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第一章:お仕事募集中です(3)
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そして職業紹介所に足を運ぶようになって十四日目。マーベル子爵に見つかってしまった。これが噂による効果なのだろうか。
紹介所の建物に入ろうとしたところで、呼び止められる。
「イリヤ。こんなところにいたのか? サブル侯爵家の家庭教師も辞めたと聞いていたから、心配していたんだ。父さんと一緒に家に帰ろう」
「お義父様。お義父様も新婚でいらっしゃるでしょう? 私のような娘がいたら、お母様との仲を深める時間がないのではと思って、屋敷を出ましたのに。私、お義父様にはお母様と仲良くしていただいて、いつまでも私のお義父様でいらしてほしいのです」
よい娘を演じたつもりだ。だけどこれは、イリヤなりのけん制のつもりでもあった。
私はあなたの娘です。そう、伝えたのだ。
「だったら、そんなことを言わず、家族で仲良く暮らそう。妹たちもまだ幼い。イリヤがいなくて寂しがっている」
妹を出してくるとは卑怯である。だけどイリヤも負けない。
「えぇ。妹たちも幼く、まだ手とお金がかかる時期です。ですからお義父様の手を煩わせずに、妹たちにかかるお金は私が工面したいと思っているのです」
周囲に他の人もいるからか、マーベル子爵も強くは言えないようだった。彼はここで、物わかりのよい父親を演じる必要がある。そして娘を心配する父親でもある。
「そうか……。イリヤがそこまで言うのなら。だけど、つらくなったらすぐに私を頼っておくれ。イリヤは私の娘なのだから……」
「ありがとうございます、お義父様」
とりあえずマーベル子爵はここで引き下がった。むしろ、持久戦に持ち込もうとしているのだろう。
イリヤが仕事を探している。つまり、資金が尽きようとしている。その尽きたところを狙えばいいとでも思っているにちがいない。
だから、何がなんでも仕事を見つける必要がある。
さらに八日経った二十二日目。次はサブル侯爵がやってきた。
こちらもイリヤが職業紹介所の建物に入ろうとしたところに声をかけてきた。イリヤがここに入り浸っていると、知れ渡っているのだろうか。
「ああ、イリヤ。あのときはすまなかった。君を辞めさせてしまって。また、娘たちの家庭教師を引き受けてはくれないだろうか」
「サブル侯爵。お声がけいただきありがとうございます。ですがもう、私に家庭教師は務まりません」
「どうしてだい? お給金も今までの倍、出そう。娘にもわがままを言わないようにと、きつく言い聞かせる」
そうではありませんと、イリヤは首を横に振る。一つに結わえたマホガニーの髪も、ふわりふわりと動く。
「もう、私から教えることは何もないのです。お二人が優秀すぎて、私では力不足であると実感いたしました。もし、優秀な家庭教師をお捜しでしたら、私のほうでも何人か心当たりがあるのですが、紹介しましょうか?」
サブル侯爵は、なぜかそそくさと逃げていった。
とにかく、マーベル子爵もサブル侯爵も、イリヤが仕事を探している事実を知っているわけだ。例の噂の件もあるし、また妨害されるかもしれない。
そう思いながらも、毎日、職業紹介所に通った。
そして二十八日目となる今日。
イリヤはいつも眺めている紹介所の掲示板で、素敵な求人を見つけたのである。
仕事内容、条件。どれをとっても素晴らしい。むしろ条件がよすぎるから、すでに人が決まっているかもしれない。
求人募集開始日を確認すれば、今日である。となれば、張り出されたのは今朝だろう。
イリヤはその張り紙を持って、いつもの女性の窓口へと向かった。
「カミラさん!」
毎日通えば、窓口の女性の名前だって覚えてしまう。
「この求人、決まりました?」
「え? どれ?」
「これですよ、これ」
バンとテーブルの上に掲示板から剥がしてきた求人表を広げた。
「え?」
カミラは驚いた様子で求人票を眺めている。
紹介所の建物に入ろうとしたところで、呼び止められる。
「イリヤ。こんなところにいたのか? サブル侯爵家の家庭教師も辞めたと聞いていたから、心配していたんだ。父さんと一緒に家に帰ろう」
「お義父様。お義父様も新婚でいらっしゃるでしょう? 私のような娘がいたら、お母様との仲を深める時間がないのではと思って、屋敷を出ましたのに。私、お義父様にはお母様と仲良くしていただいて、いつまでも私のお義父様でいらしてほしいのです」
よい娘を演じたつもりだ。だけどこれは、イリヤなりのけん制のつもりでもあった。
私はあなたの娘です。そう、伝えたのだ。
「だったら、そんなことを言わず、家族で仲良く暮らそう。妹たちもまだ幼い。イリヤがいなくて寂しがっている」
妹を出してくるとは卑怯である。だけどイリヤも負けない。
「えぇ。妹たちも幼く、まだ手とお金がかかる時期です。ですからお義父様の手を煩わせずに、妹たちにかかるお金は私が工面したいと思っているのです」
周囲に他の人もいるからか、マーベル子爵も強くは言えないようだった。彼はここで、物わかりのよい父親を演じる必要がある。そして娘を心配する父親でもある。
「そうか……。イリヤがそこまで言うのなら。だけど、つらくなったらすぐに私を頼っておくれ。イリヤは私の娘なのだから……」
「ありがとうございます、お義父様」
とりあえずマーベル子爵はここで引き下がった。むしろ、持久戦に持ち込もうとしているのだろう。
イリヤが仕事を探している。つまり、資金が尽きようとしている。その尽きたところを狙えばいいとでも思っているにちがいない。
だから、何がなんでも仕事を見つける必要がある。
さらに八日経った二十二日目。次はサブル侯爵がやってきた。
こちらもイリヤが職業紹介所の建物に入ろうとしたところに声をかけてきた。イリヤがここに入り浸っていると、知れ渡っているのだろうか。
「ああ、イリヤ。あのときはすまなかった。君を辞めさせてしまって。また、娘たちの家庭教師を引き受けてはくれないだろうか」
「サブル侯爵。お声がけいただきありがとうございます。ですがもう、私に家庭教師は務まりません」
「どうしてだい? お給金も今までの倍、出そう。娘にもわがままを言わないようにと、きつく言い聞かせる」
そうではありませんと、イリヤは首を横に振る。一つに結わえたマホガニーの髪も、ふわりふわりと動く。
「もう、私から教えることは何もないのです。お二人が優秀すぎて、私では力不足であると実感いたしました。もし、優秀な家庭教師をお捜しでしたら、私のほうでも何人か心当たりがあるのですが、紹介しましょうか?」
サブル侯爵は、なぜかそそくさと逃げていった。
とにかく、マーベル子爵もサブル侯爵も、イリヤが仕事を探している事実を知っているわけだ。例の噂の件もあるし、また妨害されるかもしれない。
そう思いながらも、毎日、職業紹介所に通った。
そして二十八日目となる今日。
イリヤはいつも眺めている紹介所の掲示板で、素敵な求人を見つけたのである。
仕事内容、条件。どれをとっても素晴らしい。むしろ条件がよすぎるから、すでに人が決まっているかもしれない。
求人募集開始日を確認すれば、今日である。となれば、張り出されたのは今朝だろう。
イリヤはその張り紙を持って、いつもの女性の窓口へと向かった。
「カミラさん!」
毎日通えば、窓口の女性の名前だって覚えてしまう。
「この求人、決まりました?」
「え? どれ?」
「これですよ、これ」
バンとテーブルの上に掲示板から剥がしてきた求人表を広げた。
「え?」
カミラは驚いた様子で求人票を眺めている。
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