7 / 7
第一章(5)
しおりを挟む
学園に入学して一年が経ち、二年次に進級するときにはクラス替えが行われた。もちろんそれは、成績別に分けられたもの。
なんとか成績上位クラスのAクラスになった私は、アーヴィンも同じクラスであった事実にほっと胸をなでおろす。彼が他のクラスになるわけがないと思っていても、やはり掲示板で互いの名前を見つけるまでは不安だった。
ちなみにシオドアは、成績下位クラスのDクラスに名前があった。彼は何かあるたびに「学園の成績だけで、その人物の能力がわかるはずがないだろう」と言っているらしい。シオドアの言うことも一理あるが、それでも彼の学園での態度を見れば、その言葉がただの負け惜しみであると解釈している。
さらにポーレット公爵は学園に対して多額の寄付金を送ったとも聞いている。それはシオドアの成績が、公爵が思っていたよりも悪かったからで、成績に少しイロをつけてほしいからだとか、そんな噂も流れていた。
それでもこの学園の方針は「平等」。多額の寄付金でぐらつくような方針でもなく、寄付はありがたく受け取ったものの、結局シオドアの成績は彼の実力のままだったとか。もちろん寄付金を出した公爵は今さらそれを返せとも言えなかったようで、ただ単に寄付しただけ。
それが本来の寄付なのだから、何も問題はないのだけれど。それに噂は噂で、事実かどうかを突き止めようとする気もないし、単なる噂を他人と話題にするようなこともしなかった。
ただ、シオドアとクラスが離れたから、彼との関わりはないだろうと思っていたけれど、その考えは甘かった。
二年になったときには、私とアーヴィンはすでに生徒会役員だったけれど、Dクラスのシオドアがクラス委員になったのだ。となれば、委員会などでは顔を合わせる必要があるわけで。
彼は露骨な嫌がらせをしてはこないものの、私とすれ違うときだけ顔をしかめたり「魔女」と言ったりと、幼稚な言動を繰り返す。もちろんそれに対して私は言い返すわけでもなく、とことん無視を決め込んでいた。
わりと私の近くにいるアーヴィンは、シオドアのそんな行為に気がついていて抗議しようとしてくれたけれど、私がそれを止めた。何かしら反応を示すから、シオドアも調子に乗るのだ。いや、相手にするだけ時間の無駄という気持ちもあった。
そうやってシオドアを適当にあしらいつつ、新しいクラスにも馴染んだとき。
「イレーヌ。国立美術館で、テロス展が開かれるんだが……」
放課後の生徒会室で、各委員会からの支出報告書をまとめていたときに、アーヴィンが美術館の広告を差し出してきた。
「え? テロス展?」
テロスとは約百年前に活躍した画家で、色使いが鮮烈で、それによって感情や情念を表現したと言われている。初期の作品は、内戦の影響もあったせいか暗い印象の作風だったが、内戦が終わると他の画家の影響も受け、次第に明るい色調の作品へと変化していった。彼の作品は、今ではこの国を代表する絵画だとも言われていて貴重であるため、普段は美術館の保管庫で厳重に保管されているが、年に何回か国内の美術館で展示する。さらに、他国との文化交流のために、そちらの美術館への貸し出しなんかも行っている。
私が記憶しているかぎりでは、ここ三年くらいは近隣諸国の美術館で展示されていたはずだ。それがやっと戻ってくるのだろう。
「開催前の特別招待枠があるのだが……それに、一緒にどうだ?」
「特別枠?!」
テロス展となれば、国内中からファンがこぞって見にやって来る。父に頼めばチケットは手配してくれそうだが、会場内はそれなりに混雑するはずだ。ゆっくり絵画を楽しみたいというのは難しいにちがいない。
だからアーヴィンの誘いは、私にとっては魅力的なものだった。
「でも、それってなんだか不公平のような気がするわ……」
彼は王族だから特別なのだ。そのため、開催前にゆっくり絵画を楽しむ権利があるわけで、そこに私のような人間が紛れ込んでいいのかどうかがわからない。私以外にもテロスの絵画をゆっくり楽しみたいと思う人は多いはず。
「不公平? だが、これは学園の行事ではないからね。平等である必要はない。そもそも人間というのは不平等の上に成り立っていて、その不平等さをどう平等に近づけていくかが、俺の課題でもある」
世の中に完全な平等は存在しない。もし、すべてが平等であれば、同じような顔の同じような能力の人間しか存在しないだろう、というのがアーヴィンの持論である。
「それに特別枠というのは、美術館からの好意なんだ。となれば、それをありがたく受けるのも俺たちの役目だろう?」
