8 / 8
第八話
しおりを挟む
「危ない」
すぐにアイゼルが素早く動き、倒れそうになるエリサリナの身体を支えた。
「だから、あなたから目を離せないんですよ。なんでも一人でやろうとして、誰かに頼ろうとしない。もっと僕を頼ってほしいのに……」
エリサリナをのぞき込む彼の瞳は、どこかもの悲しげに揺れている。
「僕はずっとあなたを追いかけていた。やっと手が届くと思ったら今度は逃げられた。だから、あなたを待ち伏せすることにしたんです」
そのままアイゼルは、唇を重ねてきた。それはほんの触れ合うだけの、わずかなものだというのに、エリサリナの記憶を刺激するのには十分だった。
「そういう眼で見るの、やめてくれません?」
「えっと……、もしかして目つきが悪かった?」
「いえ。もっとしてほしそうな顔をしてます」
羞恥のあまり、顔がかっと熱くなる。
「そ、そんなんじゃないから」
慌てて否定したのは、本心を見破られたと思ったからかもしれない。彼との口づけは、嫌ではなかった。むしろ心地よかった。
「この結婚は政略的なものだと思ってもらってかまいません。僕たちの身分であれば、結婚に気持ちが伴わないのも珍しくはないでしょう?」
なぜか胸が苦しくなった。アイゼルから突き放されたような気がした。
「だけど、断ることは許しません。今はまだ、僕のことを好きではないかもしれませんが、これから好きになってもらう予定ですから」
そう言った彼は、今度は軽く、ちゅっと額に口づけてきた。
「ダメだ……名残惜しいけれど、このままでは離れられなくなる……順番を守らないと……」
ぶつぶつと何か言いながら、アイゼルはエリサリナと距離を取った。
「また来てもいいですか? いや、また来ます」
許可を取るような言い方は、騎士団時代となんら変わりない。だけど、言い直したときの表情は、あのときとは違うもの。
気持ちを整えたエリサリナは、アイゼルを見送るため部屋を出た。
しかし、部屋の外ではリザリアを抱いたダフネが待っていたのだ。
「ま~ま~」
「ごめんなさい。リアにはママは大事な話をしているから、良い子で待ちましょうと言ったのに、暴れて手がつけられなくて。だからあなたの側で待っていたの」
「ありがとう、ダフネおばさま」
リザリアをダフネから受け取ったとき、鋭い視線を感じた。
「その子は……」
間違いなくこの場にいた誰もが、リザリアとアイゼルの血縁関係を確信している。それだけリザリアはアイゼルによく似ていた。こうやって並んだからこそ、意識してしまう。
これではもう彼との結婚は避けられないと、エリサリナは瞬時に悟った。と同時に、今、彼に対して抱く感情がなんなのか、正体を突き止めたいと、そう思うのだった――。
【おわり】
ーーーーーーーーーーーーーー
●あとがきのようなもの
短編のつもりで書き始めたのに、長くなりそうだったのでここで強制終了です。
この後、メラーズ子爵領で病気療養をしていたエリサリナが回復し、アイゼルと結婚したという話が広がります。
そしてアイゼルはエリサリナを囲い込んで、なんとしてでも自分を好きになってもらうように必死になるという話が続……くかもしれない。
本当は「結婚してください」「はい、私もあなたが好きです」というきれいなラストで終わろうとしていたはずなのに、なんかそんな結末にならなくてですね。
困ってしまって、こうなりました。
今年の投稿は本作で最後となります。
少し早いですが、よいお年をお迎えください。
2026年も、よろしくお願いします。
それでは。
澤谷
すぐにアイゼルが素早く動き、倒れそうになるエリサリナの身体を支えた。
「だから、あなたから目を離せないんですよ。なんでも一人でやろうとして、誰かに頼ろうとしない。もっと僕を頼ってほしいのに……」
エリサリナをのぞき込む彼の瞳は、どこかもの悲しげに揺れている。
「僕はずっとあなたを追いかけていた。やっと手が届くと思ったら今度は逃げられた。だから、あなたを待ち伏せすることにしたんです」
そのままアイゼルは、唇を重ねてきた。それはほんの触れ合うだけの、わずかなものだというのに、エリサリナの記憶を刺激するのには十分だった。
「そういう眼で見るの、やめてくれません?」
「えっと……、もしかして目つきが悪かった?」
「いえ。もっとしてほしそうな顔をしてます」
羞恥のあまり、顔がかっと熱くなる。
「そ、そんなんじゃないから」
慌てて否定したのは、本心を見破られたと思ったからかもしれない。彼との口づけは、嫌ではなかった。むしろ心地よかった。
「この結婚は政略的なものだと思ってもらってかまいません。僕たちの身分であれば、結婚に気持ちが伴わないのも珍しくはないでしょう?」
なぜか胸が苦しくなった。アイゼルから突き放されたような気がした。
「だけど、断ることは許しません。今はまだ、僕のことを好きではないかもしれませんが、これから好きになってもらう予定ですから」
そう言った彼は、今度は軽く、ちゅっと額に口づけてきた。
「ダメだ……名残惜しいけれど、このままでは離れられなくなる……順番を守らないと……」
ぶつぶつと何か言いながら、アイゼルはエリサリナと距離を取った。
「また来てもいいですか? いや、また来ます」
許可を取るような言い方は、騎士団時代となんら変わりない。だけど、言い直したときの表情は、あのときとは違うもの。
気持ちを整えたエリサリナは、アイゼルを見送るため部屋を出た。
しかし、部屋の外ではリザリアを抱いたダフネが待っていたのだ。
「ま~ま~」
「ごめんなさい。リアにはママは大事な話をしているから、良い子で待ちましょうと言ったのに、暴れて手がつけられなくて。だからあなたの側で待っていたの」
「ありがとう、ダフネおばさま」
リザリアをダフネから受け取ったとき、鋭い視線を感じた。
「その子は……」
間違いなくこの場にいた誰もが、リザリアとアイゼルの血縁関係を確信している。それだけリザリアはアイゼルによく似ていた。こうやって並んだからこそ、意識してしまう。
これではもう彼との結婚は避けられないと、エリサリナは瞬時に悟った。と同時に、今、彼に対して抱く感情がなんなのか、正体を突き止めたいと、そう思うのだった――。
【おわり】
ーーーーーーーーーーーーーー
●あとがきのようなもの
短編のつもりで書き始めたのに、長くなりそうだったのでここで強制終了です。
この後、メラーズ子爵領で病気療養をしていたエリサリナが回復し、アイゼルと結婚したという話が広がります。
そしてアイゼルはエリサリナを囲い込んで、なんとしてでも自分を好きになってもらうように必死になるという話が続……くかもしれない。
本当は「結婚してください」「はい、私もあなたが好きです」というきれいなラストで終わろうとしていたはずなのに、なんかそんな結末にならなくてですね。
困ってしまって、こうなりました。
今年の投稿は本作で最後となります。
少し早いですが、よいお年をお迎えください。
2026年も、よろしくお願いします。
それでは。
澤谷
518
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました
鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」
そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。
しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!?
だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。
「彼女を渡すつもりはない」
冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!?
毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし!
さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜――
リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される!
政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー!
「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」
『婚約破棄された令嬢ですが、王国は私抜きでは立てなかったようですね』
鷹 綾
恋愛
「愛しているのは彼女だ」
王太子ロネスにそう告げられ、婚約を破棄された侯爵令嬢エルゼリア・クローヴェル。
感情をぶつけることも、復讐を誓うこともなく、
彼女はただ――王宮を去った。
しかしその直後から、王国は静かに崩れ始める。
外交は滞り、判断は遅れ、市場は揺れ、
かつて「問題なく回っていた」はずの政務が、次々と行き詰まっていった。
一方、エルゼリアは帝国で新たな立場を得ていた。
帝国宰相ハインリヒ・ヴォルフの隣で、
彼女は再び“判断する側”として歩み始める。
やがて明らかになるのは、
王国が失ったのは「婚約者」ではなく、
判断を引き継ぐ仕組みそのものだったという事実。
謝罪も、復縁も、感情的なざまあもない。
それでも――
選ばれ、認められ、引き継がれていくのは、誰なのか。
これは、
捨てられた令嬢が声を荒げることなく、
世界のほうが彼女を必要としてしまった物語。
「君を愛することはない」と言われたので、私も愛しません。次いきます。 〜婚約破棄はご褒美です!
放浪人
恋愛
【「愛さない」と言ったのはあなたです。私はもっとハイスペックな次(夫)と幸せになりますので、どうぞお構いなく!】
侯爵令嬢リディアは、建国記念舞踏会の最中に、婚約者である王太子レオンハルトから婚約破棄を宣言される。 「君を愛することはない!」という王太子の言葉は、国中に響く『公的拒絶誓約』となってしまった。
しかし、リディアは泣かなかった。 「承知しました。私も愛しません。次いきます」 彼女は即座に撤退し、その場で慰謝料請求と名誉回復の手続きを開始する。その潔さと有能さに目をつけたのは、国の行政を牛耳る『氷の宰相』アシュ・ヴァレンシュタインだった。
「私の政治的盾になれ。条件は『恋愛感情の禁止』と『嘘がつけない契約』だ」
利害の一致した二人は、愛のない契約結婚を結ぶ。 はずだったのだが――『嘘がつけない契約』のせいで、冷徹なはずの宰相の本音が暴走! 「君を失うのは非合理だ(=大好きだ)」「君は私の光だ(=愛してる)」 隠せない溺愛と、最強の夫婦による論理的で容赦のない『ざまぁ』。
一方、リディアを捨てた王太子は「愛さない誓約」の呪いに苦しみ、自滅していく。 これは、悪役令嬢と呼ばれた女が、嘘のない真実の愛を手に入れ、国中を巻き込んで幸せになるまでの物語。
婚約破棄された侯爵令嬢ですが、帝国の次席秘書官になりました ――王の隣ではなく、判断を誤らせない場所へ
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として王宮に仕える侯爵令嬢ゼクレテァ。
彼女は華やかな場に立つことはなく、ただ静かに、しかし確実に政務と外交を支えていた。
――その役割が、突然奪われるまでは。
公の場で告げられた一方的な婚約破棄。
理由はただひとつ、「愛している相手がいるから」。
ゼクレテァは感情を見せることなく、その決定を受け入れる。
だが彼女が王宮を去った後、王国には小さな歪みが生じ始めた。
些細な行き違い、遅れる判断、噛み合わない政策。
それらはやがて、国家全体を揺るがす事態へと発展していく。
一方、行き場を失ったゼクレテァの前に、思いもよらぬ「選択肢」が差し出される。
求められたのは、身分でも立場でもない。
彼女自身の能力だった。
婚約破棄から始まる、
静かで冷静な逆転劇。
王の隣に立つことを拒んだ令嬢は、
やがて「世界を動かす場所」へと歩み出す――。
-
『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様
恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。
不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、
伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。
感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、
ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。
「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」
足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。
「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」
一度凍りついた心は、二度と溶けない。
後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、
終わりのない贖罪の記録。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
子供のままの婚約者が子供を作ったようです
夏見颯一
恋愛
公爵令嬢であるヒルダの婚約者であるエリックは、ヒルダに嫌がらせばかりしている。
嫌がらせには悪意しか感じられないのだが、年下のヒルダの方がずっと我慢を強いられていた。
「エリックは子供だから」
成人済みのエリックに、ヒルダの両親もエリックの両親もとても甘かった。
昔からエリックのやんちゃな所が親達には微笑ましかったらしい。
でも、エリックは成人済みです。
いつまで子供扱いするつもりですか?
一方の私は嫌がらせで寒い中長時間待たされたり、ご飯を食べられなかったり……。
本当にどうしたものかと悩ませていると友人が、
「あいつはきっと何かやらかすだろうね」
その言葉を胸に、私が我慢し続けた結果。
エリックは子供を作りました。
流石に目が覚めた両親とヒルダは、エリックと婚約破棄するも、今まで甘やかされたエリックは本当にしつこい。
ねえエリック、知ってる?
「私にはもっと相応しい人がいるのよ?」
非常識な婚約者に悩まされていたヒルダが、穏やかな結婚をするまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ご感想ありがとうございます。
続きのリクエストもありがとうございます。
騎士団時代のかわいそうなすれ違いっぷりも書きたいです。
ご感想ありがとうございます。
来年も、ぽんこつでへたれでかわいそうなヒーローを量産していこうと思います。
ご感想ありがとうございます。
(へたれ)ヒーローですから、そういうのはギリギリまで黙っていたんです。
そしていざ!となったら、相手が酔っぱらっていたっていう、かわいそうな男なんです。
酒の勢いで~っていうのはダメですね。。。