14 / 88
第一章:お仕事募集中です(13)
クライブは困惑の色を瞳に浮かべている。突然、知り合ったばかりの相手と結婚しろと言われたのなら、クライブの態度が自然だろう。
イリヤは生きるためだと思って割り切っている分もある。むしろ、クライブと結婚したほうが彼らの魔の手から逃げられるかも知れないと考えたのも事実。
「あ、そうそう。マリアンヌが聖女であるというのは、召喚の儀に立ち会った者だけの秘密だ。彼女は、孤児院で見つけた魔力の強い子どもとして保護をし、それでクライブが養女とした。そういうことになっている」
「なるほど。マリアンヌ様が聖女様であると、周囲に知られないようにしろってことですね」
その通りだと、エーヴァルトは頷く。
マリアンヌについては話が作られているが、それがこの国と彼女を守るためなのだろうと理解した。そしてその話を信じ込ませるだけの権力も見せつけられた気分である。
「よし、そうと決まれば。いろいろと準備が必要だろう」
そう言ったエーヴァルトによって、まずは王妃のトリシャとアルベルト王子が呼び出された。
「よかったわねぇ? クライブ。あなたにも素敵な伴侶が見つかって」
トリシャのその言い方に少しだけ棘を感じたが、エーヴァルトは「昔からこの二人は仲が悪いのだ」と耳打ちしてくれた。
そういえばエーヴァルトとトリシャも、政略結婚ではあるものの、幼い頃から顔を合わせていた仲というのは聞いたことがある。
アルベルト王子は活発な子で、マリアンヌが寝ていようがいまいが、近づいて何かしらちょっかいを出そうとしている。しかし、やっとマリアンヌが眠って落ち着いたこの時間を、エーヴァルトは壊したくなかったようだ。
「そっとしておきなさい」
何度もアルベルトに言葉をかけていた。
「では、マリアンヌの新居はクライブの屋敷でかまわないな?」
イリヤとしては、反対はない。むしろ住む場所がないのだから、準備していただきたい。
「ええ。オレはかまいません。どうせ、部屋はあまっていますしね」
「乳母やメイドはどうする?」
「それは、おいおいと。オレの妻になる人物は子守りに自信があるようですからね?」
「え?」
「なんだ? オレがいなくても、一人で聖女様を育て上げようとしたのではないか?」
「そうですけど……」
「別に雇わないとは言っていない。お前も聖女様も、これから慣れない場所で暮らすんだ。そこに見知らぬ人間がたくさんいたら、聖女様が……また、あ~、ほら。まぁ、そういうことだ」
クライブはマリアンヌが不安定になるような要素を、極力減らしたいのだろう。
「クライブ。マリアンヌはすでにお前の娘なのだから、いつまでも聖女様と呼ぶのはいかがなものか。これからマリアンヌと呼びなさい。なぁ? イリヤ嬢」
「あ、はい」
エーヴァルトのその言葉は、きっとイリヤにも向けられているのだろう。聖女マリアンヌはイリヤの娘。
「では、この書類を頼む」
婚姻の書類にクライブとイリヤがサインをした。証人者は国王である。
「よし、これでクライブとイリヤ嬢の結婚は成立した。そしておめでとう。聖女マリアンヌは君たちの娘だ」
いつの間にか目を覚ましていたのか、マリアンヌは「きゃ、きゃ」と声をあげている。アルベルトが近くにいるからか、機嫌はよいようだ。
「あの……マリアンヌ……を抱いても?」
書類上はイリヤの娘となった。
「もちろん、問題はない。だが、まぁ、イリヤ嬢なら心配はないだろう」
寝台の上で手足をバタバタ動かしていたマリアンヌを、イリヤは抱き上げた。ずっしりとした命の重みを感じる。
「こんにちは、マリアンヌ。今日から私がママよ」
「……あぶっ」
「マリアンヌが喜んでいる……奇跡だ……」
エーヴァルトが感極まり、今にも泣きそうである。いったい、マリアンヌは今までどれだけのことをしてきたのか。
イリヤは生きるためだと思って割り切っている分もある。むしろ、クライブと結婚したほうが彼らの魔の手から逃げられるかも知れないと考えたのも事実。
「あ、そうそう。マリアンヌが聖女であるというのは、召喚の儀に立ち会った者だけの秘密だ。彼女は、孤児院で見つけた魔力の強い子どもとして保護をし、それでクライブが養女とした。そういうことになっている」
「なるほど。マリアンヌ様が聖女様であると、周囲に知られないようにしろってことですね」
その通りだと、エーヴァルトは頷く。
マリアンヌについては話が作られているが、それがこの国と彼女を守るためなのだろうと理解した。そしてその話を信じ込ませるだけの権力も見せつけられた気分である。
「よし、そうと決まれば。いろいろと準備が必要だろう」
そう言ったエーヴァルトによって、まずは王妃のトリシャとアルベルト王子が呼び出された。
「よかったわねぇ? クライブ。あなたにも素敵な伴侶が見つかって」
トリシャのその言い方に少しだけ棘を感じたが、エーヴァルトは「昔からこの二人は仲が悪いのだ」と耳打ちしてくれた。
そういえばエーヴァルトとトリシャも、政略結婚ではあるものの、幼い頃から顔を合わせていた仲というのは聞いたことがある。
アルベルト王子は活発な子で、マリアンヌが寝ていようがいまいが、近づいて何かしらちょっかいを出そうとしている。しかし、やっとマリアンヌが眠って落ち着いたこの時間を、エーヴァルトは壊したくなかったようだ。
「そっとしておきなさい」
何度もアルベルトに言葉をかけていた。
「では、マリアンヌの新居はクライブの屋敷でかまわないな?」
イリヤとしては、反対はない。むしろ住む場所がないのだから、準備していただきたい。
「ええ。オレはかまいません。どうせ、部屋はあまっていますしね」
「乳母やメイドはどうする?」
「それは、おいおいと。オレの妻になる人物は子守りに自信があるようですからね?」
「え?」
「なんだ? オレがいなくても、一人で聖女様を育て上げようとしたのではないか?」
「そうですけど……」
「別に雇わないとは言っていない。お前も聖女様も、これから慣れない場所で暮らすんだ。そこに見知らぬ人間がたくさんいたら、聖女様が……また、あ~、ほら。まぁ、そういうことだ」
クライブはマリアンヌが不安定になるような要素を、極力減らしたいのだろう。
「クライブ。マリアンヌはすでにお前の娘なのだから、いつまでも聖女様と呼ぶのはいかがなものか。これからマリアンヌと呼びなさい。なぁ? イリヤ嬢」
「あ、はい」
エーヴァルトのその言葉は、きっとイリヤにも向けられているのだろう。聖女マリアンヌはイリヤの娘。
「では、この書類を頼む」
婚姻の書類にクライブとイリヤがサインをした。証人者は国王である。
「よし、これでクライブとイリヤ嬢の結婚は成立した。そしておめでとう。聖女マリアンヌは君たちの娘だ」
いつの間にか目を覚ましていたのか、マリアンヌは「きゃ、きゃ」と声をあげている。アルベルトが近くにいるからか、機嫌はよいようだ。
「あの……マリアンヌ……を抱いても?」
書類上はイリヤの娘となった。
「もちろん、問題はない。だが、まぁ、イリヤ嬢なら心配はないだろう」
寝台の上で手足をバタバタ動かしていたマリアンヌを、イリヤは抱き上げた。ずっしりとした命の重みを感じる。
「こんにちは、マリアンヌ。今日から私がママよ」
「……あぶっ」
「マリアンヌが喜んでいる……奇跡だ……」
エーヴァルトが感極まり、今にも泣きそうである。いったい、マリアンヌは今までどれだけのことをしてきたのか。
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
転生小説家の華麗なる円満離婚計画
鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。
両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。
ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。
その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。
逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!