「美術館だって、アーヴィンだから特別枠を用意したわけでしょう? つまり、王族の特権のようなもの。私には縁のない話だわ」
アーヴィンの誘いは素直に嬉しいし、非常に心惹かれる話でもある。それでも私は王族ではないという気持ちのほうが強かった。
なんとか成績上位クラスのAクラスになった私は、アーヴィンも同じクラスであった事実にほっと胸をなでおろす。彼が他のクラスになるわけがないと思っていても、やはり掲示板で互いの名前を見つけるまでは不安だった。
ちなみにシオドアは、成績下位クラスのDクラスに名前があった。彼は何かあるたびに「学園の成績だけで、その人物の能力がわかるはずがないだろう」と言っているらしい。シオドアの言うことも一理あるが、それでも彼の学園での態度を見れば、その言葉がただの負け惜しみであると解釈している。
さらにポーレット公爵は学園に対して多額の寄付金を送ったとも聞いている。それはシオドアの成績が、公爵が思っていたよりも悪かったからで、成績に少しイロをつけてほしいからだとか、そんな噂も流れていた。
それでもこの学園の方針は「平等」。多額の寄付金でぐらつくような方針でもなく、寄付はありがたく受け取ったものの、結局シオドアの成績は彼の実力のままだったとか。もちろん寄付金を出した公爵は今さらそれを返せとも言えなかったようで、ただ単に寄付しただけ。
それが本来の寄付なのだから、何も問題はないのだけれど。それに噂は噂で、事実かどうかを突き止めようとする気もないし、単なる噂を他人と話題にするようなこともしなかった。
ただ、シオドアとクラスが離れたから、彼との関わりはないだろうと思っていたけれど、その考えは甘かった。
二年になったときには、私とアーヴィンはすでに生徒会役員だったけれど、Dクラスのシオドアがクラス委員になったのだ。となれば、委員会などでは顔を合わせる必要があるわけで。
彼は露骨な嫌がらせをしてはこないものの、私とすれ違うときだけ顔をしかめたり「魔女」と言ったりと、幼稚な言動を繰り返す。もちろんそれに対して私は言い返すわけでもなく、とことん無視を決め込んでいた。
わりと私の近くにいるアーヴィンは、シオドアのそんな行為に気がついていて抗議しようとしてくれたけれど、私がそれを止めた。何かしら反応を示すから、シオドアも調子に乗るのだ。いや、相手にするだけ時間の無駄という気持ちもあった。
そうやってシオドアを適当にあしらいつつ、新しいクラスにも馴染んだとき。
「イレーヌ。国立美術館で、テロス展が開かれるんだが……」
放課後の生徒会室で、各委員会からの支出報告書をまとめていたときに、アーヴィンが美術館の広告を差し出してきた。
「え? テロス展?」
テロスとは約百年前に活躍した画家で、色使いが鮮烈で、それによって感情や情念を表現したと言われている。初期の作品は、内戦の影響もあったせいか暗い印象の作風だったが、内戦が終わると他の画家の影響も受け、次第に明るい色調の作品へと変化していった。彼の作品は、今ではこの国を代表する絵画だとも言われていて貴重であるため、普段は美術館の保管庫で厳重に保管されているが、年に何回か国内の美術館で展示する。さらに、他国との文化交流のために、そちらの美術館への貸し出しなんかも行っている。
私が記憶しているかぎりでは、ここ三年くらいは近隣諸国の美術館で展示されていたはずだ。それがやっと戻ってくるのだろう。
「開催前の特別招待枠があるのだが……それに、一緒にどうだ?」
「特別枠?!」
テロス展となれば、国内中からファンがこぞって見にやって来る。父に頼めばチケットは手配してくれそうだが、会場内はそれなりに混雑するはずだ。ゆっくり絵画を楽しみたいというのは難しいにちがいない。
だからアーヴィンの誘いは、私にとっては魅力的なものだった。
「でも、それってなんだか不公平のような気がするわ……」
彼は王族だから特別なのだ。そのため、開催前にゆっくり絵画を楽しむ権利があるわけで、そこに私のような人間が紛れ込んでいいのかどうかがわからない。私以外にもテロスの絵画をゆっくり楽しみたいと思う人は多いはず。
「不公平? だが、これは学園の行事ではないからね。平等である必要はない。そもそも人間というのは不平等の上に成り立っていて、その不平等さをどう平等に近づけていくかが、俺の課題でもある」
世の中に完全な平等は存在しない。もし、すべてが平等であれば、同じような顔の同じような能力の人間しか存在しないだろう、というのがアーヴィンの持論である。
