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第一章:お仕事募集中です(8)
「眠りの魔法であれば……実は、妹たちにも何度か使ったことがありますので」
足を肩幅程度に広げ、胸の前で両手を組む。魔力を多く消費する魔法を使う場合、こうやって無防備な姿になってしまうから、人前で使うのを避けていた。いや、使えることを他の者に知られたら悪用されるのを、母親は心配していたのだ。
目を閉じたイリヤは、頭の中で球体を思い浮かべる。それで泣き叫んでいる赤ん坊を包み込むイメージだ。
ぱっと目を見開く。
――今だ!
黄金に輝く球体は、赤ん坊だけを包み込んだ。すると、赤ん坊の泣き声は次第に弱くなり、しまいにはすぴすぴと鼻を鳴らして眠った。
「……見事だな」
「てことは、合格ですか?」
「ああ。採用だ。ということで、かまわないですよね、陛下」
やはり銀髪男に向かって、クライブは陛下と呼んだ。
「ああ、助かった。もしかして、例の求人を見てここに来てくれた人だろうか?」
銀髪男の笑顔がまぶしい。だけど、目の下にははっきりとした隈ができている。
「こちら、イリヤ・マーベル嬢。見ての通り、魔法が使える娘です」
「イリヤ・マーベル……マーベル子爵家の?」
「あ、はい。イリヤ・マーベルと申します。よろしくお願いします」
イリヤも慌てて腰を折った。クライブがあれだけ陛下陛下と言えば、目の前の銀髪男が、マラカイト王国の国王であると気づく。それに、デビュタントのときも挨拶を交わしたのだ。
「マーベル子爵家にはいろいろと悪い噂が流れているようだが……」
使用人がやってきて、国王の腕の中の赤ん坊を預かっていく。
「……ふぅ。とりあえず、休ませてくれ。クライブ、これをなんとかしてくれ」
これとはひっくり返った調度品を指す。
「でしたら」
どうせ隠し通すことのできない力だ。ここまできたなら、有効に活用したほうがいいだろう。
イリヤが指をパチンとはじいた。すると、ひっくり返っていた調度品たちは元のあった場所に戻ろうと勝手に動く。
部屋はどうにかして元に戻った。それを目にした国王は、長椅子にどさりと身体を預けた。
「お茶でも飲まれますか?」
クライブが尋ねると「頼む」とだけ返ってくる。
イリヤはどうしたらいいかがわからず、その場に突っ立っていることしかできない。そんな彼女にクライブが声をかける。
「詳しい話をしたい。陛下の前に座れ」
「は、はひっ」
状況もよく飲み込めない。そのためか、声が変に裏返ってしまった。
使用人がやってきて、テーブルの上にはお茶やらお菓子やらがあっという間に並べられていく。
「みっともないところを見せた。改めて挨拶をしよう。私は、エーヴァルト・マラカイト」
イリヤもその名は知っている。やはり、目の前の彼は国王だった。年は、クライブと同じ二十四歳であると記憶している。この二人は、幼い頃から兄弟のように心を通わせているというのも有名な話である。
「それで、求人票を見て、こちらに来たのだよな?」
「あ、はい」
イリヤはエプロンワンピースの前ポケットから、求人票と紹介状を取り出した。先ほどから乱暴に扱われているため、ぐちゃぐちゃである。
「こちらで家庭教師を募集しているという求人を見つけまして……」
「うん。間違いなく募集はしている」
「うわぁ。よかった……あの門番さんも、この求人票が嘘とか言いまして。ちょっと不安だったのです。ですが、宰相閣下に助けていただき……ありがとうございました」
いつの間にかエーヴァルトの隣に座っているクライブに向かって、イリヤは頭を下げた。考えてみたら、あの場で彼に助けてもらってから、礼を口にしていなかった。
「なんだって、かわいらしいお嬢さんじゃないか。ね? クライブ。噂とは異なるな」
エーヴァルトはクライブに顔を向けて、ニヤニヤと笑っている。
足を肩幅程度に広げ、胸の前で両手を組む。魔力を多く消費する魔法を使う場合、こうやって無防備な姿になってしまうから、人前で使うのを避けていた。いや、使えることを他の者に知られたら悪用されるのを、母親は心配していたのだ。
目を閉じたイリヤは、頭の中で球体を思い浮かべる。それで泣き叫んでいる赤ん坊を包み込むイメージだ。
ぱっと目を見開く。
――今だ!
黄金に輝く球体は、赤ん坊だけを包み込んだ。すると、赤ん坊の泣き声は次第に弱くなり、しまいにはすぴすぴと鼻を鳴らして眠った。
「……見事だな」
「てことは、合格ですか?」
「ああ。採用だ。ということで、かまわないですよね、陛下」
やはり銀髪男に向かって、クライブは陛下と呼んだ。
「ああ、助かった。もしかして、例の求人を見てここに来てくれた人だろうか?」
銀髪男の笑顔がまぶしい。だけど、目の下にははっきりとした隈ができている。
「こちら、イリヤ・マーベル嬢。見ての通り、魔法が使える娘です」
「イリヤ・マーベル……マーベル子爵家の?」
「あ、はい。イリヤ・マーベルと申します。よろしくお願いします」
イリヤも慌てて腰を折った。クライブがあれだけ陛下陛下と言えば、目の前の銀髪男が、マラカイト王国の国王であると気づく。それに、デビュタントのときも挨拶を交わしたのだ。
「マーベル子爵家にはいろいろと悪い噂が流れているようだが……」
使用人がやってきて、国王の腕の中の赤ん坊を預かっていく。
「……ふぅ。とりあえず、休ませてくれ。クライブ、これをなんとかしてくれ」
これとはひっくり返った調度品を指す。
「でしたら」
どうせ隠し通すことのできない力だ。ここまできたなら、有効に活用したほうがいいだろう。
イリヤが指をパチンとはじいた。すると、ひっくり返っていた調度品たちは元のあった場所に戻ろうと勝手に動く。
部屋はどうにかして元に戻った。それを目にした国王は、長椅子にどさりと身体を預けた。
「お茶でも飲まれますか?」
クライブが尋ねると「頼む」とだけ返ってくる。
イリヤはどうしたらいいかがわからず、その場に突っ立っていることしかできない。そんな彼女にクライブが声をかける。
「詳しい話をしたい。陛下の前に座れ」
「は、はひっ」
状況もよく飲み込めない。そのためか、声が変に裏返ってしまった。
使用人がやってきて、テーブルの上にはお茶やらお菓子やらがあっという間に並べられていく。
「みっともないところを見せた。改めて挨拶をしよう。私は、エーヴァルト・マラカイト」
イリヤもその名は知っている。やはり、目の前の彼は国王だった。年は、クライブと同じ二十四歳であると記憶している。この二人は、幼い頃から兄弟のように心を通わせているというのも有名な話である。
「それで、求人票を見て、こちらに来たのだよな?」
「あ、はい」
イリヤはエプロンワンピースの前ポケットから、求人票と紹介状を取り出した。先ほどから乱暴に扱われているため、ぐちゃぐちゃである。
「こちらで家庭教師を募集しているという求人を見つけまして……」
「うん。間違いなく募集はしている」
「うわぁ。よかった……あの門番さんも、この求人票が嘘とか言いまして。ちょっと不安だったのです。ですが、宰相閣下に助けていただき……ありがとうございました」
いつの間にかエーヴァルトの隣に座っているクライブに向かって、イリヤは頭を下げた。考えてみたら、あの場で彼に助けてもらってから、礼を口にしていなかった。
「なんだって、かわいらしいお嬢さんじゃないか。ね? クライブ。噂とは異なるな」
エーヴァルトはクライブに顔を向けて、ニヤニヤと笑っている。
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