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第二章(5)
学園を卒業した私だが、シオドアとの結婚式は約二年後というのもあって、ポーレット公爵家に定期的に足を運び、将来の公爵夫人としての教育を受けていた。この二年後というのも、学園を卒業したシオドアが遊びたいからだろうという話もちらほら聞こえてきたが、真偽は定かではない。
それから一年が経てば、結婚式の準備で大忙し。ドレスはもちろんのこと、パーティー会場の装飾や料理、そして招待客をどうするか、などなど。
まだ彼と結婚しているわけではないので、基本的に私はロイル侯爵邸で過ごしているけれど、結婚式の打ち合わせだ準備だとなれば、ポーレット公爵邸に向かった。以前からも定期的に顔を出しているため、シオドアと顔を合わせるより、ポーレット公爵夫人、すなわち未来のお義母様と会う時間のほうが長いくらいだった。
「まったく、シオドアは何をやっているのかしら?」
その日は、結婚披露パーティーでの二人の衣装を選ぶというのに、シオドアは姿を見せなかった。まだ寝ているのか、それともどこかに遊びにいってしまったのか、怖くて聞くにきけない。
「時間がもったいないから、イレーヌさんの分だけでも決めてしまいましょう」
幸いなことに、シオドアの母でもある公爵夫人は常識的な人で、息子の素行の悪さには頭を悩ませているらしい。
そんな愚痴を聞きつつ、私はドレスを選び始める。色やデザイン、そして布地の種類や装飾など。
仕立屋からは次から次に「こちらはどうでしょう?」とカタログやサンプルを見せられ、目移りしてしまうほど。迷っていれば、公爵夫人が助言を与えてくれる。
どうしてこの母親からシオドアのような人間が生まれたのかと不思議に思うくらいだが、逆に考えればシオドアももう少し大人になれば、私に寄り添ってくれるようになるのだろうか。
ある程度衣装が決まったところで、公爵夫人が「休憩にしましょう」と声をかけてくれた。
と、そのとき、やっとシオドアが姿を現したのだ。
「何をやっているのよ、シオドア」
夫人がそう言いたくなるのもよくわかる。シオドアはいかにも今、起きましたといわんばかりの格好、いや、身なりは整っているものの目の下に深い隈ができていた。
「母さん、大きな声を出さないでください。昨夜、遅かったんですから」
シオドアが使用人に目配せして、お茶の用意をするよう命じている。
「今まで彼女の衣装を決めていたのでしょう? だったら僕は不要では? そろそろ終わった頃だと思ったから来たんですよ」
私たちの向かい側に足を投げ出すようにして座ったシオドアは、大げさに肩をすくめた。
「そうね、イレーヌさんの衣装はほぼ決まったわ。あとはあなただけよ」
「だったら、ちょうどいいですね。彼女の衣装に合わせて決めればいいのでしょう?」
そう言ったシオドアはジロリと私を一瞥し、ふっと息を吐く。
「彼女に似合うような衣装があったんですか?」
「えぇ。仕上がりがとっても楽しみだわ」
はしゃぐ夫人に、シオドアは鼻で笑う。
シオドアは、魔女のような私に似合う衣装が存在するのかと言いたいのだ。
今の言葉は、先ほどよぎった前向きな考えを打ち消すくらいの威力があった。
そこまで嫌っているなら、縁談を断ればいいものをと何度も思ってしまう。
「シオドア、顔色がすぐれないけれど……衣装決めは他の日にしましょうか?」
私が声をかければ、シオドアは「問題ない」と手を振って答える。
「こういうのはさっさと終わらせてしまったほうがいいだろう? ね? 母さん」
「そうよ、イレーヌさん。この子に気を遣う必要はないわ。顔色が悪いのだって、夜更かしのせいなんだから」
夜更かししてまでいったい何をやっているのか。
父伝手に聞いた話では、シオドアはポーレット公爵と共に紳士サロンに顔を出しているとか。とっくに学園も卒業しているし成人も迎えたのだから、そういった場に行くことも、なんら問題はない。
わかっているはずなのに、心の中にはわだかまりのような、何かもやもやした気持ちが生まれている。違和感、と呼ぶものかもしれない。