「それに特別枠というのは、美術館からの好意なんだ。となれば、それをありがたく受けるのも俺たちの役目だろう?」
「美術館だって、アーヴィンだから特別枠を用意したわけでしょう? つまり、王族の特権のようなもの。私には縁のない話だわ」
アーヴィンの誘いは素直に嬉しいし、非常に心惹かれる話でもある。それでも私は王族ではないという気持ちのほうが強かった。
45
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
婚約者に妹を紹介したら、美人な妹の方と婚約したかったと言われたので、譲ってあげることにいたしました
奏音 美都
恋愛
「こちら、妹のマリアンヌですわ」
妹を紹介した途端、私のご婚約者であるジェイコブ様の顔つきが変わったのを感じました。
「マリアンヌですわ。どうぞよろしくお願いいたします、お義兄様」
「ど、どうも……」
ジェイコブ様が瞳を大きくし、マリアンヌに見惚れています。ジェイコブ様が私をチラッと見て、おっしゃいました。
「リリーにこんな美しい妹がいたなんて、知らなかったよ。婚約するなら妹君の方としたかったなぁ、なんて……」
「分かりましたわ」
こうして私のご婚約者は、妹のご婚約者となったのでした。
むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」
愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
誓いを忘れた騎士へ ―私は誰かの花嫁になる
吉乃
恋愛
「帰ってきたら、結婚してくれる?」
――あの日の誓いを胸に、私は待ち続けた。
最初の三年間は幸せだった。
けれど、騎士の務めに赴いた彼は、やがて音信不通となり――
気づけば七年の歳月が流れていた。
二十七歳になった私は、もう結婚をしなければならない。
未来を選ぶ年齢。
だから、別の男性との婚姻を受け入れると決めたのに……。
結婚式を目前にした夜。
失われたはずの声が、突然私の心を打ち砕く。
「……リリアナ。迎えに来た」
七年の沈黙を破って現れた騎士。
赦せるのか、それとも拒むのか。
揺れる心が最後に選ぶのは――
かつての誓いか、それとも新しい愛か。
お知らせ
※すみません、PCの不調で更新が出来なくなってしまいました。
直り次第すぐに更新を再開しますので、少しだけお待ちいただければ幸いです。
一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。
木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」
結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。
彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。
身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。
こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。
マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。
「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」
一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。
それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。
それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。
夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。
大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。
でも貴方は私を嫌っています。
だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。
貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。
貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる