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第一章:お仕事募集中です(7)
その機会がやってくるかどうかもわからないが。
「……この場所で面接を始める。だが、お前は間違いなく採用だ」
面接する前から採用された。
「それって、面接の意味がありますか?」
「ある。お前という人柄を見る必要がある。条件は満たしているから、これで不採用となれば、お前が最低の人間であったということだ。例えば、噂通り悪女、とかな」
「本当の悪女であれば、面接で悪女とばれるような態度は取らないかと思います。本当の悪女は人の知らないところで、それとなくばれないように行動するのです。ですから、噂になっている時点で悪女は悪女ではないのですよ」
「なるほど。お前が面白い女ということだけはわかった。さすがマーベル子爵の娘だ」
この場合、どちらのマーベル子爵を言っているのかがわからない。だけど、それを追求するのはやめておこうと思った。
鉄紺の重々しい扉には、金で葡萄の蔦のような模様が描かれている。クライブは、葡萄の形をあしらった叩き鐘をゆっくりとたたき付けた。
――ぎゃ、ん、ぎゃぁあああ……。
中から微かに何かの叫び声が聞こえてきた。そして、返事はない。
それでもクライブは勝手に扉を押し開き、中へと入った。
ガシャン――
バキッ――
きらびやかな部屋には似合わない音がする。その結果なのかどうかはわからないが、長椅子は倒れ、テーブルもひっくり返っている。
「……ん、ぎゃぁ。おぎゃぁ、おぎゃぁ」
「あぁ、よちよち。泣くんじゃないよ。どうちたのかな? お腹が空いたのかな? それともおしめ?」
大泣きしている赤ん坊をあやしているのは絹糸のような銀髪の男である。
「イリヤ・マーベル。お前は魔法が使えるな?」
クライブの言葉に、心臓がドクンと大きく音を立てた。
今まで家族以外、誰にも言ったことがないはずなのに。
「いったい、何をおっしゃっているのでしょう? はは、ははははは……」
渇いた笑いと共に誤魔化してみる。だが、イリヤの隣にいるのは、この国の宰相を務める男。年齢は二十四歳と若いが、前任が辞するときに、クライブを宰相にと任命したのだ。そのとき彼はまだ二十二歳。その若さで指名されるだけの頭脳と実績を持っている。となれば、イリヤの嘘などまるっとお見通しなのだろう。
じろりと睨まれた。
赤ん坊は泣き止む様子がない。そして赤ん坊が泣くたびに、室内にある調度品が浮いて、落ちて、浮いて、落ちてを繰り返している。
「とりあえず、この部屋をこれ以上破壊されないような魔法は使えるか?」
「ですから、魔法ってなんのことでしょう?」
「誤魔化せると思うなよ。オレたちは、お前が魔法を使えることを知っている」
「なんで?」
あ、という表情を見せたイリヤは慌てて自身の口を押さえた。今、言ってはいけないような言葉を言ったような気がする。
「とにかく、これ以上の被害を出したくない。なんとかできないか? 魔法を使ってこの場をなんとかしてくれたら、お前は採用だ。面接代わりみたいなものだと思えばいい」
イリヤとしてはなんとしてでもあの仕事に就きたい。そして面接代わりに魔法を使えと言われたら、使うしかないだろう。
「わかりました……。とりあえず、現状を教えてください。この部屋の状況を作り出しているのは、あそこのお二人と思ってよろしいでしょうか?」
イリヤの言う二人とは、銀髪の男と彼が抱きかかえている赤ん坊である。
「厳密に言うならば、あの赤ん坊のみ。陛下は赤ん坊を必死に宥めている」
今、クライブは「陛下」と言った。その言葉が意味するところを、イリヤはもちろんわかっているつもりだが、とりあえず今はこの現状をなんとかするのが先だろう。
「わかりました。では、とりあえず赤ちゃんを眠らせるってことでよろしいでしょうか?」
「できるのか?」
「……この場所で面接を始める。だが、お前は間違いなく採用だ」
面接する前から採用された。
「それって、面接の意味がありますか?」
「ある。お前という人柄を見る必要がある。条件は満たしているから、これで不採用となれば、お前が最低の人間であったということだ。例えば、噂通り悪女、とかな」
「本当の悪女であれば、面接で悪女とばれるような態度は取らないかと思います。本当の悪女は人の知らないところで、それとなくばれないように行動するのです。ですから、噂になっている時点で悪女は悪女ではないのですよ」
「なるほど。お前が面白い女ということだけはわかった。さすがマーベル子爵の娘だ」
この場合、どちらのマーベル子爵を言っているのかがわからない。だけど、それを追求するのはやめておこうと思った。
鉄紺の重々しい扉には、金で葡萄の蔦のような模様が描かれている。クライブは、葡萄の形をあしらった叩き鐘をゆっくりとたたき付けた。
――ぎゃ、ん、ぎゃぁあああ……。
中から微かに何かの叫び声が聞こえてきた。そして、返事はない。
それでもクライブは勝手に扉を押し開き、中へと入った。
ガシャン――
バキッ――
きらびやかな部屋には似合わない音がする。その結果なのかどうかはわからないが、長椅子は倒れ、テーブルもひっくり返っている。
「……ん、ぎゃぁ。おぎゃぁ、おぎゃぁ」
「あぁ、よちよち。泣くんじゃないよ。どうちたのかな? お腹が空いたのかな? それともおしめ?」
大泣きしている赤ん坊をあやしているのは絹糸のような銀髪の男である。
「イリヤ・マーベル。お前は魔法が使えるな?」
クライブの言葉に、心臓がドクンと大きく音を立てた。
今まで家族以外、誰にも言ったことがないはずなのに。
「いったい、何をおっしゃっているのでしょう? はは、ははははは……」
渇いた笑いと共に誤魔化してみる。だが、イリヤの隣にいるのは、この国の宰相を務める男。年齢は二十四歳と若いが、前任が辞するときに、クライブを宰相にと任命したのだ。そのとき彼はまだ二十二歳。その若さで指名されるだけの頭脳と実績を持っている。となれば、イリヤの嘘などまるっとお見通しなのだろう。
じろりと睨まれた。
赤ん坊は泣き止む様子がない。そして赤ん坊が泣くたびに、室内にある調度品が浮いて、落ちて、浮いて、落ちてを繰り返している。
「とりあえず、この部屋をこれ以上破壊されないような魔法は使えるか?」
「ですから、魔法ってなんのことでしょう?」
「誤魔化せると思うなよ。オレたちは、お前が魔法を使えることを知っている」
「なんで?」
あ、という表情を見せたイリヤは慌てて自身の口を押さえた。今、言ってはいけないような言葉を言ったような気がする。
「とにかく、これ以上の被害を出したくない。なんとかできないか? 魔法を使ってこの場をなんとかしてくれたら、お前は採用だ。面接代わりみたいなものだと思えばいい」
イリヤとしてはなんとしてでもあの仕事に就きたい。そして面接代わりに魔法を使えと言われたら、使うしかないだろう。
「わかりました……。とりあえず、現状を教えてください。この部屋の状況を作り出しているのは、あそこのお二人と思ってよろしいでしょうか?」
イリヤの言う二人とは、銀髪の男と彼が抱きかかえている赤ん坊である。
「厳密に言うならば、あの赤ん坊のみ。陛下は赤ん坊を必死に宥めている」
今、クライブは「陛下」と言った。その言葉が意味するところを、イリヤはもちろんわかっているつもりだが、とりあえず今はこの現状をなんとかするのが先だろう。
「わかりました。では、とりあえず赤ちゃんを眠らせるってことでよろしいでしょうか?」
「できるのか?」
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