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本編
だんだんと罠にはまる(10)
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さて、イアンの部屋へと向かったカリッドであるが。
「おい、イアン。俺だ」
「おはようございます、カリッド様。朝からどうされましたか?」
「どうもこうもない」
カリッドはずかずかと部屋に入ると、どさっとソファへ腰をおろした。
「ああー」
と言いながら、カリッドは両手で顔を覆う。
またこの人は何かやらかしたのか、とイアンは思いながら、お茶の準備をする。それを彼の前に置きながら。
「どうされたのですか?」
カリッドがここにやって来た、ということはイアンに話を聞いてもらいたいからだ。
「モニカがめちゃくちゃ可愛い」
「ええ、あなた様がモニカ殿をそう思われていることは存じております。それで、どこまで進まれたのですか? まさか、先っちょを挿れられたのですか」
「んなわけあるかっ」
全否定されてしまった。
「では、昨夜は。横になって目を閉じて、そのまま眠りにつくことができたのですね?」
「いや。ま、ああ、そうかもしれない。いや、実はだな……」
カリッドは自慢したくて仕方なかった。彼女のふんわふんわな胸に包まれて眠りにつけた、ということを。だがそのとき、彼女が口にした「ノーマン」という名が気になったということを。
「つまり、そのノーマンという男は、彼女の胸に抱かれて寝るような関係のようだ」
はあ、とカリッドはため息をついた。
「まあ、飼っているペットとかの名前であるとは思うのですが。それとなく調べておきましょう。それに、あなた様の妻になられるのであれば、やはりそれなりの家柄というものを準備しておかなければなりません。彼女の養子先候補も併せて確認しておきます」
「ああ、頼む」
とかっこつけて答えてみるものの、カリッドのその顔は歪んでしまう。
それを見たイアンは察した。
「カリッド様。お話を聞いてあげますから、どうぞ」
「な、お、お前は。人の心が読めるのか」
「聞いて欲しい、と顔中に書いてありますよ」
イアンはこの不器用な主が嫌いではなかった。その理由は明確である。面白いから。恐らく今も、イアンにとっては腹を抱えて笑えるくらいの面白い話題が待っているに違いない。
昨日もカリッドの前では笑いをこらえ、のっぺらぼうの仮面をつけていたイアンだが、彼がこの部屋を出ていってから五分後、寝台に転がって、バシバシとそれを叩きながら笑い転げていた。我が主ながら面白過ぎる、と。遅れてやってきた思春期をこじらせているようなヤツだな、と。
「なあ、イアン。今朝は、その、彼女と濃厚なチューをしたのだが。こう、ベロを絡ませるような、そう、あれだ。ベロカラ」
「なんですか、その朝からベロカラな流れは。どうなったらそうなるんです?」
「だから、そういう流れになったんだ」
むしろ、カリッドがその流れを作った、が正解。カリッド、よくぞ頑張った、と褒めてもらいたい。
「まあ、そういう流れになってよかったですね」
「で、だ。ベロカラな仲なら、今日の夜は、先っちょくらいなら許されるよな」
「カリッド様。昨夜も申し上げましたが、合意のうえであれば許されます。ですが、無理やりはダメです」
「わかってる。合意を取り付ければいいんだろ」
「勝算はあるのですか?」
「あるわけないだろ。だからお前に話をしてるんだ。むしろ今日、デートするとかモニカに言ってしまったが、ノープランなんだ。一体、俺にどうしろと」
そこでカリッドはため息を吐きながら頭を抱えた。
イアンはそんな主を見ながら「そんなことを口走ったのか」という思いを込めて盛大に鼻から息を吐き出した。ぷくっと鼻の穴が膨れるくらいに。
そしてすっと立ち上がると、書き物ができるような机の引き出しから、ごそごそと何かを取り出す。
「どうぞ」
イアンがカリッドに差し出したのは、何かのチケットのようなもの。
「本日行われる芝居のチケットです。巷で人気のある演目ですので、恐らくモニカ殿も気に入ってくださるかと」
カリッドは驚いてイアンを見上げた。優秀な使用人であると思っていたが、ここまで優秀だったとは。
「とりあえず彼女と芝居を観て、食事をして、そして贈り物の一つでも買ってからこちらに戻ってきてください」
「そこに、チューを入れてもいいのか? ベロカラ的な」
「あなた様がそこまでできるのであれば、どうぞ。ただし、モニカ殿に嫌われない程度にお願いします」
「そしたら、今夜は先っちょくらいなら許されるよな?」
その問いに、イアンは「さあ」と首を傾げた。
「おい、イアン。俺だ」
「おはようございます、カリッド様。朝からどうされましたか?」
「どうもこうもない」
カリッドはずかずかと部屋に入ると、どさっとソファへ腰をおろした。
「ああー」
と言いながら、カリッドは両手で顔を覆う。
またこの人は何かやらかしたのか、とイアンは思いながら、お茶の準備をする。それを彼の前に置きながら。
「どうされたのですか?」
カリッドがここにやって来た、ということはイアンに話を聞いてもらいたいからだ。
「モニカがめちゃくちゃ可愛い」
「ええ、あなた様がモニカ殿をそう思われていることは存じております。それで、どこまで進まれたのですか? まさか、先っちょを挿れられたのですか」
「んなわけあるかっ」
全否定されてしまった。
「では、昨夜は。横になって目を閉じて、そのまま眠りにつくことができたのですね?」
「いや。ま、ああ、そうかもしれない。いや、実はだな……」
カリッドは自慢したくて仕方なかった。彼女のふんわふんわな胸に包まれて眠りにつけた、ということを。だがそのとき、彼女が口にした「ノーマン」という名が気になったということを。
「つまり、そのノーマンという男は、彼女の胸に抱かれて寝るような関係のようだ」
はあ、とカリッドはため息をついた。
「まあ、飼っているペットとかの名前であるとは思うのですが。それとなく調べておきましょう。それに、あなた様の妻になられるのであれば、やはりそれなりの家柄というものを準備しておかなければなりません。彼女の養子先候補も併せて確認しておきます」
「ああ、頼む」
とかっこつけて答えてみるものの、カリッドのその顔は歪んでしまう。
それを見たイアンは察した。
「カリッド様。お話を聞いてあげますから、どうぞ」
「な、お、お前は。人の心が読めるのか」
「聞いて欲しい、と顔中に書いてありますよ」
イアンはこの不器用な主が嫌いではなかった。その理由は明確である。面白いから。恐らく今も、イアンにとっては腹を抱えて笑えるくらいの面白い話題が待っているに違いない。
昨日もカリッドの前では笑いをこらえ、のっぺらぼうの仮面をつけていたイアンだが、彼がこの部屋を出ていってから五分後、寝台に転がって、バシバシとそれを叩きながら笑い転げていた。我が主ながら面白過ぎる、と。遅れてやってきた思春期をこじらせているようなヤツだな、と。
「なあ、イアン。今朝は、その、彼女と濃厚なチューをしたのだが。こう、ベロを絡ませるような、そう、あれだ。ベロカラ」
「なんですか、その朝からベロカラな流れは。どうなったらそうなるんです?」
「だから、そういう流れになったんだ」
むしろ、カリッドがその流れを作った、が正解。カリッド、よくぞ頑張った、と褒めてもらいたい。
「まあ、そういう流れになってよかったですね」
「で、だ。ベロカラな仲なら、今日の夜は、先っちょくらいなら許されるよな」
「カリッド様。昨夜も申し上げましたが、合意のうえであれば許されます。ですが、無理やりはダメです」
「わかってる。合意を取り付ければいいんだろ」
「勝算はあるのですか?」
「あるわけないだろ。だからお前に話をしてるんだ。むしろ今日、デートするとかモニカに言ってしまったが、ノープランなんだ。一体、俺にどうしろと」
そこでカリッドはため息を吐きながら頭を抱えた。
イアンはそんな主を見ながら「そんなことを口走ったのか」という思いを込めて盛大に鼻から息を吐き出した。ぷくっと鼻の穴が膨れるくらいに。
そしてすっと立ち上がると、書き物ができるような机の引き出しから、ごそごそと何かを取り出す。
「どうぞ」
イアンがカリッドに差し出したのは、何かのチケットのようなもの。
「本日行われる芝居のチケットです。巷で人気のある演目ですので、恐らくモニカ殿も気に入ってくださるかと」
カリッドは驚いてイアンを見上げた。優秀な使用人であると思っていたが、ここまで優秀だったとは。
「とりあえず彼女と芝居を観て、食事をして、そして贈り物の一つでも買ってからこちらに戻ってきてください」
「そこに、チューを入れてもいいのか? ベロカラ的な」
「あなた様がそこまでできるのであれば、どうぞ。ただし、モニカ殿に嫌われない程度にお願いします」
「そしたら、今夜は先っちょくらいなら許されるよな?」
その問いに、イアンは「さあ」と首を傾げた。
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