【完結】酔っ払った勢いで子どもを授かりました。って、相手は誰?

澤谷弥(さわたに わたる)

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第八話

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「危ない」

 すぐにアイゼルが素早く動き、倒れそうになるエリサリナの身体を支えた。

「だから、あなたから目を離せないんですよ。なんでも一人でやろうとして、誰かに頼ろうとしない。もっと僕を頼ってほしいのに……」

 エリサリナをのぞき込む彼の瞳は、どこかもの悲しげに揺れている。

「僕はずっとあなたを追いかけていた。やっと手が届くと思ったら今度は逃げられた。だから、あなたを待ち伏せすることにしたんです」

 そのままアイゼルは、唇を重ねてきた。それはほんの触れ合うだけの、わずかなものだというのに、エリサリナの記憶を刺激するのには十分だった。

「そういう眼で見るの、やめてくれません?」
「えっと……、もしかして目つきが悪かった?」
「いえ。もっとしてほしそうな顔をしてます」

 羞恥のあまり、顔がかっと熱くなる。

「そ、そんなんじゃないから」

 慌てて否定したのは、本心を見破られたと思ったからかもしれない。彼との口づけは、嫌ではなかった。むしろ心地よかった。

「この結婚は政略的なものだと思ってもらってかまいません。僕たちの身分であれば、結婚に気持ちが伴わないのも珍しくはないでしょう?」

 なぜか胸が苦しくなった。アイゼルから突き放されたような気がした。

「だけど、断ることは許しません。今はまだ、僕のことを好きではないかもしれませんが、これから好きになってもらう予定ですから」

 そう言った彼は、今度は軽く、ちゅっと額に口づけてきた。

「ダメだ……名残惜しいけれど、このままでは離れられなくなる……順番を守らないと……」

 ぶつぶつと何か言いながら、アイゼルはエリサリナと距離を取った。

「また来てもいいですか? いや、また来ます」

 許可を取るような言い方は、騎士団時代となんら変わりない。だけど、言い直したときの表情は、あのときとは違うもの。
 気持ちを整えたエリサリナは、アイゼルを見送るため部屋を出た。

 しかし、部屋の外ではリザリアを抱いたダフネが待っていたのだ。

「ま~ま~」
「ごめんなさい。リアにはママは大事な話をしているから、良い子で待ちましょうと言ったのに、暴れて手がつけられなくて。だからあなたの側で待っていたの」
「ありがとう、ダフネおばさま」

 リザリアをダフネから受け取ったとき、鋭い視線を感じた。

「その子は……」

 間違いなくこの場にいた誰もが、リザリアとアイゼルの血縁関係を確信している。それだけリザリアはアイゼルによく似ていた。こうやって並んだからこそ、意識してしまう。

 これではもう彼との結婚は避けられないと、エリサリナは瞬時に悟った。と同時に、今、彼に対して抱く感情がなんなのか、正体を突き止めたいと、そう思うのだった――。

【おわり】







ーーーーーーーーーーーーーー
●あとがきのようなもの

短編のつもりで書き始めたのに、長くなりそうだったのでここで強制終了です。
この後、メラーズ子爵領で病気療養をしていたエリサリナが回復し、アイゼルと結婚したという話が広がります。
そしてアイゼルはエリサリナを囲い込んで、なんとしてでも自分を好きになってもらうように必死になるという話が続……くかもしれない。

本当は「結婚してください」「はい、私もあなたが好きです」というきれいなラストで終わろうとしていたはずなのに、なんかそんな結末にならなくてですね。
困ってしまって、こうなりました。

今年の投稿は本作で最後となります。
少し早いですが、よいお年をお迎えください。
2026年も、よろしくお願いします。

それでは。

澤谷
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感想 3

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みんなの感想(3件)

諏訪つや子
2025.12.22 諏訪つや子
ネタバレ含む
2025.12.22 澤谷弥(さわたに わたる)

ご感想ありがとうございます。

続きのリクエストもありがとうございます。
騎士団時代のかわいそうなすれ違いっぷりも書きたいです。

解除
ぱら
2025.12.22 ぱら
ネタバレ含む
2025.12.22 澤谷弥(さわたに わたる)

ご感想ありがとうございます。

来年も、ぽんこつでへたれでかわいそうなヒーローを量産していこうと思います。

解除
猫3号
2025.12.21 猫3号
ネタバレ含む
2025.12.21 澤谷弥(さわたに わたる)

ご感想ありがとうございます。

(へたれ)ヒーローですから、そういうのはギリギリまで黙っていたんです。
そしていざ!となったら、相手が酔っぱらっていたっていう、かわいそうな男なんです。
酒の勢いで~っていうのはダメですね。。。

解除

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