 メイとしては何も問題はない。

 クラリスと護衛のカロンとメイの三人で、裏の森へ入ることとなった。カロンという男性は四十代で、既婚者で子どもも三人いた。

 初めて足を踏み入れた裏の森は、人が並んで歩くような道はなかった。獣が通ったような獣道と呼ばれる、草木が倒され生えていないような道。
 木々が生い茂り、太陽の光を遮り、地上に届くのは本来の十分の一ほどだろう。晴れていたせいか、森の中であっても人の顔の判別はできるし、獣道もよく見えるくらいの明るさはある。
 それでもさわりと葉がこすれる音がすると、カロンは腰にたずさえている剣に手をかける。ピンと空気が張り詰める。

 そんななか、クラリスの明るい声が響く。

「あ。ここは、きのこの生息地ね」

 見るからに派手な色合いのきのこ。この手のきのこに毒があることをメイだって知っている。

「ねえ、カロン。ここのきのこは採っても大丈夫かしら?」
「あ、はい。森にあるものは好きに採取していいと、ネイサン様がおっしゃっていました」

 そう答えるカロンの顔は、どこか強張っている。

「ありがとう。では、きのこを採らせていただきますね」

 クラリスはきのこが豊富に生えている場所にしゃがみこんで、せっせとそれを摘み始める。
 その間、カロンは不審なものが近くにいないか、眼光を鋭くして見張っていた。

「奥様、私も手伝いましょうか?」

 メイが声をかけると、「お願い」と返事があった。

「このきのこで、できるだけ傘が大きなものを選んで採ってくれるかしら?」
「はい」

 しばらく二人できのこを採っていた。

「……そろそろお時間が」

 カロンが遠慮がちに声をかけてくる。

「暗くなると、危険ですから」
「もうそんな時間?」

 驚いた様子のクラリスは、ひときわ甲高い声をあげた。

「はい。ネイサン様からは、二時間以内に戻ってくるように言われております。日が落ちると、この辺りは一気に暗くなります」

 重なり合った葉の向こう側から、太陽光が降り注いでいるが、その明かりがだんだんと弱々しくなっているようにも感じる。

「そうなのね。まだ摘み取り足りないけれど、この森で迷っても皆に迷惑をかけてしまうわね。また、明日来ればいいもの」

 メイも手伝ったおかげか、バスケットには山盛りの毒きのこが入っている。

「明日もですか?」

 驚いたようにカロンが声をあげた。

「え、えぇ。そのつもりだけれど。何か?」
「い、いえ……なんでもありません」

 身体の大きなカロンが、少しだけ肩を震わせていた。メイも不思議には思ったものの、それ以上、追求しようとは思わなかった。

 それから森の散策へは毎日行くことになった。薄暗い森の中は、風が吹くと光の通り道がかわって、少しだけ明るくなるときもある。耳を澄ませば、鳥の鳴き声も聞こえるし、何かのうなり声も聞こえる。

 そのたびにカロンは剣に手をかけ、周囲に気を配る。カロンの周りだけ、空気が張り詰めていた。

 それを知ってか知らずか、クラリスは珍しい毒直物を見つけると摘み取り、毒をもつ虫がいても捕まえる。まるで新しい遊び場を知った子どものように、彼女は生き生きとしていた。

 だからメイもこの散策はまんざらでもなかったのだが、すぐに回数制限がかけられるようになってしまった。
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