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第七章:告白 x 告白(5)
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痺れ薬はファンケの目にかかったため、そこから体内にゆっくりと吸収されていったのだろう。クラリスが持ち歩いている毒は、経口摂取や粘膜摂取によって効果が高まるもの。
もちろん、中には触れただけで毛穴から吸収されるような毒もあるが、それは厳重に鍵がかけられた棚で保管されている。
(はやく、ここから逃げ出さなければ……)
そう思って身体を起こすものの、クラリスの目の前が白んできた。
(うっ……これは……毒切れの症状……)
ハリエッタから昼食兼の茶会に誘われていたため、昼の分の毒をまだ飲んでいない。ハリエッタが目を離した隙に自分のカップに毒を入れる予定であったが、そのタイミングを逃していた。遅くなっても帰りの馬車で飲めばいいと、そう思っていたくらいだ。
(今ならまだ間に合うわ)
それにファンケも痺れ薬の影響で動けないから、まさしく今がとのときである。
(……って。痺れ薬を全部、ファンケ様にかけてしまったわ)
あれはクラリスにとって五日分の毒である。必要量を持ち歩くために、濃度を濃くしてあった。だからファンケもあれだけで、すぐに反応を示したのだ。
クラリスの心臓が、ドクドクと大きく拍動する。呼吸も苦しくなり、手のひらにもじっとりと汗をかき始めた。
(こんなところで死んでしまうのね……)
少しでも呼吸を楽にするために目を閉じれば、目尻からじんわりと涙が溢れてきた。
やりたいことはまだたくさんある。せっかくウォルター領で毒と戯れる場所と時間を作ってもらったというのに。
アルバートとハリエッタの二人の晴れの姿を見届けられないのも心残りだ。
デリックはきちんと毒師としての責務を果たせているだろうか。
クラリスが毒切れで死んでしまったら、母親はまた自分を責めるだろうか。父親はそんな母親をどうやって宥めるのだろうか。
いや、それよりもユージーンに伝えていないことがあった。もしかしたら、それが一番心残りなのかもしれない。
アルバートと共に過ごした十年以上よりも、ユージーンと共に暮らしたこの二か月のほうが、喜びに満ちていた。
彼との生活はすべてにおいて満たされており、毎日が楽しかった。自然と笑顔がこぼれたものだ。
きっとその気持ちが「幸せ」なのだろう。それを伝えられないのが悔やまれる。
薄れいく意識の中、ユージーンの姿が脳裏に浮かんだ。
(ユージーン様。わたくし、あなたと結婚できて幸せでした――)
「……リス、……リス、クラリス……」
誰かがクラリスの名を呼んでいる。それはどこか苦しそうな男性の声。
「んっ……」
「クラリス、クラリス、気がついたか?」
「旦那様……?」
目を開けると、鉄紺の瞳を目一杯に広げたユージーンの顔があった。
「クラリス、気がついたか……よかった……」
その「よかった」は紛れもなくユージーンの本音なのだろう。
「旦那様? ここはどこですか? わたくし、誰かにさらわれて……?」
「ああ。そうだ。君はメンディー侯爵家のファンケにさらわれたんだよ。ここはその侯爵家の地下にある部屋だ」
「……地下?」
その地下の部屋で、クラリスを人知れず殺そうとしたのだろう。だけど、クラリスが持っていた痺れ薬がファンケの動きを制限した。
「……それよりも。どうして旦那様は、この場所がわかったのですか?」
「ああ、それはだな」
ユージーンの顔が向いた先を、クラリスも目で追った。
「あっ! あれはわたくしの蛇さん」
ファンケには二匹の蛇が絡みついていた。もちろんその蛇は毒蛇である。
「あいつらがこの場所を教えてくれた。君がいつも持ち歩いている、蛇をおびき寄せる薬。どうやらあれが、道にこぼれていたようだな」
そこでクラリスにはピンときた。先ほどファンケに向かって投げつけた空瓶だが、あれにはやはり蛇をおびき寄せる薬が入っていたのだ。それが何かの拍子で栓がゆるみ、少しずつこぼれていったのだろう。きっと荷台のような馬車も作りが荒く、板の合わせ目から薬も地面に落ちていったにちがいない。
ましてあの二匹はクラリスが大事に飼っている毒蛇である。クラリスがかわいがっていたこともあって、ウォルター領から王都にまで連れてきた。それもあって、その辺の毒蛇より人間の意図を感じ取れるようになっているのだ。もしかして、言葉が理解できているのでは? と思えてしまうほどに。
「姉様。ご無事でしたか?」
クラリスを見下ろすのは、薬師の紺色のローブを羽織っているものの、間違いなく弟のデリックである。
「デリック? あなたまでどうしたの?」
もちろん、中には触れただけで毛穴から吸収されるような毒もあるが、それは厳重に鍵がかけられた棚で保管されている。
(はやく、ここから逃げ出さなければ……)
そう思って身体を起こすものの、クラリスの目の前が白んできた。
(うっ……これは……毒切れの症状……)
ハリエッタから昼食兼の茶会に誘われていたため、昼の分の毒をまだ飲んでいない。ハリエッタが目を離した隙に自分のカップに毒を入れる予定であったが、そのタイミングを逃していた。遅くなっても帰りの馬車で飲めばいいと、そう思っていたくらいだ。
(今ならまだ間に合うわ)
それにファンケも痺れ薬の影響で動けないから、まさしく今がとのときである。
(……って。痺れ薬を全部、ファンケ様にかけてしまったわ)
あれはクラリスにとって五日分の毒である。必要量を持ち歩くために、濃度を濃くしてあった。だからファンケもあれだけで、すぐに反応を示したのだ。
クラリスの心臓が、ドクドクと大きく拍動する。呼吸も苦しくなり、手のひらにもじっとりと汗をかき始めた。
(こんなところで死んでしまうのね……)
少しでも呼吸を楽にするために目を閉じれば、目尻からじんわりと涙が溢れてきた。
やりたいことはまだたくさんある。せっかくウォルター領で毒と戯れる場所と時間を作ってもらったというのに。
アルバートとハリエッタの二人の晴れの姿を見届けられないのも心残りだ。
デリックはきちんと毒師としての責務を果たせているだろうか。
クラリスが毒切れで死んでしまったら、母親はまた自分を責めるだろうか。父親はそんな母親をどうやって宥めるのだろうか。
いや、それよりもユージーンに伝えていないことがあった。もしかしたら、それが一番心残りなのかもしれない。
アルバートと共に過ごした十年以上よりも、ユージーンと共に暮らしたこの二か月のほうが、喜びに満ちていた。
彼との生活はすべてにおいて満たされており、毎日が楽しかった。自然と笑顔がこぼれたものだ。
きっとその気持ちが「幸せ」なのだろう。それを伝えられないのが悔やまれる。
薄れいく意識の中、ユージーンの姿が脳裏に浮かんだ。
(ユージーン様。わたくし、あなたと結婚できて幸せでした――)
「……リス、……リス、クラリス……」
誰かがクラリスの名を呼んでいる。それはどこか苦しそうな男性の声。
「んっ……」
「クラリス、クラリス、気がついたか?」
「旦那様……?」
目を開けると、鉄紺の瞳を目一杯に広げたユージーンの顔があった。
「クラリス、気がついたか……よかった……」
その「よかった」は紛れもなくユージーンの本音なのだろう。
「旦那様? ここはどこですか? わたくし、誰かにさらわれて……?」
「ああ。そうだ。君はメンディー侯爵家のファンケにさらわれたんだよ。ここはその侯爵家の地下にある部屋だ」
「……地下?」
その地下の部屋で、クラリスを人知れず殺そうとしたのだろう。だけど、クラリスが持っていた痺れ薬がファンケの動きを制限した。
「……それよりも。どうして旦那様は、この場所がわかったのですか?」
「ああ、それはだな」
ユージーンの顔が向いた先を、クラリスも目で追った。
「あっ! あれはわたくしの蛇さん」
ファンケには二匹の蛇が絡みついていた。もちろんその蛇は毒蛇である。
「あいつらがこの場所を教えてくれた。君がいつも持ち歩いている、蛇をおびき寄せる薬。どうやらあれが、道にこぼれていたようだな」
そこでクラリスにはピンときた。先ほどファンケに向かって投げつけた空瓶だが、あれにはやはり蛇をおびき寄せる薬が入っていたのだ。それが何かの拍子で栓がゆるみ、少しずつこぼれていったのだろう。きっと荷台のような馬車も作りが荒く、板の合わせ目から薬も地面に落ちていったにちがいない。
ましてあの二匹はクラリスが大事に飼っている毒蛇である。クラリスがかわいがっていたこともあって、ウォルター領から王都にまで連れてきた。それもあって、その辺の毒蛇より人間の意図を感じ取れるようになっているのだ。もしかして、言葉が理解できているのでは? と思えてしまうほどに。
「姉様。ご無事でしたか?」
クラリスを見下ろすのは、薬師の紺色のローブを羽織っているものの、間違いなく弟のデリックである。
「デリック? あなたまでどうしたの?」
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