このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに

澤谷弥(さわたに わたる)

文字の大きさ
19 / 88

第二章:契約結婚? いえ、雇用関係です!(4)

「では、陛下にお伝えください。夫婦仲は良好であると。陛下が心配なさる必要はまったくございません」

 クライブとイリヤの関係はどうでもいいような発言をしておきながら、なぜかクライブを焚きつけているのがまったくわからない。もしかしたら冗談なのかもしれないけれど、その言葉を真に受けているクライブが、やっぱりちょっとだけかわいい。

「わかった……」

 彼があまりにも素直すぎる。そのギャップに、心が揺さぶられた。
 それを誤魔化すかのように、話題を変える。

「あの……ところで、私の部屋はどちらになりますか? 昨日はバタバタとしておりまして、気づけばこちらの部屋を案内されていたわけで……」
「ああ、そんなことか。扉続きの隣の部屋だ。あの扉の向こう側がイリヤの部屋になるが、誰か呼ぼうか?」

 つまりイリヤの着替えやらなんやらを手伝う侍女を呼ぼうかと言っているのだが。

「ええと、この状態で?」
「この状態? 何もおかしくないだろう?」
「どうして……どうして、閣下は服を着ていないのですか!」

 これではこの部屋でナニが起こったのかと、想像をかきたてられてしまう。まったくもって、ナニもないというのに。

「ああ、そんなことか……。オレは、寝るときは何も着ない」

 もしかして昨日、あの場でシャツを脱いだのは、寝るためだったのでは。いや、だがあのタイミングは悪すぎる。

「下も?」
「安心しろ。下は履いている」

 そう言って前髪をかきあげる仕草に、自然と目を奪われた。無駄に顔がいい。あの国王の宰相なのだから、ある程度見目も重要視されるのだろう。
 だけど、彼が寝台から降りようとするのは、必死で止めた。いくら下だけは履いてようが、イリヤにとっては目の毒である。

「安心できません。今日からは、きちんとシャツを着て眠ってください。それから、閣下が寝台から出るのは、私が向こうの部屋にいってからです」

 イリヤはぷんすかと怒りながら、隣の部屋に向かって歩き出す。

「……イリヤ」

 その背をクライブに呼び止められた。ここで無視をするのは大人げない。

「なんでしょう」

 振り返らずに声をかける。

「朝食は食堂で一緒にとろう。迷惑か?」
「いえ、迷惑ではありません。家族であればそれが自然なことかと。では、すぐに着替えてうかがいます」

 イリヤはすたすたと部屋に向かった。
 扉を開けて部屋に入り、閉じた扉に背を預けてずるずると座り込む。

 顔が熱い。あのギャップは卑怯だ。それに、無駄に引き締まっているあの身体。文官のくせに。
 そのまま何度か深呼吸をして、気持ちと心臓が落ち着いたところでベルを鳴らす。

「おはようございます、奥様」

 昨日、イリヤ付きの侍女として紹介されたサマンサがやってきた。

「おはよう、サマンサ。着替えをしたいけれど。よく考えたら、私、ドレスとか持っていないのよね……」

 サブル侯爵家で住み込みで働いていて、そこをいきなり追い出された。だからドレスは持っていない。黒や紺の地味なワンピースと、動きやすいショートスカートのワンピースとその上に着るボディスくらいしかない。

「ご安心ください。旦那様から伺っておりますので、既製品ではありますが、いくつか取りそろえてあります。また、本日は仕立屋を呼びました」

 さすがあの宰相閣下は根回しがいいようだ。

「本日は、こちらのお召し物などいかがでしょう」

 まるで森林浴をしているような気分にさせられる色合いである。深い緑色でありながら、どこかやわからい感じがする。

 だがイリヤは気がついた。このドレスの色は、クライブの瞳の色に似ている。けれども、ここでこのドレスを拒むのも不自然だろう。

「ええ、それをお願い」

 ドレスを着付けてもらい、髪も結い上げてもらう。髪はこちらのほうがマリアンヌを抱っこしたときに、邪魔にはならない。

「食堂にご案内いたします」
感想 33

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【完結】魔王様、逃がすわけないでしょう?

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
「あの人はどこに逃げやがりましたか」  怒りを滲ませて、私アスタロトは魔王を捜しまくる。毎日懲りることなく、仕事を放り出して単独で出歩く魔王ルシファー様を追いかけた。  魔王即位から千年余り。魔王の地位を争った実力者は、全員、ルシファー様の部下となった。魔王を支える大公の地位を得て、ベールやベルゼビュートと並び称される私は彼の補佐官をしている。  実力はあるが、どこか抜けている主君は今日も騒動を引き寄せる。後始末ばかり押し付けて、あなたという人は! 捕まえて、今日こそ反省していただきます。  ※魔王様シリーズの最新話ですが、時間軸は初期になります。外伝に近い形で、主役はアスタロトです。リリスやルキフェルは出てきません。単独で楽しめるよう頑張ります(´▽`*)ゞヶィレィッッ!! シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2025/05/19……完結 2025/03/14……エブリスタ、トレンド1位 2025/03/13……連載開始

おひとりさまの準備してます! ……見合いですか?まぁ一度だけなら……

松ノ木るな
恋愛
 ストラウド子爵家の長女・エレーゼ18歳はお父様が大好きだ。このままお父様と同じ屋敷で暮らし、いつかお父様を私が看取る、そんな将来設計があるので結婚はしたくない。だがこれでも貴族令嬢、そういうわけにもいかなくて。  ある日、仕方なく見合いに赴くことになったのだが。  見合い相手はプラチナブロンド煌めくひたすら優美な王子様、いや辺境伯の跡取り息子。  見た目も家柄もファビュラスなのに、彼は今までことごとく見合い相手に断られ、挙句エレーゼのところに話が回ってきたという訳あり物件。  この話、断る? 断られるよう仕向ける?  しかし彼は言ったのだ。「こちらの条件のんでくれたら、結婚後、自由にしていい」と。つまり、実家暮らしの妻でOKだと!  名を貸し借りする程度の結婚でいいなんて。オイシイじゃない? で、条件とは何ですの?  お父様だけがもつ“私への無限の愛”しか信じない令嬢エレーゼが、何を考えているのだかよく分からない婚約者エイリークと少しずつ絆を深めていく、日常みじみじラブストーリーです。    ※第4話④⑤、最終話⑧⑨は視点を切り替えてヒーローサイドでお送りしております。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。