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第二章:契約結婚? いえ、雇用関係です!(3)
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イリヤはマリアンヌの部屋を出て、寝室へと戻る。
困ったことに、イリヤはこの部屋しか知らない。二人の寝室がイリヤの部屋になるのだろうか。とりあえず昨日は休むためにあそこを案内されただけだったのだろうか。
「……あっ。おはようございます」
寝室に入ると、ちょうどクライブが目を覚ましたところだった。むしろ、イリヤが部屋に入った物音で目が覚めたのだろう。
その無防備な姿に、イリヤは目を丸くする。
「おはよう……昨日は、すまなかった……」
「え?」
クライブが素直に謝罪した。その事実にやはり驚きを隠せない。
「チャールズにこっぴどく叱られた」
そんな彼がちょっとだけ幼く見える。前髪が下がっているせいだろうか。眼鏡をかけていないせいだろうか。
第一印象が印象なだけに、目の前の彼がキュウッと心臓が締め付けられるほどかわいく見えた。だが、困ったことに彼は服を着ていない。ちょっとだけ目のやり場に困ったため、少しだけ顔を逸らした。
「どうされたのですか? 急に謝罪などをして」
「いや……。結婚した男女はその日のうちに契り合うものだと思っていたのだが、どうやらそうではないということをチャールズから聞いた。だから、申し訳ないことをした」
今のクライブの言葉には引っかかるものがある。
その日のうちに契り合う。つまり、身体を重ねるという意味であるが。
想い合って結婚した男女であれば、そうなってもおかしくはないだろう。だが、イリヤとクライブは契約結婚みたいなものである。それをわかっているのだろうか。
「ええと。誰からお聞きになられたのですか?」
眼鏡を差し出しながらイリヤは尋ねる。
「何をだ?」
眼鏡を受け取ったクライブがそれをかける。がらりと彼の雰囲気が異なった。
「結婚した男女はその日のうちに契り合うって。まぁ、昨夜は私たちにとっては初夜と呼ばれる日であったかもしれません。ですが、出会って十時間の相手に身体を許すだなんて、私には無理です。私としては、身体が結ばれるよりも先に、心をわかり合いたいのです」
「イリヤは、昨夜もそう言っていたな。だからオレを好きになれと言ったのだが」
またそういうことをしれっと口にする。
「閣下。好きになれと言われたからって、好きになるものではありません」
「だったら、オレが嫌いなのか?」
「うっ……」
嫌いかと問われると、嫌いではない。何よりも、彼はある意味、命の恩人だ。
「……嫌いでは、ありません」
「てことは好きなんだろ?」
「それは……あ、あれですよ。好きでもない、嫌いでもない。普通です」
「普通……このオレが普通だと?」
「そうです、普通です。ですから、こうやって一つ屋根の下で暮らすのは苦痛ではありません」
ところで、とイリヤは話題を変える。
「さっきの変な情報を、閣下に吹き込んだ方はどなたですか?」
「変な情報?」
「だから。結婚した男女はその日のうちにヤるって閣下に教えた人ですよ」
あまりにも話が遠回りになってしまったので、イリヤも少々いらだっていた。それに一か月も職業紹介所に通っていたのもあって、つい言葉遣いが乱暴になってしまった。
「ヤるって……まぁ、そういう言い方をしていたな。あいつは……」
「そのあいつです。誰ですか? そういう変なことを言った人は」
「エーヴァルトしかいないだろう?」
まさかここで国王の名が出るとは思っていなかった。だが、クライブとエーヴァルトの関係を考えると、あり得ない話でもないのかもしれない。つまり、エーヴァルトはクライブをからかって楽しんでいる。
「今日も、これから陛下とお会いするんですよね?」
「そうだな。オレがいないとあいつは仕事をしないからな」
どんだけなんだ、あの国王は。と心の中で思うのは自由である。
困ったことに、イリヤはこの部屋しか知らない。二人の寝室がイリヤの部屋になるのだろうか。とりあえず昨日は休むためにあそこを案内されただけだったのだろうか。
「……あっ。おはようございます」
寝室に入ると、ちょうどクライブが目を覚ましたところだった。むしろ、イリヤが部屋に入った物音で目が覚めたのだろう。
その無防備な姿に、イリヤは目を丸くする。
「おはよう……昨日は、すまなかった……」
「え?」
クライブが素直に謝罪した。その事実にやはり驚きを隠せない。
「チャールズにこっぴどく叱られた」
そんな彼がちょっとだけ幼く見える。前髪が下がっているせいだろうか。眼鏡をかけていないせいだろうか。
第一印象が印象なだけに、目の前の彼がキュウッと心臓が締め付けられるほどかわいく見えた。だが、困ったことに彼は服を着ていない。ちょっとだけ目のやり場に困ったため、少しだけ顔を逸らした。
「どうされたのですか? 急に謝罪などをして」
「いや……。結婚した男女はその日のうちに契り合うものだと思っていたのだが、どうやらそうではないということをチャールズから聞いた。だから、申し訳ないことをした」
今のクライブの言葉には引っかかるものがある。
その日のうちに契り合う。つまり、身体を重ねるという意味であるが。
想い合って結婚した男女であれば、そうなってもおかしくはないだろう。だが、イリヤとクライブは契約結婚みたいなものである。それをわかっているのだろうか。
「ええと。誰からお聞きになられたのですか?」
眼鏡を差し出しながらイリヤは尋ねる。
「何をだ?」
眼鏡を受け取ったクライブがそれをかける。がらりと彼の雰囲気が異なった。
「結婚した男女はその日のうちに契り合うって。まぁ、昨夜は私たちにとっては初夜と呼ばれる日であったかもしれません。ですが、出会って十時間の相手に身体を許すだなんて、私には無理です。私としては、身体が結ばれるよりも先に、心をわかり合いたいのです」
「イリヤは、昨夜もそう言っていたな。だからオレを好きになれと言ったのだが」
またそういうことをしれっと口にする。
「閣下。好きになれと言われたからって、好きになるものではありません」
「だったら、オレが嫌いなのか?」
「うっ……」
嫌いかと問われると、嫌いではない。何よりも、彼はある意味、命の恩人だ。
「……嫌いでは、ありません」
「てことは好きなんだろ?」
「それは……あ、あれですよ。好きでもない、嫌いでもない。普通です」
「普通……このオレが普通だと?」
「そうです、普通です。ですから、こうやって一つ屋根の下で暮らすのは苦痛ではありません」
ところで、とイリヤは話題を変える。
「さっきの変な情報を、閣下に吹き込んだ方はどなたですか?」
「変な情報?」
「だから。結婚した男女はその日のうちにヤるって閣下に教えた人ですよ」
あまりにも話が遠回りになってしまったので、イリヤも少々いらだっていた。それに一か月も職業紹介所に通っていたのもあって、つい言葉遣いが乱暴になってしまった。
「ヤるって……まぁ、そういう言い方をしていたな。あいつは……」
「そのあいつです。誰ですか? そういう変なことを言った人は」
「エーヴァルトしかいないだろう?」
まさかここで国王の名が出るとは思っていなかった。だが、クライブとエーヴァルトの関係を考えると、あり得ない話でもないのかもしれない。つまり、エーヴァルトはクライブをからかって楽しんでいる。
「今日も、これから陛下とお会いするんですよね?」
「そうだな。オレがいないとあいつは仕事をしないからな」
どんだけなんだ、あの国王は。と心の中で思うのは自由である。
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