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第五章:それは追加契約になります(2)
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その結果、マリアンヌをクライブの養女とし王城で世話をしていたのだが、彼女の世話をしていた者が一人、また一人と弱音を吐いていく。
さまざまな伝手を使って、魔力が高く、赤ん坊の世話をできるような者を探したが、見つからなかった。職業紹介所にも求人を出した。ただし、魔力の高いものだけがわかる方法をとって。
その結果、見つかったのがイリヤである。彼女の噂はちらほらと耳には入っていた。それを信じていたかどうかと問われると、何も気にしていなかった。そういった噂があると知っていただけ。
もちろん本物のイリヤは噂とは異なる女性であり、クライブは彼女と結婚までしてしまったが。それも、初めて会ったときに興味が沸いたからだ。
門番の騎士に啖呵を切り、あれだけ手を焼いたマリアンヌを手懐けている。魔力も申し分なく、魔法を容易く使う。
これだけ能力のある魔法使いを、野放しにしてはならないという想いもあったのかもしれないが、それよりもイリヤという女性をもっと知りたいと思ったのだ。だから、彼女と一緒になったのが、それも悪くはない。
ただ、結婚生活の流れというものがわからず、初日から大失敗してしまったわけだが。
「……んっ」
毛布を引き寄せて、彼女が身じろいだ。これはそろそろ目が覚める動きでもある。
彼女との結婚生活を続けるためには、心をわかり合わなければならない。その心が難しい。
彼女の瞼がひくひくと動いて、ラベンダー色の瞳が現れた。
「おはよう」
「……っ」
目が覚めると、すぐに人の顔を見て驚くのだ。けしてクライブが寝込みを襲ったとか、そういったことをしたわけではない。イリヤが勝手に寄ってきて、勝手にひっついて眠っているだけだというのに。
「……おはよう、ございます。えぇと、私は今日も?」
「今日もというか、ほぼ毎日だろう?」
「ご迷惑をおかけしております……」
そう彼女は口にするが、クライブとしては迷惑だとは思っていない。なんだかんだで毎朝のこのやりとりすら、楽しみになっている。
「昨夜は、すまなかったな。いきなりで驚いただろう? それよりも、身体は辛くないか?」
ぽっとイリヤの頬が紅色に染まる。
「やはり、熱でもあるのか?」
「ち、ち、違います。大丈夫です……閣下、その……少しだけ離れていただけませんか?」
無意識のうちに彼女の身体を抱き寄せていた。その手を離すと、イリヤは毛布の中で距離を取った。
身体の調子は良さそうだ。いつもの彼女である。
昨夜、イリヤには聖女の身代わりを頼んでしまった。もちろんイリヤは動揺してあたふたし始めたのだが、それよりも隣から助けを求める声があがった。
よくわからないが、マリアンヌが大泣きして暴れていた。魔力が暴走して、部屋中のものをひっくり返していた。
すぐさまイリヤはマリアンヌの元へと向かったのだが、そのとき、マリアンヌの魔力を抑えるために、イリヤもだいぶ魔法を使ったようだ。
マリアンヌがぐずぐず言いながら眠り、部屋を元通りにしたときには、イリヤもぐったりとして自力で歩くのもままならない状態であった。それをクライブが抱き上げて、部屋にまで運んできたわけだが。
「わ、私。マリアンヌが心配なので、様子を見てきます。聖女身代わりの件は……少しだけ考えさせてください」
「ああ。イリヤが引き受けてくれるのであれば、もう少し詳しい話をする。だが、無理してまで引き受ける必要はない」
「……はい」
寝台からしゅるっと下りて部屋を出て行く彼女の背を見送った。
さまざまな伝手を使って、魔力が高く、赤ん坊の世話をできるような者を探したが、見つからなかった。職業紹介所にも求人を出した。ただし、魔力の高いものだけがわかる方法をとって。
その結果、見つかったのがイリヤである。彼女の噂はちらほらと耳には入っていた。それを信じていたかどうかと問われると、何も気にしていなかった。そういった噂があると知っていただけ。
もちろん本物のイリヤは噂とは異なる女性であり、クライブは彼女と結婚までしてしまったが。それも、初めて会ったときに興味が沸いたからだ。
門番の騎士に啖呵を切り、あれだけ手を焼いたマリアンヌを手懐けている。魔力も申し分なく、魔法を容易く使う。
これだけ能力のある魔法使いを、野放しにしてはならないという想いもあったのかもしれないが、それよりもイリヤという女性をもっと知りたいと思ったのだ。だから、彼女と一緒になったのが、それも悪くはない。
ただ、結婚生活の流れというものがわからず、初日から大失敗してしまったわけだが。
「……んっ」
毛布を引き寄せて、彼女が身じろいだ。これはそろそろ目が覚める動きでもある。
彼女との結婚生活を続けるためには、心をわかり合わなければならない。その心が難しい。
彼女の瞼がひくひくと動いて、ラベンダー色の瞳が現れた。
「おはよう」
「……っ」
目が覚めると、すぐに人の顔を見て驚くのだ。けしてクライブが寝込みを襲ったとか、そういったことをしたわけではない。イリヤが勝手に寄ってきて、勝手にひっついて眠っているだけだというのに。
「……おはよう、ございます。えぇと、私は今日も?」
「今日もというか、ほぼ毎日だろう?」
「ご迷惑をおかけしております……」
そう彼女は口にするが、クライブとしては迷惑だとは思っていない。なんだかんだで毎朝のこのやりとりすら、楽しみになっている。
「昨夜は、すまなかったな。いきなりで驚いただろう? それよりも、身体は辛くないか?」
ぽっとイリヤの頬が紅色に染まる。
「やはり、熱でもあるのか?」
「ち、ち、違います。大丈夫です……閣下、その……少しだけ離れていただけませんか?」
無意識のうちに彼女の身体を抱き寄せていた。その手を離すと、イリヤは毛布の中で距離を取った。
身体の調子は良さそうだ。いつもの彼女である。
昨夜、イリヤには聖女の身代わりを頼んでしまった。もちろんイリヤは動揺してあたふたし始めたのだが、それよりも隣から助けを求める声があがった。
よくわからないが、マリアンヌが大泣きして暴れていた。魔力が暴走して、部屋中のものをひっくり返していた。
すぐさまイリヤはマリアンヌの元へと向かったのだが、そのとき、マリアンヌの魔力を抑えるために、イリヤもだいぶ魔法を使ったようだ。
マリアンヌがぐずぐず言いながら眠り、部屋を元通りにしたときには、イリヤもぐったりとして自力で歩くのもままならない状態であった。それをクライブが抱き上げて、部屋にまで運んできたわけだが。
「わ、私。マリアンヌが心配なので、様子を見てきます。聖女身代わりの件は……少しだけ考えさせてください」
「ああ。イリヤが引き受けてくれるのであれば、もう少し詳しい話をする。だが、無理してまで引き受ける必要はない」
「……はい」
寝台からしゅるっと下りて部屋を出て行く彼女の背を見送った。
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