「じゃ、早速カタログを見せてくださいよ」
カップを傾けて残りを一気に飲み干したシオドアは、一応、衣装を決める気はあるらしい。
それから一年が経てば、結婚式の準備で大忙し。ドレスはもちろんのこと、パーティー会場の装飾や料理、そして招待客をどうするか、などなど。
まだ彼と結婚しているわけではないので、基本的に私はロイル侯爵邸で過ごしているけれど、結婚式の打ち合わせだ準備だとなれば、ポーレット公爵邸に向かった。以前からも定期的に顔を出しているため、シオドアと顔を合わせるより、ポーレット公爵夫人、すなわち未来のお義母様と会う時間のほうが長いくらいだった。
「まったく、シオドアは何をやっているのかしら?」
その日は、結婚披露パーティーでの二人の衣装を選ぶというのに、シオドアは姿を見せなかった。まだ寝ているのか、それともどこかに遊びにいってしまったのか、怖くて聞くにきけない。
「時間がもったいないから、イレーヌさんの分だけでも決めてしまいましょう」
幸いなことに、シオドアの母でもある公爵夫人は常識的な人で、息子の素行の悪さには頭を悩ませているらしい。
そんな愚痴を聞きつつ、私はドレスを選び始める。色やデザイン、そして布地の種類や装飾など。
仕立屋からは次から次に「こちらはどうでしょう?」とカタログやサンプルを見せられ、目移りしてしまうほど。迷っていれば、公爵夫人が助言を与えてくれる。
どうしてこの母親からシオドアのような人間が生まれたのかと不思議に思うくらいだが、逆に考えればシオドアももう少し大人になれば、私に寄り添ってくれるようになるのだろうか。
ある程度衣装が決まったところで、公爵夫人が「休憩にしましょう」と声をかけてくれた。
と、そのとき、やっとシオドアが姿を現したのだ。
「何をやっているのよ、シオドア」
夫人がそう言いたくなるのもよくわかる。シオドアはいかにも今、起きましたといわんばかりの格好、いや、身なりは整っているものの目の下に深い隈ができていた。
「母さん、大きな声を出さないでください。昨夜、遅かったんですから」
シオドアが使用人に目配せして、お茶の用意をするよう命じている。
「今まで彼女の衣装を決めていたのでしょう? だったら僕は不要では? そろそろ終わった頃だと思ったから来たんですよ」
私たちの向かい側に足を投げ出すようにして座ったシオドアは、大げさに肩をすくめた。
「そうね、イレーヌさんの衣装はほぼ決まったわ。あとはあなただけよ」
「だったら、ちょうどいいですね。彼女の衣装に合わせて決めればいいのでしょう?」
そう言ったシオドアはジロリと私を一瞥し、ふっと息を吐く。
「彼女に似合うような衣装があったんですか?」
「えぇ。仕上がりがとっても楽しみだわ」
はしゃぐ夫人に、シオドアは鼻で笑う。
シオドアは、魔女のような私に似合う衣装が存在するのかと言いたいのだ。
今の言葉は、先ほどよぎった前向きな考えを打ち消すくらいの威力があった。
そこまで嫌っているなら、縁談を断ればいいものをと何度も思ってしまう。
「シオドア、顔色がすぐれないけれど……衣装決めは他の日にしましょうか?」
私が声をかければ、シオドアは「問題ない」と手を振って答える。
「こういうのはさっさと終わらせてしまったほうがいいだろう? ね? 母さん」
「そうよ、イレーヌさん。この子に気を遣う必要はないわ。顔色が悪いのだって、夜更かしのせいなんだから」
夜更かししてまでいったい何をやっているのか。
父伝手に聞いた話では、シオドアはポーレット公爵と共に紳士サロンに顔を出しているとか。とっくに学園も卒業しているし成人も迎えたのだから、そういった場に行くことも、なんら問題はない。
わかっているはずなのに、心の中にはわだかまりのような、何かもやもやした気持ちが生まれている。違和感、と呼ぶものかもしれない。
「じゃ、早速カタログを見せてくださいよ」
カップを傾けて残りを一気に飲み干したシオドアは、一応、衣装を決める気はあるらしい。
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