8 / 15
7
しおりを挟む
早速、百花は、新しいぬいぐるみ――ではなく、昂焔の依り代を作るために、新樹に外出の許可を求めた。
「ダメだ。ダメに決まっているだろう?」
執務席で、書類にペンを走らせている新樹は、顔もあげずに否定した。
「ですが、ぬいぐるみを作るには材料が必要なんです。それが、今、針子部屋にある材料では足りなくて……」
「だからって、おまえを一人で買い物に行かせるのは言語道断。ただでさえ人狩りの被害が大きくなっているというのに。それでは自分からさらってくださいと言っているようなものじゃないか!」
「百花さん。今、新樹様は不機嫌の頂点に達しています。反抗期というまっただ中、六家会議で書類作成を押しつけられ、イライラされているのです。私のほうから補足させていただきます。ささ、どうぞそちらにお座りください」
航平の指示に従い、百花はソファに腰を落ち着ける。それでもこの場は新樹の執務席の真ん前にあるため、左側から突き刺さるような視線を感じながら、航平の話に耳を傾ける。
「新樹様がおっしゃったように、ここ数日、人狩りの動きが活発になっております。人狩りは鬼人の血を求め、鬼人をさらっています」
それは新聞でも記事になっているため、百花も知っている。しかし百花は鬼人ではない、ただの人である。
「ですが人狩りは、鬼人だけでなくただの人もさらい、奴隷として売りさばくのです。人狩りとはそういった所以です」
つまり、人狩りにとっては鬼人も人も、金儲けの道具にすぎないというわけだ。
「また人にも霊力さえ与えれば、半鬼人として霊力が使えるようになります。どうやら人狩りは半鬼人を作り上げたいと、そういった噂もあるのですよ」
鬼人に対し半鬼人は後天的に霊力を備えた者で、その霊力は鬼人から与えられる。しかし、それは鬼人と人の契約によるもので、鬼人より霊力を与えられた半鬼人は、生涯、その鬼人に尽くす必要があった。
「人狩りは、鬼人の血から霊薬を作ろうとしているわけです。霊薬は一般的には霊力を高めたり怪我や病気も治すことのできる万能薬と呼ばれていますし、貴重なものとして存在しています。しかし人狩りが作ろうとしている霊薬は、その一般的霊薬とは異なるものです」
いつの間にか、書類にペン先を走らせていた新樹の手も止まっていて、航平の話に聞き入っている。いや、航平が何をどこまで言うのかを確認しているのかもしれない。彼が言ってはならないことを口にするようであれば、それを制するために。
「どういった霊薬なのでしょうか?」
百花も航平の話に夢中になっており、気がついたらその言葉が口から出ていた。
「人を強制的に半鬼人にする霊薬。そのために、鬼人の血が必要だと、そういった流れですね」
あっけらかんと明るい口調の航平だが、話の内容は明るいものではなかった。
人狩りは、なんでも言うことをきく半鬼人を作るため、鬼人の血を欲し人の肉体を必要としているらしい。
「そのため新樹様は、百花さんが一人で外をふらふらと歩くのを嫌がっているわけです」
「それでは、誰も外を歩けないではありませんか?」
「さすが百花さん。よく気がつきましたね!」
気がつくも何も、人狩りが恐ろしいから外に出るなというのに、今日も大通りのほうからは賑やかな音が聞こえてくる。
「つまり、百花さんを一人で外に行かせたくない、というのが新樹様の本音です」
「おい、航平」
新樹の声が室内に響くものの、すぐにそれに割って入る存在があった。
《だったら、オレ様が一緒に行けばいいじゃないか》
新樹の執務席の上で行儀よく座っていたうさぎのぬいぐるみの昂焔が、ぴょこっとそこから飛び降り、とてとてと歩いてきては百花の膝の上にちょこんと座った。
「ダメだ。ダメに決まっているだろう?」
執務席で、書類にペンを走らせている新樹は、顔もあげずに否定した。
「ですが、ぬいぐるみを作るには材料が必要なんです。それが、今、針子部屋にある材料では足りなくて……」
「だからって、おまえを一人で買い物に行かせるのは言語道断。ただでさえ人狩りの被害が大きくなっているというのに。それでは自分からさらってくださいと言っているようなものじゃないか!」
「百花さん。今、新樹様は不機嫌の頂点に達しています。反抗期というまっただ中、六家会議で書類作成を押しつけられ、イライラされているのです。私のほうから補足させていただきます。ささ、どうぞそちらにお座りください」
航平の指示に従い、百花はソファに腰を落ち着ける。それでもこの場は新樹の執務席の真ん前にあるため、左側から突き刺さるような視線を感じながら、航平の話に耳を傾ける。
「新樹様がおっしゃったように、ここ数日、人狩りの動きが活発になっております。人狩りは鬼人の血を求め、鬼人をさらっています」
それは新聞でも記事になっているため、百花も知っている。しかし百花は鬼人ではない、ただの人である。
「ですが人狩りは、鬼人だけでなくただの人もさらい、奴隷として売りさばくのです。人狩りとはそういった所以です」
つまり、人狩りにとっては鬼人も人も、金儲けの道具にすぎないというわけだ。
「また人にも霊力さえ与えれば、半鬼人として霊力が使えるようになります。どうやら人狩りは半鬼人を作り上げたいと、そういった噂もあるのですよ」
鬼人に対し半鬼人は後天的に霊力を備えた者で、その霊力は鬼人から与えられる。しかし、それは鬼人と人の契約によるもので、鬼人より霊力を与えられた半鬼人は、生涯、その鬼人に尽くす必要があった。
「人狩りは、鬼人の血から霊薬を作ろうとしているわけです。霊薬は一般的には霊力を高めたり怪我や病気も治すことのできる万能薬と呼ばれていますし、貴重なものとして存在しています。しかし人狩りが作ろうとしている霊薬は、その一般的霊薬とは異なるものです」
いつの間にか、書類にペン先を走らせていた新樹の手も止まっていて、航平の話に聞き入っている。いや、航平が何をどこまで言うのかを確認しているのかもしれない。彼が言ってはならないことを口にするようであれば、それを制するために。
「どういった霊薬なのでしょうか?」
百花も航平の話に夢中になっており、気がついたらその言葉が口から出ていた。
「人を強制的に半鬼人にする霊薬。そのために、鬼人の血が必要だと、そういった流れですね」
あっけらかんと明るい口調の航平だが、話の内容は明るいものではなかった。
人狩りは、なんでも言うことをきく半鬼人を作るため、鬼人の血を欲し人の肉体を必要としているらしい。
「そのため新樹様は、百花さんが一人で外をふらふらと歩くのを嫌がっているわけです」
「それでは、誰も外を歩けないではありませんか?」
「さすが百花さん。よく気がつきましたね!」
気がつくも何も、人狩りが恐ろしいから外に出るなというのに、今日も大通りのほうからは賑やかな音が聞こえてくる。
「つまり、百花さんを一人で外に行かせたくない、というのが新樹様の本音です」
「おい、航平」
新樹の声が室内に響くものの、すぐにそれに割って入る存在があった。
《だったら、オレ様が一緒に行けばいいじゃないか》
新樹の執務席の上で行儀よく座っていたうさぎのぬいぐるみの昂焔が、ぴょこっとそこから飛び降り、とてとてと歩いてきては百花の膝の上にちょこんと座った。
37
あなたにおすすめの小説
結婚して5年、初めて口を利きました
宮野 楓
恋愛
―――出会って、結婚して5年。一度も口を聞いたことがない。
ミリエルと旦那様であるロイスの政略結婚が他と違う点を挙げよ、と言えばこれに尽きるだろう。
その二人が5年の月日を経て邂逅するとき
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
運命の番より真実の愛が欲しい
サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。
ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。
しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。
運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。
それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる